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科学的事実は鉄壁?

たまに科学者のことを「科学教信者」と揶揄する人に出会います。
 
科学で「証明」されたことを信じているだけだ、と言いたいのでしょう。
 
確かに、そう言われても仕方ない人もいるにはいますがね。


「太陽は東から」は証明されたのか?

そもそも科学は何ものも「証明」などしない。
 
例えば明日の朝太陽は間違いなく東から上るでしょう、今までと同じように。
 
くる日もくる日もくり返されるこの現象について、太古の昔は太陽神が船に乗って地球の周りを周回している、などといった解釈を当てていました。
 
その後、観測技術の向上により、皆さんご存じのようにそれは地球と太陽の位置関係や相対運動で説明できるようになりました。
 
船旅している神様だとすれば、ひょっとしたら「よし、明日は西から出てやろう」なんて気まぐれを起こすかもしれません。
 
が、実際太陽が西から上ることはない。
 
たとえどんなに神様が気まぐれで、へそ曲がりで、あまのじゃくであったとしても。
 
‥いや、そもそも太陽は船に乗った神様などではなかったのだが。
 
なぜ私たちは、明朝太陽が西から上ることはないと確信できるのか?
 
それは、地球の自転が突然逆回転することがないことを知っているから。
 
自転とは、北極点と南極点を結ぶ軸の周りを、1日に1回転する運動ですね。
 
運動の法則の一つとして、運動はそれを妨げる力が働かない限り、同じ運動状態を続ける、というのがあります(慣性の法則)。
 
これは回転運動にも当てはまります。
 
でも実際に机の上でコマを回すと、それはだんだん遅くなりやがて止まってしまいますよね。

一見すると、慣性の法則が破れているように見えますが、これは空気の抵抗とかコマの軸と机表面との摩擦といった、コマの回転を妨げる力が働いているから。
 
一方、宇宙空間で回転する地球には、机上のコマとは異なり、そのような妨げる力はないので(厳密に言うと少しはある)、太陽系の形成過程で始まったこの運動が今でも続いています。
 
太陽の運行は地球の自転によること、そして地球の自転運動を一日で逆回転させるほどの莫大なエネルギーを持った力が宇宙空間には存在しない。

そのことを私たちは知っているから、明日も太陽が東から上るであろうと。

真実は必ず条件付き

これ、逆に言うと仮にそのような莫大なエネルギーを持ったものがあれば、自転の逆転もあり得る、ということ。
 
科学的に明らかになった真実って、このようにいつでも「条件付き」なんですね。
 
前提となる条件やら仮定やらが実は大事なのに、そこをすっ飛ばしていつでも成り立つ真理として教典のように祭り上げる、これがまさに「科学教」。
 
実験や観測で得られた科学的知識も、前提条件が破れれば必ずしも真実とは言えなくなる。
 
地球の自転を逆転させるほどの力が宇宙には存在しない、という前提はおそらく破られないでしょうね、今すぐには。
 
しかしこの前提条件の破れやすさもケースバイケースで、実験技術の進歩でそれまで達しえなかった強度の磁場が実現すると、例えば電波を当てるだけで電子の回転の向きを逆転させたりできるようになるわけです。
 
電子の自転の反転は、地球のに比べたらはるかに簡単。

科学で明らかになった真実も、それが正しいためには条件があるよとか、何がしかの仮定を前提とした上での話だよ、とかを常に意識することが大事です。

では改めて、ある日突然太陽が西から上るにはどんな前提条件が崩れる必要があるのでしょうね(頭の体操に)?

科学の土台を揺るがす科学者の素行不良

ダイヤモンドオンラインに気になる記事が出ていました。
 
タイトルはちょっと長めだけど、
「『”予知能力“を科学的に証明した』と主張した科学者‥そのお粗末な研究ぶりとは?-あなたが知らない科学の真実」(※)。
 
内容をかいつまんで言うと、米・コーネル大学の心理学者・ベム教授が予知能力に関する研究を行い、一流の学術誌に発表した、と。
 
その実験とは、
 
「被験者の前に画面が置かれ、その画面には互いに関連性のない40個の単語が1つずつ表示されます。
 
その後、表示されたと思う単語をできるだけ思い出して書いてもらう。
 
最後に40個中20個の単語をコンピュータが無作為に選択し、画面に表示。」
 
で、終わり。
 
最後の20個の単語を表示というのは、ただ表示して終わりなだけ。

それについて被験者に何かしてもらう訳ではない、見るだけ。
 
この実験結果のポイントは、被験者が記憶を呼び覚まし、それ以前に表示されたと思う単語を書き下した中に、その後に表示される20個がより多く含まれていた、ということ。
 
つまり、これから見ることになる単語を、よりよく「覚えて」いる傾向があった、と言うのです。
 
これは、報告者ベム教授によれば、書き出す時点で、その後に見せられる単語を予知していたことの証左なのだ、と。
 
この結果は大変話題になり、一般のメディアでも大々的に取り上げられたらしい。

「らしい」というのは、私自身は知らなかったから。
 
まあでも、予知能力を「証明」したと言うのだから、それなりに騒がれたのでしょうね。
 
もしこの結果が本当なら、私たちが現状手にしている自然科学や、脳の機能、特に認知機能に関する知識に大変革が求められるでしょう。

この記事のライターであるリッチーさんも実は心理学の研究者。

早速この実験の追試を行ってみました。
 
結果はネガティブ。
 
予知能力を示す何らの結果を得ることはできなかった、という当たり前の結果に。
 
当たり前すぎてつまらないかも知れないけど、センセーショナルに報じられた予知能力実験を否定するという、これはこれで重要な結果と言えます。
 
が、こともあろうにベム教授の予知能力実験を掲載した当の学術誌、リッチーらの追試実験については掲載を拒否。

科学的真実は「鉄壁」などではない

編集長曰く、同じ実験については最初の結果だけを掲載し、追試などその後に行われた同じ実験については、結果が同じであろうとなかろうと一切掲載しない方針だ、とのこと。
 
現代物理の定説を覆す結果が得られたという事実は重大です。
 
人間の予知能力を示す結果が瑕疵のない事実だとしたら、理論の大変革が求められるでしょう。
 
それ程の一大事であることは、その後のメディアでの報じ方でも一目瞭然であり、この辺の事情は編集長もよく認識しているはず。
 
だとしたら、その実験結果は本当に再現性のあるものなのかを確かめること、そのためにも実験設計上のミス、実験のシーケンスや記録時のミス、装置の異常、偶然性の関与する余地、実験者や被験者の認知バイアスの入る余地、不正行為の可能性などを確かめることが重要なのは当然です。
 
そして、結果から言うとこの時は、ベム教授の不正行為、もしくは最低でも科学者としてのリテラシーに欠ける意識が原因だったのです。

当人によれば、「得られたデータが再現性のあるかどうかは問題ではない、厳密さを意識するほど自分には忍耐力がなく、自分の主張を裏付けるようなデータのみの収集に専念した」、とのこと。
 
一言で言って、科学者としては最低ですね。

科学で明らかになったことが実は絶対視できるものではなく、条件付き、仮定付きでのみ正しい、はまあ受け入れたとしても‥。

かくのごとく意図してウソをつく科学者もいるという、これもまた現実。
 
ベム教授の実験について記事を書いたリッチーさんはその記事の冒頭で、
 
「鉄壁の事実を報告したはずの科学が、一体なぜミスを犯すのか?」
 
と問いかけます。
 
一つの論文、一つの実験結果に「鉄壁の事実」を求めること自体が間違いなのかも知れません。
 
以前、私のブログで、デマを吹聴する物理学者の例を挙げました(※2)。
 
科学者とて人の子、当座の研究費や名声のために魂を売ることもあるでしょう。
 
残念ですが、そういうこともあると心にとめて、科学記事を見る必要があります。
 
(ベム教授は予言実験で嘘をつきましたが、実は再現性が一定認められる予言実験と言うのもあります。それについては後日紹介しましょう。)
 
(※)https://diamond.jp/articles/-/338149
最終更新日:2024年2月5日
最終確認日:2024年2月7日
 
(※2)「デマを吹聴する『理論物理学者』保江邦夫」
https://note.com/parasitefermion/n/n057798f65487?sub_rt=share_pw
 

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