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左利きは短命?

2022年6月7日、横浜DeNAベイスターズの左腕・今永昇太投手が交流戦・日ハム戦でノーヒットノーランを達成しました(写真は別人物)。

途中センターライナーになりそうな強烈なピッチャー返しを、腕を伸ばして自ら好捕する場面も。

素晴らしい記録です!

一方、日本人一憶二千万人が大好きな我らが阪神タイガースはこの日6連勝達成。
来年はやってくれるでしょう(早!)。

「左利きは早死にするんですよ」

この今永さん、中日スポーツの報道によると「左利きは早死にする」と発言したとか。

「世の中あらゆる物が右利き用に作られているから、左利きは自動改札を通ったり、自動販売機で買ったりするだけでストレスがかかる」から、と。

その時たまたま記者のそばにいた記者さんの息子の手を取り、「右利きにな~れ」とおまじないをかけてくれた、とも。

果たして左利きはストレスが多くて短寿命、は本当でしょうか?


改札について言わせてもらえば、私は右利きですが、パスモは左手に持って(右手で取ったとしても持ち替えて)、左手で右側にある改札機にタッチしています。

なんでわざわざそんなことを、と思われるかもしれませんが、個人的にこの方がやり易い。

「右手で右側にタッチ」ってやりにくくないですか?

本当なのか?左利き短命説

まあそんなことはともかく、この左利きストレス説はどうやら今永さんオリジナルではなく、世間一般に流布している模様。

有名なのは、ピッツバーグ大学物理学者B. L. CohenとI-S. Leeの研究(*)。

その中では寿命を縮める様々な要因が、統計データと共に示されていますが、左利きについてはなんと約9年、寿命が短くなるという結果です。

統計学の権威、ペンシルベニア大学名誉教授のラオは、「遺伝の作用ではなく、ほとんどの日常品が右利き用に作られていることによると思われる」と、今永さん同様のコメントをしています(※2)。

そうかもしれませんが、原因を特定するにはこの統計結果だけでは不十分で、憶測の域を出ませんね。

別の研究が必要になるでしょう。

統計は、物事の因果関係の洗い出しに対し有力な武器になりますが、読み誤る危険性もあります

例えば同じこの論文中で、未婚の女性は既婚の女性より約4年、未婚の男性に至っては既婚の男性より10年くらい寿命が短い、という結果が出ています。

これなんかは、ラオも指摘するように、未婚だから寿命が縮む(結婚すれば寿命が延びる)というよりも、短寿命になりやすい年収・生活態度・習慣・持病・不安定な職種などに関わる人は結婚も難しい、という逆の因果の方が成立していそうです。

本当に改札が通りにくい(私はそうは思わない)くらいの要因で、寿命に変化が生じるのか?


心臓が左に寄っているから左利きは感電死しやすい?

厚労省「最近の感電死亡災害の分析」(2015年)によれば、2004年~2013年の10年間の感電死亡者数は年間辺り5~28人でほぼ横ばい。

1974年が203人だったころから比べると2000年ぐらいまでにかけてずっと減ってきました。

漏電遮断器などの安全装置の普及や安全意識向上などによるのでしょうが、問題なのは、たとえこの人数がすべて左利きだったとしても、平均寿命を押し下げるほどの影響が出るとは思えません(2020年の死亡者数は137万人)。

そもそも心臓は左に寄っていると言っても、ほぼ真ん中ですよね。

インパクトのある仮説は定説の顔をする

実は「左利き短命」説は、現代ではほぼ否定されているようです(CohenとLeeの論文は1979年のモノ)。

新説・仮説は追試を受けてその是非が問われていく、科学進展の王道ですね。

だけど、正確さと注目度は別問題。

「左利きは短命」説、儲かるんでしょう。
今でもバラエティとかで「専門家」が口にしています、残念ながら

差別の対象は少なすぎず多すぎず。

左利きは人口比率10パーセント、というのも絶妙なのかもしれません。

という訳で私は安心して、改札は左手で通ります。

※Cohen, B. and Lee, I. S. (1979) : "A catalog of risks", Health Physics 36, 707
※2C. R. ラオ「統計学とは何か」ちくま学芸文庫(原著1997)

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