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光市「おっぱい都市宣言」のヤバさ

あなたは母乳で育ちましたか、ミルクで育ちましたか?
 ご自分のお子さんは、どちらで育てたでしょうか?

私自身は100%粉ミルクだったようです。
理由は聞いてないし今となっては聞くすべもありません。
しかしそれについてとやかく言うつもりもなく、母に対してはありがとうの一言、ただそれのみ。

母乳授乳の利点

お母さんが赤ちゃんに授乳するとオキシトシンというホルモンが分泌されます。

それにより、

1)     産後の母体の回復を促す(※)
2)     心理的ストレスや不安、ネガティブな表情認識を低減し(※2,4,5)
3)     乳児に対するポジティブな感情や大人の幸せな表情の感情認識を高める(※3,4,5)

といった、様々なポジティブな効果が誘発されることが知られています。

メリット・デメリットを広くとらえる

本来価値判断を伴わないこのような中立的な科学的知見も、一旦科学の外に出ればある種の価値を帯びて独り歩き。

近年では母親に対する産院側からの母乳育児の働きかけも行われているようで、出産後30分以内に母乳を飲ませる、母子同室などの対策がなされているようです(※6)。

その結果、母乳で育てたいと思う母親は増加しているようですが、当然ですね。

しかし、ミルクにメリットがないかと言うとそうでもありません。

まず父親が授乳できる。
父親だけでなく祖父母や兄妹など、赤ちゃんを抱っこして授乳する楽しみを分かち合えるのは大きなメリットではないでしょうか。

育児を協力し合う良いきっかけにもなるでしょう。

母乳より腹持ちが良いので、お母さんの睡眠時間や休息の時間確保につながるでしょうし、母親が食事に気を遣う程度も軽減されるでしょう。

ビタミンのバランスが良いので、ビタミンDやKが不足がちになるといった母乳のデメリットが無くなります。

どちらかにこだわらず、母乳をベースにしつつ必要に応じてミルクをといった混合授乳という柔軟なやり方もあります。

母胎内と異なり、外の世界は細菌やウイルスがたくさん存在します。
それらから赤ちゃんを守ってくれる免疫成分は母乳にだけ含まれるので、この混合授乳という選択肢はなかなか良いのではないでしょうか。

真実は普遍的、価値は時と場合による

要は、母乳授乳、ミルク授乳、混合授乳それぞれに良さがある、ということ。

どれを良しとするかは個々のお母さんの生活環境、体の状況、価値観などによって変わります。

赤ちゃんが飲む以上の量の母乳があふれ出てしまうお母さんもいれば、頑張っても少ししか出ないお母さんもいます。

もちろん母親の愛情は、授乳方法で決まるものではありません。

心に余裕を持ち、笑顔で赤ちゃんと接することができることこそが重要であり、外側から「こうであるべき」と特定の価値観を押し付けるのは誤りと言えるでしょう。

本ブログ「行き過ぎた自然主義」でも述べた通り、科学的真実と価値の判断は峻別されるべきものなのです。

「おっぱい都市宣言」の意義とは?

山口県光市では2005年、「おっぱい都市宣言」を決議しました。

市のHPによれば、合併前の1995年に最初の決議をしており、またこの動きの始まりは1976年までさかのぼるそう。
粉ミルクに対置する形で母乳栄養の重要性に着目し市民への周知を図ってきた、とのこと(※7)。

「子育てをお母さん、お父さんだけでなく、地域のみんなで進め‥」という部分は良いと思います。

しかし「すべての母親のおっぱいが‥赤ちゃんに与えられるよう手助け」

とか、

「おっぱいを尊び、偉大なる母を皆で守ります」

とまで言われると、どうなんでしょう?
 
母乳が神格化されていませんか?

仮に科学的に母乳のミルクに対する優位性が明らかとなっていたとしても、前述のとおり個々のお母さんにとっての母乳かミルクかの選択には、科学以外の複雑な要因が絡んできます。

その上での判断、となるでしょう。

そして実際にはこれまた前述のように、科学的にも母乳、ミルクそれぞれに長短さまざま。
個人の事情もこれまたさまざま。

である以上、「母乳よし」で、宣言まで出して自治体が母乳推しになるの、ちょっと違うんじゃないですか?

私にはこれが、自然主義の誤謬の轍を踏んでいるような気がしてならないのです。
 
(※)榊原洋一著 2004年7月30日発行 寝ない・食べない・泣きやまないはこうすればOK!ママの「育児3大悩み」解消BOOK 日本文芸社
 
(※2)Groer MW. 2005Differences between exclusive breastfeeders, formula-feeders, and controls: a study of stress, mood, and endocrine variables. Biol. Res. Nurs. 7, 106-117.
 
(※3)Wiesenfeld AR, Whitman PB, Granrose C, Uili R. 1985Psychophysiological response of breast- and bottle-feeding mothers to their infants' signals. Psychophysiology 22, 79-86.
 
(※4)Krol KM, Kamboj SK, Curran HV, Grossmann T. 2014Breastfeeding experience differentially impacts recognition of happiness and anger in mothers. Sci. Rep. 4, 7006.
 
(※5)Matsunaga, M., Kikusui, T., Mogi, K., Nagasawa, M., Ooyama, R., & Myowa, M. (2020) Breastfeeding dynamically
changes endogenous oxytocin levels and emotion recognition in mothers. Biology Letters, 16(6):20200139.
 
(※6)https://point-g.rakuten.co.jp/educare/articles/2018/baby_suckle/
最終更新日:2018年12月13日、最終確認日:2023年2月15日
 
(※7)https://www.city.hikari.lg.jp/soshiki/6/kodomo/kosodate/1/oppaitoshi/1069.html
最終更新日:2020年3月2日、最終確認日:2023年2月16日

(※8)後日光市への問い合わせに対し回答がありました。
曰く、宣言文中の「おっぱい」は乳房でも母乳でもない、と。
「『おっぱい』という言葉は、胸で抱きしめること、ふれあいの子育ての象徴」だそうです。

サイト全体を見ると、この説明は大変わかりづらい、苦しい。
後付けじゃないですか?
「すべての母親のおっぱいが‥赤ちゃんに与えられるよう手助け」、
この文言から、「おっぱい」に対するこのような市側の説明を連想できます?

「胸で抱きしめること、ふれあいの子育て」と言うなら、なぜ母親限定?

運動の契機として昭和51年ころから話を始めていますが、「当時は粉ミルク全盛の時代」云々とあり、「その後母乳栄養の重要性について着目し周知を図って宣言に至った」旨記載があります。

この流れで「おっぱい育児」と言われると、これは母乳の推進なのだなと思うのは自然であり、母乳の推進でないのだとしたらサイト全体がミスリードではないかな?

普通は「おっぱいで育てる」と言えば母乳授乳を意味するのではないですか?

また、両親の育児参画が叫ばれる昨今、ことさら女性の体の部位の名称である「おっぱい」を強調するのは「育児は母親の仕事」という間違ったメッセージを与えるのではないでしょうか?

ミルク授乳の利点の一つは、父親をはじめとした母親以外の家族の育児参加を促すことに鑑みても。

色々な問題をはらむ宣言とウェブサイトだと思いました。

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