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手品で超常現象を否定する論理

そのむかし超常現象を扱うバラエティ番組で、司会のビートたけしがスプーンを力づくで曲げてみせた上で、見せ方によっては力づくではなく、念で曲げたように見せることができることを実演。
 
これに対し超常現象研究家を名乗る超常現象肯定派のコンノケンイチは、次のように反論しました。

贋作のプロにピカソの絵のニセモノを描かせ、そっくりだから「ピカソの絵は偽物だ」ということにはならない。
だから手品師がスプーン曲げをしたからといって、超能力がないとは言えない。

うまいこと言っているような、そうでもないような。


絵画の真贋判定と科学分析

手品師がタネや仕掛けをもって超常現象と同じ現象を起こすことで超常現象を否定すること、
これが、
ピカソの絵のそっくりさんの存在でホンモノのピカソの絵のホンモノ性を否定することにつながる。
 
これは本当でしょうか。
 
絵画の真贋判定、それはまず鑑定士や美術史家が作品スタイル、技法、素材、歴史的な文脈などを評価。
 
ここでは作者の筆致や色使いなどの特徴に独自のスタイルが見られるかどうかがカギとなります。
 
既知のホンモノ作品との、技法やタッチにおける一貫性があるかどうかは特に重要です。
 
作者の署名が確認できるかどうかも問題ですが、署名自体ももちろん偽造可能なので存在するからと言って決め手にはなりません。

来歴も重要ですね。
 
過去の所有者・展示歴・販売履歴を追跡します。
 
当然ながら追跡可能な来歴がある作品は真贋判定の確実度が増します。
 
顕微鏡検査、X線や赤外線による透視映像、化学分析などにより、使用されている素材や技法が調べられます。
 
年代が判明すれば、その時代の技法と一致しているかどうかが判断の分かれ目になります。

再現性と検証の重要性

これに対し超常現象はどうでしょう?
 
その存在性は、科学的な実証性や再現性にもとづいて評価されます。
 
手品師が模倣できる現象を超常現象と認めさせるには、再現性と科学的検証が必要です。
 
トリックで再現できる現象の真実性が疑われる、これは当然なことですね。
 
彼の議論はこの性質の違いを無視したものとなります。

超常現象が「ホンモノ」であることを実証する手続きなしにホンモノ認定することは、贋作者の「これは本物のピカソだよ」発言を鵜呑みにするようなもの。

再現性という点で言うと、超能力ブームを巻き起こしたユリ・ゲラーは気まぐれなことで知られています。
 
2010年代にNHKスペシャルで放映された「超常現象」をご覧になった方は記憶にあるかも知れません。
 
彼は「もう一度やって」というリクエストにほとんど答えません。
 
番組の最後に彼の自宅を訪れた取材陣に対し、かれは台所にあった自分のスプーンを30秒ほどで曲げて見せた。
 
彼の自宅に置いてあった彼の所有するスプーンを彼が曲げても、ほとんどそれは不思議でもなんでもない。
 
例えばさんざん曲げ伸ばししておいて、金属疲労させておくだけでよい。
 
撮影スタッフが用意してきたスプーンをわたし、それを曲げてと頼んだ。
 
うまくポイントを突いたと思う。
 
さっきと同じように曲げてくれれば、金属疲労説は払しょくされるしなるほどなとも思うのだが、残念ながら彼は目くらましの手に出た。
 
彼はやおら部屋を飛び出し別の部屋へ。
 
カメラが追い付いた時にはもうスプーンは曲がっていた。
 
曲げる瞬間は撮影できなかった。
 
彼の行動から察するに「撮影させなかった」のだろう。
 
これでは力づくでてこの原理でも活用して曲げたことを否定できない。
 
もちろん「もう一度」の要請には答えない。
 
彼のパフォーマンスは結局こういうことの連続です。

スタンフォード研究所(現SRIインターナショナル)の調査時も、彼は度々実験を断った。
 
本当にホンモノなのであれば、あえて疑いの目を向けさせるようなそのような仕草はしないでしょう。
 
ホンモノでないのなら‥、まあ仕方ないでしょうが。

証明責任と科学的方法論

証明責任の原則というものがあります。
 
立証責任とも言いますが、科学においてなんらかの主張をする者が負う、主張の正当性を証明する責任ですね。
 
超常現象について言えば、超常現象肯定派は当該現象を、言い方に違いはあれど「これは超常的である」と主張します。
 
一方科学者は一般的に超常性を否定しますが、通常既知の自然法則や現象に基づいて説明できる場合には(手品で再現する場合はこれに相当)、新たな証拠を必要としません。

既知の法則ですぐに説明できない場合、これはひょっとすると大問題。

本当にその現象は存在するのかを、まずは詳らかにしなければならないでしょう。

超常現象そのものの存在が科学的に認められるためには、その現象が再現可能であり、かつ独立した観測者によって検証可能である必要があります。

その上で、新たな法則やメカニズムの探索に向かわなければならないかも知れませんが、それでも既知の科学知識との接続性は重視されなければなりません。

それなしでは、何とでも言えてしまう。

なるべく少ない仮定で説明できる仮説を探索します。

肯定派の主張は、内容において既知の知識との接続性に難があり、あまりにも多くの仮定を設ける必要があるため、一般的にその正当性を証明する責任があるとみなされます。

科学的検証の必要性

肯定派は再現性と検証を提供すれば、メカニズムはさておくとしても現象そのものの正当性は証明できます。

それに対し否定派は、すべての超常現象、特定の超常現象ならあらゆる条件でその現象が起こる事を否定する必要があり、これは実質上不可能です。
 
科学的方法論は仮説の提示、および観測や実験によるその検証を繰り返すプロセスですが、もし超常現象についても科学的に実証しようとするなら、現象そのものの存在だけでなくその背後にある理論を仮説として提示し、その仮説が真であることを実験を通じて示していかなければなりません。
 
そして超常現象肯定派は通常そのようなステップを踏んで論陣を張ることがない、というのが実情です。
 
否定する科学者の側からすれば、その仮説が実証的に証明されていないことを指摘するだけで済み、実際そのように行ってきています。
 
いやむしろ、そこまでも行っていないことの方が多いかも知れません。
 
肯定派の示す仮説なるものが、波動や次元などの実態の不明瞭な言葉をちりばめたつかみどころのないストーリー仕立てに終始し、検証対象となるような仮説の体を為していないことが多いので。

スプーン曲げの例で言えば、手品師がスプーン曲げをトリックで再現できたということは、その現象のメカニズムに対する少なくとも1つの仮説を実証したことになります。
 
それに対し超能力という、現在の科学知識と接続しない仮説に対する科学的な検証はほぼ行われていません。

「宇宙エネルギー」の科学的検証?

別の番組で宇宙気功師を名乗る人物が、気の力で人を歩かせたりプールに落としたりする技を見せていました。
 
番組ではこれを科学的に検証する、と称してこの気功師が「宇宙エネルギー」を照射している被験者の脳波を測定。
 
照射する前は後頭部からしか出ていなかったアルファ波が、照射すると前頭部からも出るようになった、と。
 
測定したNPO国際総合研究機構(私の所属機関でもある!)の河野貴美子は、「普通はこうして周りでしゃべっていると、気が散って前頭部からアルファ波が出ることはない。気の力により前頭部も休めさせられている」と結論付けました。

脳波測定器で測定すると科学的に検証したことになる、というこの番組のスタンスがまず初歩的ミスリード。
 
この映像だけでは周りでしゃべっていたかどうか分からないし、しゃべっていたとしても気が散るほどではなかったかもしれない。
 
時間経過とともに被験者のリラックス感が深まり、アルファ波が前頭部からも出るようになったと考えるのが自然でしょう。
 
アルファ波の広がりと宇宙エネルギーなるものの因果関係を示すなら、宇宙エネルギーのオン・オフとアルファ波の変化とを統計的に比較しなければならない。
 
被験者が一人では、何も結論めいたことは言えるはずもなく。
 
そしていくらなんでも被験者の目の前で気功師が手かざしするのは禁じ手でしょう。
 
そこはカーテンで仕切るなりして視覚的にふさがないと、「いま宇宙エネルギーが来ているな」という視覚情報が心理に影響を与える可能性が高い。
 
もちろん気功師なしのケースも含めなければなりません。
 
そして、この実験はあくまで現象論についてのものであり、やはり科学的に議論するには背後のメカニズムに踏み込む必要がある。
 
そのような仮説提示と検証のステップはここでも踏まれていません。

何度も言いますが、主張する現象が現有知識と接続しない以上、その現象の存在の可否を証明する義務は、メカニズムの証明を含めて、「ある」と肯定する側にあるのです。

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