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カフカと投票率

プラハ生まれの作家、フランツ・カフカの作品に、「ユダヤ人」のキーワードは確かに一つも見出されない。
 
それでも彼自身は、自身がユダヤ人であるという身の上と当時の(今もだけど)ヨーロッパに厳として存在した反ユダヤ的感情との板挟みに、生涯悩み続けていたのは事実です。


反ユダヤ、二つの潮流

20世紀に入り、ユダヤ人への憎悪を助長した思想的背景の一つとして社会ダーウィニズムを挙げることができるでしょう。
 
ダーウィニズムはもちろん生物進化における自然淘汰の影響を説く、チャールズ・ダーウィンの進化論。

このような適者生存論が自然界だけでなく人間社会にも当てはまる、とするのが社会ダーウィニズム。
 
「社会における競争を重視し、勝者は社会への適応力があると認められた成功者いう意味で生存を認められる。
 
自然な淘汰(社会における)を阻害するような政策を施すべきではない。そのために市場経済は極力自由であるべきである」
 
と。
 
貧富の差が生まれるのも淘汰の必然であり、富の再分配などは否定されます。
 
勝者を自認するホリエモンが、政府批判に対し「貧乏人のひがみだ」と目ん玉ひんむいて反発する心理の底流にも、このような発想があるのでしょう。

個人的には、「成功者」がどんな理屈で既得権益を守ろうとしてもそれは人間の性だと思うけど、彼の弁に傾倒し有料メルマガを愛読する熱烈支持者なんかには、「あんた自分の首絞めてない?」と問いたくもなりますが。
 
それはさておき、当時はこれにプラスして優生学の隆盛の影響もあったでしょう。
 
宗教的価値観を元としつつもそこから逸脱した別の価値観、ユダヤ人は精神かつ肉体的に生来欠陥をもった人種であることが科学的に「実証」されたとする価値観の台頭が、大きく貢献していたでしょう。

一般論としても、科学に恣意性が持ち込まれることは往々にしてあること。

この事実を、特にそれに携わる者は肝に銘じなければならない。
 
ネガティブな圧倒的空気感の中で当時のユダヤ人は、ユダヤ人であるという事実を「十字架」のように背負わされて生きるほかはなかった。
 
逃れられない「ユダヤ性」は自虐性・自己嫌悪にカフカを、そしてユダヤ人の多くを陥れたのでした。

投票に行かない心理的背景

私は今日の日本における選挙の投票率の低さの背景に、このカフカ的思考パターンに共通するものがあるのではと思っています。
 
それは一言で言えば、投票なんかしたってなにも変わらないよという諦めのようなもの。
 
自分には現状変更(したいけど)する力などない、あるわけない、という一種の「自虐性」。
 
一部の首長は自分は選挙で選ばれたのだから白紙委任だ、不満を言うな、みたいなことを言う。
 
まず前提として、民主主義イコール多数決でも選挙でもない。
 
投票率があまりにも(50%にも満たないほど)低い状況では、そいつが言うほど代表性を認めてしまってよいのかという別の疑義も浮かばざるを得ないでしょう。

投票に行かないやつが悪い?

ほら、こんなこと言われる余地を与えないためにも、投票に行こうよ!

組織票が反映されやすく少数派が過剰に影響力を持ちやすくなることも懸念されます。
 
投票に行かない行為自体が政治からの疎外感を生み、社会全体での政治的無関心の広がりに繋がりますます投票率が下がる、という悪循環もあるでしょう。

投票率を上げること自体を目的化する

これを描いている現在、東京都知事選挙が行われていますが、見事なまでに無視するテレビ局。

あたかも選挙なんか行われていないかのよう。

週刊誌なんかは割と取り上げているようでもあり、テレビや大手新聞とはカラーの違いを浮き立たせています。

この辺はやはり、選挙から目を背けさせたい支配層の意図が背後にあるのでは、と勘繰ってしまいますがどうでしょう?

投票率を上げる施策としては、投票方法の多様化(インターネット投票を取り入れるなど)や、タウンミーティングやオンラインチャットなどを通じ政治家と市民が直接交流する機会を増やすなどのハード面に加え、政治参加の重要性を学校教育や市民教育などの意識変革への努力も重要でしょう。

知人とナチスのユダヤ人排斥政策、特に収容所での虐殺について話題になった時、彼は「運命だ」と言って容認する発言をしました。
 
目の前で自分の子供が殺されても、彼はそれを運命として受け入れるのでしょうか?
 
変えられない現実の受け止め方の中に、最悪でも極度の理不尽さにどう「落とし前を付けさせるか」に想いを馳せる選択肢を求めない人などいないでしょう。
 
ナチスの行為が人類への罪であるなら、時間も空間も共通性のない現代日本に生きる我々にも、持つべき最低限の想像力はあるはずです。
 
大戦中ナチスに蹂躙された経験も持つフランスのサッカー代表チーム主将・エムバペは、
 
「多様性と寛容、尊重こそがフランスの価値観。分断を生む極端な考えには反対だ」とし、半月後に控えた国民議会総選挙について敢えて「試合よりも大切だ」と発言(※)。
 
現役のサッカー選手としては記事のタイトル通り非常に異例なこの発言。
 
それだけ強い思いを込めての意思表示なのでしょう。

民主主義を窒息させないために、手放さないために。

やれることをやろう。

(※)エムバペ選手「選挙は試合より大切」 フランス下院選で異例呼びかけ
https://www.asahi.com/articles/ASS6K2R1CS6KUHBI009M.html
最終更新日:2024年6月17日
最終確認日:2024年7月3日

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