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学士会は疑似科学に手を貸すのか

学士会は、国立七大学の卒業生・学生・教員からなる合同の同窓団体であり、会員数約5万人の一般社団法人。
 
その本拠地・学士会館は1928年神田錦町に創建され、国の有形文化財にも登録された由緒ある建築物です。
 
老朽化と耐震性の問題から2024年いっぱいで一旦営業終了し、全館改修へ。
 
歴史的価値の高い部分を耐震化・保存しつつ新たなビル建設を行い2029年竣工の予定、だそうです。
 
歴史を感じさせる現会館、一度目にされてはどうでしょうか。


学士会で大手を振るのは‥

この学士会、医学博士・帯津良一の記事を一定期間その会報にて連載し、また講演会を開催するなど重用してきました。
 
内容は自然治癒力を活かしたがん治療など。
 
氏は日本メディカルホメオパシー学会(JPSH)の理事長であり、ホメオパシー推進論者(※)。
 
このホメオパシーには、標準医療の立場から懸念が表明されています(※2)。
 
ホメオパシーは、効用があると称する植物片などを希釈した水を含ませた砂糖玉(レメディ)を服用させる治療法。
 
上述の日本医学会のサイトにもあるように、その希釈度はもっとも一般的なもので10の60乗倍と、水の中に「薬効」成分の分子が一つもなくなるほど。

例え当該物質に効用があったとしても、原理的に「効く」はずはありません。
 
JPSHではこれについての説明はなく、ただ「科学で説明することはできません」とするのみ。
 
一方帯津のクリニック(※3)のサイトでは、

「薬剤の情報あるいはその物理的エネルギーが残り、それが身体のエネルギーと共鳴し反応がおこる」

とし、また別団体・日本ホメオパシー医学協会(※4)のサイトには、

「水にパターンのようなものが残っているため、体内の症状に共鳴し、自己治癒力の活動を発動させるきっかけを与える」

などといった説明があります。

残念ながら、これらは科学的裏付けのない言明です。
 
と言うよりも、「物理的エネルギー」、「パターンのようなもの」とはどういうものなのか、「身体のエネルギーと共鳴」、「症状に共鳴」とは具体的に何がどうなることを指すのか等、私には何を言っているのか分かりません。
 
疑似科学によく出てくる「共鳴」のキーワードを含め、単なるイメージ戦略なのでは、と強く推察されます。

科学としての問題点

水をしみこませた砂糖玉だけなら、効用がない代わりに毒にもならないから問題ないと思われるかもしれません。

しかしそのようなものでも当然有料であり、彼ら売る側は利益を得ます。
 
プラシーボ効果(偽薬効果)はあるかも知れません。
 
しかしそれは薬効ではない上に、そうだとすればやはり上述のように何らかの科学性をもってレメディの効用を説明するのは問題です。
 
また、ホメオパシーはホメオパシーの正当化のみならず、標準医療の批判と、患者を標準医療から遠ざける(それが有害だとして)動作を同時に行う傾向があります。
 
これは、科学としての医学と治療の観点から大変重大です。
 
実際、2009年にはホメオパシー愛好家の助産師が、本来与えるべきビタミンK2を乳児に与えず、代替としてレメディのみを与えたため、乳児がビタミンK欠乏による硬膜下血腫で死亡するという痛ましい事故も起きています(※5)。
 
また、薬効成分として溶かす物質も、薬草のみならず鉱物や金属、イカ墨、病原菌、がん細胞、果ては般若心経やベルリンの壁の破片など。

まともな科学でないどころかカルト宗教の感すらも(※5、6)。
 
今日、がんの標準治療は外科手術、放射線療法、化学療法、免疫療法の四つ。
 
「自然治癒力を用いたがん治療」というお題目なら、この中では免疫療法が当てはまりそう。
 
免疫療法と言えば本庶佑先生の2018年のノーベル生理学医学賞受賞で脚光を浴び、知名度も高い。
 
ところが現状ではこれはごく限られた対象(腎細胞がん、メラノーマ等)への限られた療法だけが認可(保険適用)されているのみ(※7)。
 
この事情を知ってか知らずか(おそらく知っている)、同じ「免疫療法」と銘打つ、まぎわらしいニセモノの療法がはびこっています。
 
体を温めて免疫力を高める温熱療法だとか、「このサプリ(薬でもワクチンでも、呼称は何とでも)を飲めば免疫力が上がりますよ」、だとか。
 
高額の壺を売るといった詐欺商法の多くは、姓名の画数がとかご先祖の罪のカルマがどうとか、とにかく不安を煽って何かを買わせるのが特徴。
 
ところががん患者はもともと不安感にさいなまれているので、その不安を煽る手間がいらない。
 
かっこうのターゲットになりやすい。
 
事程左様に効果の確認されていない民間療法がそこいら中でカモ狙い。
 
果たしてホメオパシーの理事長・帯津は、自然治癒力を謳う講演で、自らが推進するホメオパシーを語らず認可された免疫療法の話だけをするのでしょうか。
 
とてもそうは思えませんよね。
 
彼のクリニックのサイトには、前述のとおりホメオパシーのメカニズムは不明としつつも、診察の仕方は詳しく書いてあります。
 
長くなりますが抜粋すると、

問診は全身の状態として、体温、気候への反応、症状の悪化する時間や体位。発汗、睡眠、月経。食欲、食べ物の好みなど生理的な状態について質問をします。精神的状としては情緒面や性格面のほかに、意思、理解力、記憶などの認知に関する状態も聞いていきます。そして一番辛い症状については原因や部位そしてどんな感覚があって、症状が悪くなったりよくなる要因を詳しく聞いています。

「帯津三敬塾クリニック」HPより

アンケート調査に基づく性格診断では、アンケート内容が細かければ細かいほど、提示される診断結果を(たとえそれが全くのデタラメでも)信じやすい、という心理作用があります。
 
その効果だけは間違いなくありそうです。

問われる学士会の基本的スタンス

私はこのような人物を重用する学士会に問い合わせをしました。
 
「このような危険な「治療法」を主導する者を、東大卒の医学博士だからと重用する學士會の姿勢に疑問を感じます。
 
このような人物の自説流布を野放しにし、経済的被害のみならず生命の危険すらある疑似科学の拡散に、學士會は今後も加担するのでしょうか?」(問い合わせ文より)
 
学士会側からの回答は、
 
「帯津氏については、他の会員の方よりも、ご意見を頂戴しており、当会として皆様のご意見を真摯に受け止めております。
種市様はじめ会員の皆様からのご意見は、当会にて関係者に共有しております。
今回のご意見も、私の上長、今回イベントを企画されている「YELL」の担当者にも確実に伝えます」
 
というものでした。
 
「不確実な未来を抱える現代社会に対して(中略)、長期的視点からの“知”を発信していくこと、それが、私たち「学士会の使命」と考えています」(「学士会の使命」より)。
 
自称する使命に違わない実践かどうか、これからも注視していきたいと思います。
 
(※)日本メディカルホメオパシー学会
https://www.jpsh.jp/
 
(※2)日本医学会「『ホメオパシー』への対応について」
https://jams.med.or.jp/news/013.html
 
(※3)帯津三敬塾クリニック
http://www.obitsu.com/index.html
 
(※4)日本ホメオパシー医学協会
https://jphma.org/index.html
 
(※5)名取宏「ニセ科学『ホメオパシー』の実践が危険な理由」
https://toyokeizai.net/articles/-/282404
 
(※6)桑満おさむ「”意識高い系”がハマるニセ医学が危ない」、扶桑社BOOKS(2019)
 
(※7)拙ブログ「弱気につけ込む罠に心理的防御を」
https://note.com/parasitefermion/n/nbef964053dd1?sub_rt=share_pw
 
(※8)専門家がその専門分野で流す誤情報・デマ、ジャーナリストの流すデマ、これらに限り私は個人名を挙げた批判をすることをポリシーとしています。この稿もそれに基づいています。
 

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