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ブラックホールからのやまびこ

ブラックホール
あらゆる物質、そして光をも吸い込んでしまうという強大な重力を持った天体として知られます。

その存在は一般相対論の帰結として予測されていましたが、相対論の提唱者アインシュタイン自身は数学的に導けるだけで、現実の宇宙には存在しないと考えていました。

※ブラックホールという用語は1967年ホィーラーという人が使い始めたのであり、アインシュタイン存命中はその用語すら存在せず。


疑いは徐々に晴れ

しかし1964年、白鳥座の中にX線を放つ謎の天体が発見され、のちにこれがブラックホールであることが確認されました。

存在自体は疑いないとしても、その姿を誰も見たことがない。
 
そのモヤモヤ感、天文学者や物理学者も感じていた?
 
ようやく2019年になって、電波天文学の国際チームが初のブラックホール直接観測に成功したのでした。

場所はおとめ座銀河団の中、M87楕円銀河の中心。
 
その質量は太陽の65億倍。
 
白鳥座のX線天体が20倍程度と言われているので(※)、その巨大さが分かりますね。
 
続いて同チームは2022年、私たちが住むこの天の川銀河中心部に位置する巨大ブラックホールの撮影にも成功しました(※2)
 
ブラックホール自体は光を吸い込む性質を持っていますが、ある一定距離以上を通過する光は進路を曲げられつつも吸い込まれることはない。
 
そのような光の中で地球方向に曲げられたものを、この度観測することができたのです(光と言っても電波ね)。

だから「直接観測」と言っても本当にブラックホール本体を見たわけではなく、レンズ効果などと同じく巨大重力の影響を見たに過ぎないと言われれば、それはそうなのですが。
 
ま、しかしこうなるともう、ブラックホールの存在自体を疑う人はいないでしょう。

しかしその当のブラックホールが、相対論が描くブラックホール像そのままの存在である保証はありません。

真空といえどもナニかがある

特に、相対論に並ぶ現代物理学のもう一つの柱、量子論の効果がブラックホール像にどうかかわるのかは、今でもホットな研究対象です。
 
相対論と量子論が根本のところで相矛盾し、融合させた統一的な理論にできていない事情が、この問題を複雑にしています。
 
相対論と量子論の決定的な違いの一つが、真空の概念。
 
相対論において真空とは文字通り「何もない」空間として扱われます。
 
ところが量子論ではこの「何もない」がない。
 
そこでは、電場とか磁場で代表される「場」の概念が登場。

たとえ粒子が存在しないように見える空間にも、それらの素となるような「粒子場」が存在します。

場(ば)がエネルギーをもらって励起された時に、その励起の形態として物質粒子が現れるのです。

光についても同様で、目に見える光の粒子(光子)が存在しなくても、そこには波立っていない凪のような電磁場が存在します。

量子論が書き換えるブラックホールの姿

この量子効果をブラックホールに適用すると、そこには純相対論的ブラックホール像では現れない現象が。
 
時空のゆがみが極限に達するブラックホール近傍。

そこに量子場が存在すると、その強大な歪みゆえに場が励起され、熱放射が生まれます。
 
これが、量子効果の中でも有名な「ホーキング放射」。
 
何でも吸い込むとされてきたブラックホール。

しかし量子効果を考え合わせると、逆説的にエネルギー放射を行い、最終的にはエネルギーを失って蒸発してしまうだろう、と。
 
量子論を考慮すると、古典とはあたかも真逆の結果が想定されるのですね。

このブラックホールに、人間が落ちていくとどうなるか?
 
相対論では、空間の歪みで身体が引き延ばされ(潮汐力)、素粒子レベルでバラバラにされながら「事象の地平面」(これを越えると光すらも脱出不能とされるブラックホール周囲ののある種の境界)へ落ちていく、とされていました。

ところが量子論的ブラックホールでは場の励起により、物質粒子や光子で満ち満ちた空間が事象の地平面の手前に現れる。

これが落ちてくる物質を跳ね返す、というシナリオが考えられます。
 
何でも吸い込むと思っていたブラックホールに、実は落ちることができない(かも)。

実際のところどうなの?

現代物理学は量子論と相対論を矛盾なく統合することに未だ成功しておりません。
 
そのため量子効果が存在する実のブラックホール像がどんなものなのか、確定的なことは言えません。
 
でももしこのような、ブラックホールに物質を跳ね返す壁のような励起場の存在が確かめられれば、量子論的ブラックホール像を捉える確かなステップになるでしょう。
 
では、どうやったらその壁の存在を確かめることができるのか?
 
例えばブラックホール同士の衝突で発生する強い(と言っても、やっと私たちに観測できるかどうか微妙な強度なのですが)重力波を観測できれば、その壁の影響を捉えることができるかも知れません。
 
その壁の影響は「エコー」として重力波に現れるでしょう。


エコーのイメージ

エコーとは要するにこだま現象。
 
山に登って「ヤホー」(ってやる人ほんとにいる?)。
 
すると周囲の山に反響して、小さく帰ってくるのがこだま。
 
ブラックホール衝突後の重力波にもこのこだま現象が現れる、要するに大きな主波に続いて、小さな余波が周期的に発せられる、と一部の人は主張しています。
 
もしこれが観測されれば、これは強力な重力場における一般相対論から逸脱した量子効果の現れの証拠となり得ます。

すでに観測されていると主張する人も、いるにはいます。 

しかしこのエコーらしき重力波、非常に弱い。
 
元々重力波自体が大変弱いものなのに、それに輪をかけて弱い。
 
なので、現段階ではそれが本当にエコーなのか、それとも単にノイズを見ているだけなのかは判然としません。
 
相対論を越えた重力効果に私たちはすでに遭遇できているのかどうか。

それは今後の更なる重力波観測の蓄積にかかっています。

(※)”First black hole ever detected is more massive than we thought”, (ICRAR, 2021)
https://www.icrar.org/biggest-black-hole/
 
(※2)「天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功」、(国立天文台、2022)
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220512-eht.html

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