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科学研究のドラマ性

今日、東大の安田講堂を真正面から捉えた写真を見ると、安田講堂の左側に全面ガラス張りの建物。

あれが理学部1号館。

90年代に建てられたもので、私が入学したころはその一世代前の建物。

関東大震災で初代理学部が倒壊し、その後建てられた地上三階(一部四階)地下一階の大正建築でした。

ノーベル賞受賞者は超個性的

廊下や階段など使用感たっぷりの、いかにも古めかしいその建物の一階の一角には会議室があり、物理学科の歴代名誉教授の面々の写真が飾ってありました。

毎週月曜にそこでミーティングしていたので週に一度は何となく、見るとなしに見ていました。

全体的に正面を見てビシッとポーズをとっているその中に一人だけ、半身に構えて右手をガチョーン(谷啓のギャグ:分からん人は検索)っぽくした「変なおじさん」が。

あまりの独創的なポージングでその人だけ特に印象に残っていたのですが、それが小柴昌俊先生と分かったのはずっと後、2002年にノーベル物理学賞を受賞された後のことでした。

受賞時、顔を見て「あっ、あの写真の人だ!」と(笑)。

授賞理由は太陽系外ニュートリノの検出。

ニュートリノは非常に検出の難しい粒子として知られています。

太陽から飛んでくる「太陽ニュートリノ」は、既に60年代末からアメリカで観測されていたので、ここでは「太陽系外」と強調されています。

具体的には私たちの住む銀河系・「天の川銀河」のすぐ近傍、と言っても16万光年先の大マゼラン雲内の超新星爆発。

これにより放出されたニュートリノを、小柴さんが中心となって岐阜県山中に建設した巨大観測施設「カミオカンデ」は観測したのでした。

この功績で小柴さんはノーベル賞となったわけです。

功績は検出器の副反応から

しかしもともと実は、カミオカンデは「太陽系外ニュートリノ観測」を目的として建設されたわけではありません。

現代物理学理論のより一般化された理解としての大統一理論の完成へ向けて、その一助となる「陽子の崩壊」現象の観測を目的としていたのでした。

結果から言うとその当初の目的は達成されず。

陽子の崩壊未観測という事実から大統一理論の候補モデルの一部を棄却せしめた、という成果にとどまりました(これはこれで一定の貢献ではありますが)。

80年代中ごろからちょっと目的を変えて「太陽ニュートリノ」観測へ向けての改造を行い、観測を再開した翌年の87年、上述の通り想定外の太陽系外ニュートリノ検出となったのです。

私たちの住むこの天の川銀河の中で最後に確認された超新星爆発は1604年(前述の1987年の奴は大マゼランだから、天の川銀河の外)。

ニュートリノ飛来イベントの持続時間はたったの10秒ほど。

しかも1986年にカミオカンデの改造工事終わって観測再開し、その翌年というタイミングでのこの大事件。

工事が数か月遅かったら取り逃がしていたビッグイベント。

その上それは本来捉えようとしていた「太陽」ニュートリノではない!

‥あまりに偶発的、そしてあまりの画期的な観測!

神の贈り物は得てして想定外

こういう意外性のあるドラマって、長い科学史の中にはまま見受けられます。

有名なのは宇宙背景放射の発見。

アンテナにどうしても入ってしまう雑音の原因を追究していたら見つけてしまいました。

発見者はやはりノーベル賞。

理論面でも例えばご存じアインシュタインの相対性理論。

一般相対性理論の基本方程式・アインシュタイン方程式からは解として、重力が一点に集中する特異点が出て来てしまう。

アインシュタイン本人はこれを単なる数学上の産物と捉え、宇宙の実在を示すものではないだろうと予想。

実在を主張する声もある中、それから半世紀もたった1965年、最初のブラックホールが発見されたのでした。

これとは別に、宇宙は定常(大きくも小さくもならない)でなければならないとの信念の下、宇宙の大きさが不安定にならざるを得ないアインシュタイン方程式に、これを一定化させようとアインシュタイン自らがあとから付加した「宇宙項」。

後年宇宙が膨張していることが観測から分かり、「人生最大の過ち」と後悔する羽目に。

ところが1998年、今度はその宇宙膨張の膨張速度が予想に反して加速していることが分かり、再びこの宇宙項が脚光を浴びることに(当然アインシュタインさんはもうこの世にはおりません)。

二転三転のドラマは、まだ続くのかも知れませんね。

2022年10月永眠した私の叔父・種市宏(元山形大学教授)は、大学院時代同じ研究室の同期だった小柴先生に対し「うまくやりおった」と言っていたのを思い出しながら、その仕事に思いを馳せてみました。

私はというと、伯父とももう少し物理の話をしておけばと、今さらながら後悔しています。

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