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ゲームしすぎると脳が劣化!?

かつてゲーム脳が社会的に大問題になったことがありますね。

ゲームをしている時の脳を調べたら、前頭葉(脳の前側の部分)が活発でなかった。

したがってゲームばかりしていると特に「意志判断機能」が損なわれる、と。

この、前頭葉の活動が弱まった状態(ゲーム脳)になったら大変だとの警告が、子育て中の世の親たちの心を掴みました。

ゲームばかりしている子供を心配する親心には、ゲームをやめさせるうってつけの「理論的裏付け」となったのです。

しかしひとくちにゲームと言っても、高度な意思決定力が求められるものもありますよね。

ことはそう単純ではなさそうです。

ネイマールの脳は活性化するか?

脳科学者の内藤栄一と廣瀬智士らは、ブラジルの超一流サッカー選手ネイマールの脳を調べました。

あれほどのパフォーマンスを見せるプレーヤー。
サッカーのプレー中はさぞかし大きく活性化し、血流は大きく増大するのでは?

具体的には、右足首を1秒に1回のペースで回転させた時の脳のfMRI測定を行ったのです。

本当はサッカーをプレイしている時にfMRI測定ができればよいのだが、もちろんそんなことはできない。

内藤らは、サッカーのプレイが基本的な足の動きの組み合わせで構成されており、足首の回転という単純な動作にもサッカーの上手い下手の違いが表れる、と考えました。

測定ではネイマールのほかに、ネイマールほどの活躍はしていないプロのサッカー選手3人、水泳の選手2人、そして趣味でサッカーをしている一般人の脳も同時に調べました。

その結果はというと、脳の活動量はサッカー習熟度に反比例することを示していました(図)。

E. Naito and S. Hirose (2014) Efficient foot motor control by Neymar's brain. Frontier in Human Neuroscience, 8, Article 594.(日本語は筆者)

すなわち、一般人では運動野のみならず視覚野や、生命維持活動にかかわる脳幹まで広範に血流の増大が認められました。

一方サッカー選手では活性化領域は少ない傾向にあり、特にネイマールはその傾向が顕著で運動野の中のごく小さい2つの領域が活性化されたのみ。

この実験は、サッカーに習熟し身体のコントロールが卓越した人ほど、それに割かれる脳の活動が小さいことを示しています。

新しい学説に飛びつくリスク

ある活動に習熟した人ほど、その活動に本当に必要な部分だけを効率的に活性化させる能力がついている、逆に初心者は非効率なエネルギーの使い方をしている、ということ。

ゲーム脳について言えば、ゲームへの習熟度が増したから脳の活性領域が小さくなった、というのが真相のようです。


日々マスメディアで垂れ流される先進テクノロジーの成果。

こと科学の話題については、とかくスクープが生まれにくいと言われます。

ほかの分野と違い、科学の新しいネタ=新発見・新説は、その後それが間違いであると判明するケースが多々ある。

このゆえスクープを狙う優秀な記者は他の分野へ行き、科学畑の記者の質が低下、ひいては科学記事の質の低下を招き、一般の人の科学理解の不足、科学離れにつながっていく、という負のスパイラルが指摘されています。

それが本当かどうかはともかく、まず言えるのはある新しい言説・トピックについて、特にその分野に精通していないような場合には、意識してすぐには飛びつかないようにした方が良い、ということ。

特に自分の個人的信念に合致する結果には飛びつきたくもなるものですが、そこをぐっとこらえる。

そこに疑似科学がひそんでいる可能性もあるのですから。

○Kindle本
「再会 -最新物理学説で読み解く『あの世』の科学」
https://www.amazon.co.jp/dp/B0973XR53P

○ブログ“Beyond Visibility”
不思議現象を「根拠をもって」科学する
科学は、ホンモノこそが面白い
https://parasitefermion.com/blog/

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