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味わってみた「陰謀論こじらせ系」

フリーライターの前田亮一はその著書「今を生き抜くための70年代オカルト」(光文社、2016)の中で、オカルトの有用性を説いています。

オカルトは「マジョリティに抗うカウンター」

ネット時代となり、昭和の頃流行ったUFO・宇宙人、スプーン曲げやネッシーといったオカルト事件の数々の真相が暴かれ捏造が発覚してもなお、ストーリーが読み替えられ生き残り続けている、と。

今でもネッシーの存在を信じて捜索している人がいるのだとか(本当か?)。

で、彼によれば自分が信じたいと思うものを信じる傾向がある我々人間にとって、オカルティックなものをはそれを信じる人間の心を映し出している。

オカルトはそれを信じる個々人の内面を映し出す鏡である、と。

それはそうなのかも知れませんねえ。

彼は続けて独自のオカルト観を披露します。

曰く、オカルトというものは、世の中のマジョリティの考え方に抗うカウンターであり続けていた、と。

マジョリティ(政府機関や大企業の研究所等)は秘密裏に何かを画策しているかも知れず、それをあぶりだすのに個々人がオカルト的視点を持つことが重要だ、と言うのです。

なりふり構わない「陰謀論のすすめ」

例えば人工知能。

コンピュータテクノロジーの進歩により、2045年には人工知能が人間の知能を追い越してしまうという「シンギュラリティ」問題。

これに呼応して、人工知能の無限の発展を危惧する各方面の専門家のお歴々は事実存在します。

やれ「人類が人工知能支持派と反対派に二分され、世界戦争が起こる」(松田卓也)だとか「人類を凌駕する知性を持つ機械と競争し、人類が生き残るのは困難だ」(シンクレア)だとか「人工知能は人類を滅ぼす」(ホーキング)などと。

これに対し前田は、アメリカ政府が宇宙人との接触を国民に隠しているという陰謀のストーリーが全世界的にUFO神話を拡大していったことを例に挙げ、「人類を超える人工知能の誕生が隠されることで、新たな陰謀のストーリーが生まれないと誰がいえるだろうか」と問題提起します。

彼によれば、中世の暗黒時代のように21世紀も真実は隠され、一部の情報エリートたちが世界を動かす。だからこそ我々はオカルトという鏡に自らを映しつつ、その向こうに潜む陰謀の可能性を疑い、そこに隠された意味を探索し続けることになる、と主張してオカルト視点の有用性を説きます。

公共性の高い科学の営み

オカルトとは何ぞやという議論の時によく持ち出されるのが「科学とオカルトは紙一重」論。

自然現象の背後に潜む法則性を明らかにするために、科学者はまずその現象をうまく説明できそうな仮説を立てます。

そしてその仮説が正しいなら起こるはずの現象、その仮説が正しくない場合に起こると予想される現象、などの観測を通じて当該仮説の検証を行います。

幾多の検証を通じて多くの仮説が棄却されつつ一握りの仮説が「どうやら正しそうだな」との共通認識を得る。

ここで検証は終わるのではなく、その「正しい」はどの程度確かなのか、正しさの限界を探る研究が続きます。

ひとたび限界が分かれば、その限界を越えるより一般的な法則を求めて、また新たな仮説の提示とをの検証の旅が続く。

そして重要なのは、これら仮説検証のステップが全て可視化されているということ。

科学研究は、学会や論文に触れることの敷居の高低はともかく、基本的にその過程がオープンにされているという特質があります。

オカルトは隠匿が本質

この仮説提示の部分がオカルトにも通ずる、つまりオカルト視点が一つの仮説提示であるとするのが「紙一重」論。

しかしその違いは明らかですよね。

オカルトは、「なぜそうなのか、なぜそう言えるのか」という根本の部分が隠され不問にされているという点に特徴があります。

喧伝される際にはその「確からしさ」を表示しつつ実際には正しさを追い求めていない。

要するに、例えその出発点が単なる妄想であっても、基本的に言いっぱなしなのがオカルトの世界。

個々人が無根拠・勝手に思い描く世界観そのものであり、前田が言うように内面を映す鏡ではあるだろうけど、仮にごく一部のエリートがトップシークレットなる情報を握るといった陰謀があったとしても、それを「探索」する力など果たして持っているのだろうか。

この「一部エリートが情報を握る」論法がすでに、宇宙人界隈のMJ12(マジェスティックトゥエルヴ)の轍を踏むカビ臭い陰謀論の域を出ないのですが。

確からしさを求めない何でもありのオカルトは、結局は人々の目を曇らせる疑似科学の役割しか果たさないのではないか。

疑いがあってそれを晴らしたいのであれば、なにもわざわざそのようなオカルト視点に立たずとも、根拠を持って仮説を立て、それを立証(あるいは反証)していくという、公共性の高い科学研究のやり方を踏襲すればよいのではないか。

趣味もほどほどに

エンタメとして楽しむ分には、オカルトも悪くない?

それはそうかも知れない。

しかしオカルトにはまた、五島勉本や、陰謀論をまき散らす数々のバラエティ番組、例えば「これマジ!?(月面着陸捏造論)」、「奇跡耐検!アンビリバボー」、矢追純一のUFO・ネッシー・ユリ・ゲラー特番のように、商業主義が付きまとう。

これらTV番組は教養番組ではなくあくまでバラエティであり、娯楽として楽しむ分には問題ない。

しかし視聴者の判断力は様々、単なるshowも、真に受ける人々にとってはドキュメンタリーと化す。

数々のオカルトネタが、売れればよいという世界で蔓延してきたという事実があります。

前田の言うようにオカルト視点で真実を暴こうとする立場は、「マジョリティへのカウンター」という美名のもと、オカルトインフルエンサーの新たな儲けの種を増やすだけでしょう。

「視聴者の判断力」という点については例えば、マインドコントロールされやすい要因5項目(「マインド・コントロール」岡田尊司、文藝春秋、2016)も参考になります。

ここでは列挙するだけにとどめます。

マインドコントロールされやすい要因
1)     依存的なパーソナリティ
2)     高い被暗示性
3)     バランスの悪い自己愛
4)     現在および過去のストレス・葛藤
5)     支持環境の脆弱さ(家族のつながりの弱さ等)

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