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古くて新しいマインドコントロール

私が疑似科学関連の問題に首を突っ込むようになったきっかけの一つが、オウム事件。
 
オウム真理教は80年代から90年代にかけて、数々の破壊活動を主導し多くの犠牲者を出したカルト宗教団体。
 
物理学専攻の、私の大学院の同窓生がこれに加担し、他の教団幹部と共に死刑になりました。


マインドコントロールに目が向けられた時代

オウム全盛のころの報道。

捜査員や報道陣の前をうろつく、頭にヘッドギアを付けた異様な姿のオウム信者。

教祖・麻原の説法を聞き続けながら畳1枚程度の狭い独房に数日間監禁される、常軌を逸した修行生活。

取材が明るみに出した信者の実態は、マインドコントロールをビジュアル化し、それがどういうものなのかを「判りやすく」提示してくれました。
 
と同時にそれらの情報からは、マインドコントロールを受ける状況というものが極めて非日常的で縁遠い印象も受けたものです。

なかんずくオウムのようなカルト宗教に入信するなど、特異な状況にでも陥らない限り大半の人には無関係の感すらあった、私自身も含めて。
 
オウム事件が席巻していた90年代、それまではついぞ耳にすることもなかったこのマインドコントロールというキーワードが余りにも報道で繰り返されたためか、オウムの異様さとこの言葉が強固にリンクされてしまったのかもしれません。

あなたにささやく八百万の「教祖」

しかしそれは甘かった。
 
精神科医・岡田尊司は、この「自分だけは大丈夫」感に警鐘を鳴らします。
 
岡田自身、2012年にマインドコントロールをテーマに執筆依頼を受けた際には、それが今日的テーマではないと感じたのでした(※)。
 
しかし、このテーマで文献に当たり調査を進めるうちに、岡田はそれが決して過去の遺物などではなく、現代に生きる誰にでも深くかかわるホットなテーマであると認識するようになりました。
 
岡田が執筆依頼を受けた当時、日本はGDPで中国に世界第二位の地位を明け渡し、東日本大震災とその時の原発事故に苛まれました。
 
混迷を極める原子炉冷却への取り組み、電力不足に伴う計画停電や土地・農作物・海産物における放射性物質汚染とそれに絡む風評など、当時の不安に満ちた世情は未だ記憶に生々しい。
 
岡田は「内憂外患の国難のただなかにあっては、(中略)国が滅び始めたと、誰もが浮足立ち、飛び交う情報に知らずしらず振り回されていく。」
 
その結果「全か無かの単純化された思考に陥り、ヒステリックな過剰反応に走」り、「確信をもって希望を約束してくれる存在にすがろうとする」と危惧します。
 
すがる相手は何も麻原尊師のような「教祖」である必要はありません。
 
判り易い論理など、「言葉」でもよい。
 
そして人々が未来に希望を持てなくなった時、マインドコントロールが起きる素地が整うのです。

これを書いている2024年の状況はどうでしょう?
 
岡田が懸念を抱いた当時の状況の、その延長上にあるのではないのか?

そして誰もが加害者に

マインドコントロールは、オウムのようなカルト宗教内にだけ発生する問題ではありません。
 
岡田は、「する側」に立つこれらの人々の共通項として、次の3つを挙げます。
 
1)     閉鎖的集団の中で優位な立場にいる
2)     弱者に対する思いやりや倫理観の欠如
3)     支配することの快楽
 
マインドコントロールする側にとっては、この快楽はまさに麻薬患者にとっての麻薬なのです。
 
要するに、オウムのような狂信集団の出現を待つまでもなく、誰でもがマインドコントロールの被害者、そして加害者になり得る。

同級生をイジメる生徒、DV夫、パワハラ上司の、相手の心情を慮る想像力の欠乏、心理的苦痛や暴力で相手を支配する快楽への陶酔。

「全体主義の亡霊が人々の心をとらえ、排除と戦争へと暴走させるのは、多くの人々が自分の頭で考える余裕をなくし、受動的な受け売りを、自分の意志だと勘違いするようになったときである」(岡田)。

玉石混交のネット情報、そこに見出される、著名人や科学による権威付け、ただ一つの原因特定、白か黒かの二者択一といったわかりやすい論法。
 
X(旧ツイッター)での安易なリポスト、誤情報拡散に加担することになりかねません。

岡田のこの警告、まさに今目の前にある問題ではないでしょうか。

(※)「マインド・コントロール」(岡田尊司、文藝春秋、2016)

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