弱った心に響く、非科学の強い言葉
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、落馬し、死の淵にある源頼朝の床を囲む身内と医師の会話。
阿野実衣「いつかはお目覚めになるのですか?」
医師「なるかも知れませんし、ならないかも知れません。」
北条時連「あいまいな!何も言っていないのと同じではありませんか!」
阿野実衣「落ち着きなさい!」
医師「望みはあります。うっすら汗をかいてもらうのです。汗は生きようとする証。」
北条りく「周りで火を焚いて、たくさん汗をかかせましょう。」
医師「かかせれば良いというものではありません。」
北条りく「どっちなんですか?」
北条義時(医師に向かって)「我々は、はっきりとしたことが知りたいのです。」
弱った心は明確な答えを求める
逆境にある時、不安な時、不幸にさいなまれた時、その要因や解決への道筋を求めて人は明確な答えを知りたくなる。
作家・皆神龍太郎は巨大地震のあとの世情に関し、大災害を目の前にし、人々はなぜこのようなことが起こったのか知りたいと思うとしつつ、そのような心に「陰謀論とか人工地震みたいな話がすり寄ってくる余地ができてしまう」とします(※)。
以前に比べテレビの心霊番組は減ったようです。
しかし完全になくなった訳でもありません。
昔よくあった、ベタな心霊写真を見せるだけのものはほぼ全滅。
最近よくあるのは、タレントがいわゆる心霊スポットを訪れ、「怪奇現象」を体験するというもの。
ちょっとした音や、撮った写真に正体の特定できない光が写っていただけで大げさに騒ぐのも、タレントさんに求められる能力でしょうか。
冷静に考えれば何ということはない出来事も、タレントの反応とナレーションで「何か」が起こったように演出する。
そうでもしないと、せっかくロケに行ったのに撮れ高稼げないから、ある意味彼らも必死です。
そういう番組は分類としてはバラエティでありエンターテイメント。
実際に何が起こったのか検証するのが目的でもないし、そういう意味であまり真に受けないほうが得策です。
私個人としてはそういう、人をゾッとさせ、かつ原因不明の様々な現象の要因を徹底追及するような活動をやってみたい気はします、予算があれば。
「高い能力」の裏側に目を向ける
最近、80年代、90年代にテレビでの露出が多かった霊能者・宜保愛子(ぎぼあいこ)を回顧する番組がありました。
宜保さんはテレビ出演が多いこともあって知名度は高い。
そのため彼女を題材にした漫画までありました。
で、その漫画の作者・東堂洸子(とうどうあきらこ)の、宜保とのなれそめをドラマ風に再現。
要は初対面でいきなり、「あなたの前を格子柄のシャツを着た人が行き来している」というようなことを言われた、と。
で親に確認してみたら、祖母がそういう柄の服を着ていたことが分かり、宜保愛子の特別な能力を確信した、と。
人は信じたいものを信じるものだし、何を信じても勝手でしょう。
しかし相手が霊能者となると、あまりのめり込むのは考えもの。
お金だけでなく、人生の方向性そのものも持っていかれることがあるので、やはり注意するに越したことはないのかな。
はっきり言って格子柄の服なんて珍しいものでもなんでもない。
身内の中でも、探せば誰かが着ていたとしてもまったく不思議なことではありません。
当時から感じていたのですが、宜保さんはこういう印象操作で人の心を掴むのがうまい。
「(霊に向かって)いるのなら煙をくるくる巻いて」と、線香の煙の前で指をくるくる。
すると煙がくるくる動き出す。
そりゃ指の動きで風が起きたのでしょうよ!
人の心を掴むテクニックにたけているからこそ、TVで多用もされるのでしょう。
それは視聴率に直接つながります。
この一連の回顧の中では、交通事故の際の宜保の霊視が取り上げられました。
ある女性の息子が運転する車が単独事故を起こし、息子さんは死亡、助手席に乗っていた友人は助かった。
その友人氏は息子さんの死を悲しみ、傷心のその女性にもとてもよくしてくれた、という逸話。
この時宜保は、運転していたのはその女性の息子ではなく実はその友人氏であったこと、
その友人氏が事故を起こし(しかも飲酒運転)、事故後に助手席で死亡していた息子さんの遺体を運転席に移動し、息子が運転していたように偽装したことを「霊視」によって解明。
この霊視の結果を警察に伝達、再捜査の結果その霊視の内容が事実であると判明し、友人を逮捕できた、と。
しかしね、普通に考えて付着した血液などから、事故当時どちらに誰が座っていたのか、警察の捜査で分からないはずがありません。
常識的に考えても、事故当時の状況を正確に再現する実況見分において、車内捜査の結果を無視し友人氏の証言のまま息子さんが運転していたと断定する、そんなことが起こるはずがありません。
宜保の霊視で新事実が判明したなどと言うことはあり得ないのです。
明確な言葉は高い英知から、とは限らない
「地震を予知した」との主張は後を絶ちません。
いや、結構多い。
しかしそれらは、後付けのもの。
心理的なトリックを駆使したものだったり、検証しようにも複雑すぎて結果を知るのがどうしても事後になってしまうようなものなど。
「地震雲」の報告も後を絶ちません。
私のところにも、わざわざメールしてくれる人がいます、「地震雲らしいものが現れた、木星の位置も悪い、気を付けろ」とかなんとか。
善意でしょうが、そういった情報が役に立つことはありません。
「今後30年以内にマグニチュード7の地震が起きる確率は60%以上」などというあいまいな科学者の言葉より明確な「予言」を信じたい、という心理。
そこにつけ込む手合いがいるのです。
何らかのストーリーを創作して受け手に特別能力の存在を信じ込ませる、こういう手法を取る人は何も宜保さんに限ったことではありません。
カルトと政治家との関係が問題になっていますが、日常生活で見聞きする情報のあちこちに、だましのテクニックは使われてるということを、いま改めて認識しておいた方が良いでしょう。
(※)NHKBS「ダークサイドミステリー▽徹底検証!地震の都市伝説 人工地震・予言・自然異常」
○Kindle本
「再会 -最新物理学説で読み解く『あの世』の科学」
○身近な科学ネタを優しく紐解く‥
ネコ動画ほど癒されずEテレほど勉強にもならない「お茶菓子動画」
見えない世界を科学する「見えない世界の科学研究会」
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