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子どもに慕われる大人って、二種類いると思う。

子どもに慕われる大人って、二種類いると思う。子どもの扱いが上手な場合と、その人自身が子どもである場合。

小学生の頃に同じマンションに住んでいた友達の家のお母さんは、完全に後者の人だった。
とにかく、子ども相手に本気の人だった。

私は当時怖い話の本にハマっていて、その日友達の家に持参した。
飛び切り怖いページを開いては子ども同士でキャーキャー言っているとおばさんがやってきて、
「おばさんが読んであげようか!」と言うのである。
もちろん、喜んでお願いした。

おばさんはやはり本気だった。
身振り手振り、声の抑揚、顔まで恐ろしげにゆがめて、稲川淳二顔負けの演技力で子どもたちを必要以上に震え上がらせる。
彼女の読み聞かせが終わる頃には、キャーキャーの歓声はおろか、家の中は水を打ったように静まり返っていた。

こんな空気のままでは帰れない。
私はひきつった笑顔で、「こんなん作り話やろ…?」とおばさんの顔を伺い見た。

「でもホラ、ここ読んで。

『この話はすべて、本当にあったことなのです…』って書いてあるで!

おばさんは怖い顔のまま、とどめを刺した。

私は泣きべそをかきながら友達の家を後にして、マンションの廊下を逃げるように駆け抜けた。
家へ帰っても、夜が明けても、1週間たってもおばさんの「本当にあったことなのです…」の声が頭から離れず、私はうなされ続けた。

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