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散歩中に見かけたブティックが強烈すぎて、買いもしないのに通い詰めた話

8月。猛暑だ。
私の趣味は散歩兼ネタ探しなのだが、最近はただ歩いているだけで地獄のように暑い。
なので散歩コースを早朝の川沿いに変更した。
朝の陽ざしを受けてキラキラする川面を横目に、なだらかな坂道をズンズン下る。
気がついたら一駅隣の町まで来ていた。

隣町って、意外と出かけないものだ。歩くには遠いし、電車で行くには近すぎる。
駅前をウロウロしていたら、ブティックを見つけた。
個人経営の、歴史がありそうなお店である。
ショーウィンドウを何気なく見ていたら、奥にいた店員のおばあちゃんと目があった。

目っていうか…私はおばあちゃんの服装に釘付けになってしまった。
全身ピンクだった。

2秒ほど、おばあちゃんを凝視してしまった。3秒後「あ、見過ぎた」と思った瞬間におばあちゃんが奥から出てきた。
「いらっしゃいませ!」
買い物をするつもりはなかったのだが、間近で見たおばあちゃんはさらに強烈だったので私はいよいよ目が離せなくなった。

ピンクのフリルワンピースピンクのジャケット。ワンピースの裾には黄ばんだようなシミがある。年季が入った一張羅なのだろう。おばあちゃんは70過ぎくらいに見える。その割に黒々とした髪の毛先が、みんなグルンと外巻きになっている

「お洋服が素敵です」とお話したら、快く撮影に応じてくれた。

おばあちゃんは、熱心にお店のことを説明してくれた。この店はおばあちゃんの親の代からやってるらしい。
その後、白地に青のストライプ柄のブラウスと、真っ赤なエナメルバッグを強く勧められた。
せっかく勧めてくれたのに、あんまり聞いてなくてごめんなさい。というか聞けなかったです、あなたが強烈過ぎて
これ以上ここにいると流石に何も買わないわけにはいかなくなりそうだったので、退散した。

数日後。
さあ、今日も散歩の時間だ。私の足は自然と、例のブティックへ向かっていた。
おぼろげな記憶を頼りに、前回と同じ散歩コースを行く。
あった。
緑色の看板には「呉服屋 ふじや」とある。

はりきりすぎて営業時間前に来てしまった
まだ7時前だから誰もいないだろう。今日は店の様子をじっくり見られる。


店前に飾ってあった像。コンセプトが謎だけどかわいい。
白髪染めもやってるそうです。
私はまだ白髪がないのですが、2300円って高いの?安いの?

しげしげと商品を眺めていたら、ガラガラッと音がして例のおばあちゃんが現れた。
「その像、かわいいでしょう!?」
うそぉ~ん!?いま朝の6時半だよ!?

おばあちゃんは、やはり全身ピンク色。半袖のワンピースからのぞくむき出しの腕は細く、深いしわが刻まれている。
私が前に来店したことは忘れてらっしゃるようで、
「お近くに住んでらっしゃるの?」と尋ねられた。
慌てた私、「開店前にすいません」「誰もいらっしゃらないと思って」「この辺りで見た面白いものを、SNSにあげてるんです」と必死で釈明する
おばあちゃんのインパクトに圧されて忘れていたが、朝6時に開店前の店の写真を撮ってる私も相当な不審者だ

しかし私の不審ぶりは特に気にしていない様子で、おばあちゃんはしゃべりまくっている。

「この辺の人はみんな知り合いなのよ。みんな「ふじやさん」って声かけてくれるのよね!」
おばあちゃんが力説していると、自転車に乗った主婦らしき女性が通りがかった。
「おはようございますぅ~!」
おばあちゃんの快活なあいさつとは裏腹に、主婦は明らかに動揺した様子で
「オハヨウゴザイマス…」と低い声で返し、足早に坂道をあがっていった。

というか、通りすがりの主婦からすれば私の存在が相乗効果でおばあちゃんのあやしさを引き立てている気がする・・・。
この時の私の格好はダボダボの古着ワンピースにスニーカー、マスクの下はスッピンである。

通りすがりの主婦に見られたことで我に返った私は、「これからお仕事ですので」と踵を返して家路についた。

時刻は8時すぎ。日差しが強くなってきた。
暑さで呆けた頭で再び川沿いを歩く。私の頭の中では、あのピンクのワンピースが蜃気楼のようにユラユラ揺れている。

呉服屋 ふじや。
真夏の白昼夢のような店であった。

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みなさんの街には「入ってみたいけど勇気が出ない、変わったお店」はありますか?
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