見出し画像

タイの刑務所とトランスジェンダー

1.刑務所で大規模クラスター

タイの刑務所で新型コロナウイルスの大規模クラスターが発生したようです。

20210517[バンコク 17日 ロイター] - タイで17日に確認された新型コロナウイルスの新規感染者数が9635人となり、1日としての過去最多記録を更新した。この中には刑務所でのクラスター(集団感染)による6853人が含まれている。 https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-thailand-idJPKCN2CY06I

タイの刑務所といえば、日本人収容者がいることも知られています。

→バンクワン中央刑務所(เรือนจำกลางบางขวาง , Bangwang Central Prison)

求刑死刑 タイ・重罪犯専用刑務所から生還した男 単行本(ソフトカバー) – 2017/7/27 竹澤 恒男 (著) https://amzn.to/3ftDWe3


タイの刑務所は、更生施設というより、懲罰施設のようですね。

刑務所内でビジネスをしないと、薬も買えないようです。


2.タイの刑務所でトランスジェンダー

気になったのは、「トランスジェンダーの収監者はどうなんだろう?」という点です。

いわゆる、ニューハーフ、カトゥーイ(ガトゥーイ)と呼ばれる人々です。

というか、タイの刑務所でトランスジェンダーの人たちの扱いってどんな感じなんだろう?

日本では「菊池あずは」さんの件で、刑務所に女性ホルモンが供給されない問題がありました。睾丸を摘出している場合、男性ホルモンができないので、性ホルモンがほぼない状態になります。通常、女性ホルモンを注射や服薬することで補うのですが、これができないと、骨粗しょう症のリスクの高まりや精神不安定につながるとされます。(精神面は個人差が大きいようです。また、宦官が長生きだったのはなぜだろう、といった疑問は置いておきます。)

以下、ざっと調べた内容です。

・2021年現在、タイで戸籍上の性別変更は認められてない(→日本や多くの国では認められています。タイはトランスジェンダーに優しい、というのは誤りとも言えます。)ので、最初は出生時の性別の刑務所に送られる。これは徴兵時と同じですね。

・2016年ごろから、ミンブリー、パタヤ、クロンプレムの刑務所ではトランスジェンダーやゲイの専用部屋が積極的につくられるようになった。

・SRS性別適合手術をしていたら、職員による性器チェックのうえ、女性用監獄に収監。また、シャワーなども女性用。女性ホルモンの服用も許可。

・一方、性別適合手術をしていない場合、たとえ豊胸手術などを行っていても、一般男性と同じシャワールームを用いるように言われたりする。頭は基本的に丸刈り。また、女性ホルモンの服用が困難。性器の形状が重要ということ。

・ただ性別適合手術を経験済み(SRS済み)であっても、たとえばパタヤでは、夜に眠る際は、トランスジェンダー女性とレズビアン女性は、ほかの女性たちとは別の部屋で眠らされる。

参照:Transgender inmates to get more medical help in Thailand’s jails 20210220 TheThaiger 
https://thethaiger.com/news/national/transgender-inmates-to-get-more-medical-help-in-thailands-jails
参照:Thai transgendered inmates pilot separate jail cells to stop abuse 20170323 AgencieEFE https://www.efe.com/efe/english/life/thai-transgendered-inmates-pilot-separate-jail-cells-to-stop-abuse/50000263-3216345
参照:The Lives of Transgender People in Thai Prisons 20190516 UNDP https://www.th.undp.org/content/thailand/en/home/blog/2019/the-lives-of-transgender-people-in-thai-prisons.html
参照:写真はこちらが豊富です。 Life behind bars for Thailand's transgender women - The Week https://theweek.com/captured/695492/life-behind-bars-thailands-transgender-women


3.性別適合手術を受けているかが重要視される

タイで収監されるにあたっては、性別適合手術(いわゆる性転換手術)をしているか否かが、扱いに決定的な違いをもたらすようです。

ただ、どの記事でも、性別適合手術を経験済みの収容者は10%にも満たない数のようでした。

性別適合手術を受けていない人にしてみれば、丸刈りにされたり、豊胸した胸をじろじろ見られるのは、かなり苦痛なのは想像に難くありません。というより、性器を見られるのも苦痛でしょう。


4.収容所のキャパで、「配慮」しきるのは困難

ただでさえ狭い施設に大量に人を押し込めていますので、タイに何百とある刑務所全てにおいて、「専用の部屋」をつくるのは難しいようです。

また、「専門監獄」をつくってしまうと、親族が遠方まで面会に行かないといけなくなる問題もあるようです。冒頭のとおり、タイの刑務所はサバイバルのようですので、親族からの「差し入れ」の有無はときに死活問題ともなるのでしょう。

また、当事者ならとくにわかると思いますが、トランスジェンダーといっても、見た目や振る舞いをどの程度「望む性の一般的なありかた」に近づけているかは千差万別ですし、それに対するスタンスやセンスもバラバラです。「同胞」内でも、「この人と一緒にしないでよ」といった話が出てくるのも容易に想像されます。

こういった事情もあるので、ある程度大雑把な分け方をせざるをえないのかもしれません。

分ける、つまり「隔離」をするのは、「(直接的・間接的)レイプ防止」のためと思いますが、一体誰が誰をレイプするのか、というのは、刑務所側で想像しているようなところもあるように思われます。


5.おわりに

コロナウイルスですが、トランスジェンダーの専用の部屋があるというクロンプレム刑務所でも1000人程度感染してますので、心配です。。
それにしても、15㎡の部屋に10人も押し込まれてたら、それは大感染しますね。

タイ語が読めませんので、英語記事だけ参照しています。タイ語が読める方、何かご存じでしたら、ぜひ教えてくださいね。


◆余談

記事の趣旨とは異なりますが、監獄での更生メニューに「 Sakkasa-Samathi」というのがあり、興味深かったです。

いわゆるヴィパッサナー瞑想の一つですが、宗教色はなるべく消しているようです。

下手な教誨師による教えよりは、こちらのほうが「効く」人もいそうですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?