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日々を積み重ねる

見知らぬ誰かに背中を押された。

自分の降りたい駅に着いたのに、電車の中が混み合って出るに出られなくなってしまった。「すみません」とか細い声を出しながら、なんとか隙間を見つけて身を細める。

このままでは扉が閉まってしまう。そう思った瞬間、誰かに背中を押された。正確には左の横腹あたりを、わたしの体を人混みの隙間にぐっと押し込むようにして、その人はわたしを押した。

こんな状況でなければ、見知らぬ誰かに体を触られるなど「気持ちわるい」と思ってしまうかもしれない。人生のうちのほんの一コマの出来事。わたしはその一押しに救われた。おかげでなんとか電車を降りることができたのだから。

中年くらいの女性だろうか、わたしの焦る様子を見たのか「通してあげて」と声が聞こえた。きっとわたしを押してくれたのはその人だろうと思っている。違う人かもしれないけれど、わたしは声をあげてくれた感謝の気持ちを込めて、その人が背中を押してくれた人だと思うことにした。

街にはこんなにたくさんの人がいるのに、わたしの孤独は強くなるばかりだ。人がいればいるほど、わたしは孤独になってゆく。人がいるから孤独であることを再認識させられる。わたしが知っている人は、誰かからすると知らない人で、わたしが一方的に知っているだけのその人はわたしのことを誰なのか知らない。

知らない人で構成された社会になんとか紛れ込んで、その日一日をなんとか生きる。そういう日々の積み重ねが、1週間、1カ月、1年、2年、5年、10年…となって、その人の人生になってゆく。

なんとか30年生きてきたけれど、なんとかなると思って過ごしていたけれど、わたしのなかのもう一人の小さな自分が今にも暴れ出しそうで怖い。そういう怖さと生きている。わたしも、みんなも。


最後までお読みいただき、ありがとうございます! 泣いたり笑ったりしながらゆっくりと進んでいたら、またどこかで会えるかも...。そのときを楽しみにしています。