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【やきいもボーイ(PIZZA BOY)】(インタビューあとがき)

子どもの通院の帰り、近くのコンビニに立ち寄ると「やきいも」と書かれた車が目に留まった。あたたかな橙色にかわいいフォント。「食べたい?」と息子にたずねると、「たべる!」と目を輝かせたので、手をつないで車にそろそろと近づいた。

やきいもをやきいも屋さんで買うのはすごく久しぶりだった。多分これまでの人生の中で買った回数も、片手で数え切れるくらい。最後に買ったのは子どもが生まれる前、夫と行った上野公園でのことだった。お馴染みの、いーしやーきいもーのテープ音が流れるやきいも屋さん。
私は自分でやきいも屋さんに行くのが苦手だった。なんでかうまく言えないけれど、スマートにいかず、どうしてもどぎまぎとして動きがぎこちなくなってしまう。このときは夫が買ってくれて、ススッとスマートに買う姿を隣で眺めていた。

だから今回も緊張して、少し構えながら声をかけた。するとあらわれたのはおしゃれなお姉さん。ええっと驚いて、店番とかなのかな?お休みの代わりなのかな?とか、小さく動揺した。だって、いーしやーきいもーのテープの声も、これまで出会ったやきいもやさんも、みんな年配の男性だったから。よく見ると、やきいもの車もただの軽トラではなく、かわいくておしゃれな三輪だった。
失礼かなあと思ったけれど、おいもを用意してもらう間に「普段は違うお仕事をされてるんですか?」と聞いてみた。ところがこの仕事をメインにやっているのだという。「二拠点生活をしていて、冬は岩手でピザ屋、秋は名古屋で焼き芋屋をやっているんです」の言葉にまたまた驚いて、心惹かれて、もっと知りたいと思った。インスタのアカウントを教えてもらい、ささっと早速フォローした。

車に戻った後、あつあつのお芋を包みから出してぱかっと2つに折った。まだ熱いから、ほんのひとかけらだけ口に運んでみる。じわーっと甘くてやわらかいおいしさが口の中いっぱいに広がる。少し冷ましてから息子にあげると、まるまる1本あっという間に食べ切ってしまった。

インタビューみたいなものをやってみたい、と動き出してすぐの時だったから、まだ記事もなにも形にできているものはひとつもなかった。だからこんなふうに会って間もない方にインタビューを申し出るのは気が引ける。でも、やきいもボーイさんの話をもっと聞きたい、知りたいと思った。だから勇気を出して、DMを送ってみることにした。
インタビューOK、の返事をもらってあれこれ聞いていくと、やりたいこと、好きなこと、進みたい方向性、いろんなものがぐるぐると合わさったあとで生じたなめらかな流れで今のかたちにたどり着いているような気がした。その中には自分たちではどうしようもない、抗えない出来事も含まれているのだけれど、それをびゅんと超越して「今」をたのしんでいる。
好きなこと、自分のやりたいことを実現していると、こんなに生き生きと魅力的なんだなーと、やきいもボーイさんの姿を見て思った。

名古屋での秋と冬が終わると、岩手に戻って春と夏を過ごすやきいもボーイさん。インタビュー当初、こんなことをやってみたい、と言っていたことが次々と叶えられていくのを、インスタを通してここ名古屋でわくわくしながら見ていた。これから、どんなふうに豊かな季節を重ねていくのだろう。
もうすぐまた、秋と冬がやってくるね。




インタビュー「揺らめき」に添えて
2024.9
橘ぱぷか


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