指輪

黒霧島の結婚ゆびわ

 最近の晩酌はめっきり黒霧島のソーダ割だ。できたらソーダ水は強炭酸が望ましい。しゅわしゅわとした喉越し。ほんのりと、でもふうわりと優しく広がる芋のうまみ。

芋焼酎が好きだ。かつて焼酎を70種類以上取り扱う居酒屋で店長をしていたので、本当にたくさんの芋焼酎を飲んだ。しかしたくさんの種類がある中でわたしの一番好きな焼酎は『黒霧島』。どこでも買えるこのリーズナブルな(でもとってもおいしい)芋焼酎には特別な思い出がある。

 かつて手痛い失恋をし、それをずるずると引きずっていた時があった。「もう結婚できる気がしない!!」そんな時に友人が連れて行ってくれた居酒屋で今の旦那と出会った。だいぶお酒が入っていての出会いだったので、第一印象は正直あまりよく覚えていない。断片的に覚えているのは、ジャージを着ていたということと(家で一人ワインを飲んでいたところを呼び出されたらしい)黒霧島の一升瓶をキープしていて、それを思う存分飲ませてくれたということ。

「さぁ好きなだけのみな!」

カウンターのテーブルの上にはロックの氷と、黒霧島の一升瓶。グラスが空になる前に彼は手際よくお酒を作ってくれた。

(なんていい人なんだ……)

感動したのを覚えている。当時のわたしは飲む量が人よりも多く(「乾杯っつったら杯を乾かすでしょう!つまり一気飲みっしょ!」みたいなことを地でやっていた)そのせいで出会っていい感じになった人に距離を取られたり、合コンで浮いてしまったりしていた。
だから自分と飲むペースが同じで、さらに自分のお酒を少しも惜しむことなくわたしに分け与えてくれる姿にやられたのだ。

結局わたしは縁あって彼と結婚した。二人をつないでくれたもの、それが黒霧島。結婚指輪は自分たちでデザインして作ったのだけれど、黒霧島もモチーフの一つとして入れ込んだ。

黒霧島の中から富士山(出会った場所)が見えていて、朝日が昇ってくるというのが指輪のテーマ。二つくっつけたときにそれが現れるようにデザインした。朝日の部分にはプロポーズ時にもらった一粒ダイヤを。

「ありのまま」の自分を受け入れてもらえるということは、本当に幸せなことなのだよな、と彼と結婚してしみじみと思う。わたしの受け入れてもらいたかった一番の「ありのまま」はお酒をたらふく飲むというところ。どんなに早くがっついて飲んでも引かないところ。そんな人と出会えてわたしは幸せものだ。

今家にある黒霧島は紙パックのでっかいやつ。もう残り少しになったそれを、1歳になったばかり娘が昨日大切そうに抱きかかえてよちよちと歩いていた。ぬいぐるみよりも黒霧島を愛する娘。さすがわたしの子供だ。

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