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ワインを灯りに生きてきまして

 わたしはかつて2度「ルームシェア」というものをしたことがある。正確にはどちらも一軒家だったので「ハウスシェア」というのかもしれないが。

一度目は21歳のころ。オーストラリアのパースでイギリス人オーナーの元、岩手出身の一つ上の女の子とシェアをしていた。とにかくおしゃべり好きで(騒がしくて笑)音楽とダンスを好み、そしてワインを愛していた。

 性格が全く違う私たちだが、一緒に住むうちに気づけば姉妹のようになっていた。毎日ワイン片手に自分の好きなものや夢について語りあった。留学生でとにかくお金がなかったので、ワインは安い箱ワイン。外で飲むときは日替わりで無料になるミールを求めて近くのクラブをはしごして回った。

「おやすみ。また明日ね!」

部屋の前でそう言って別れる。

知らない土地で。でも誰かと一緒に家に帰るという安心感。「友人」から「親友」になり、「ほぼ姉妹」のような関係になるまでそう時間はかからなかった。

そんな彼女には二つ年下の妹がいた。つまりわたしのひとつ年下だ。一度オーストラリアに遊びに来た際に会い、そして就職後お互い東京に住んでいたのでよく遊ぶようになった(「よく」の頻度はとても高めで、週に一度はかならず一緒にいた)

 そんな関係が8年ほど。タイミングがいろいろとあい、今度は妹と一緒に住み始めた。お互いの仕事場にアクセスのいい、都心から少しだけ離れた、新築の綺麗な一軒家。シェアを気持ちよくするためいろいろとルールを決めた。お互いに干渉しすぎないことも決めた(ご飯は各自で。冷蔵庫もしっかりわけるなど)。こじんまりとした一軒家はとても快適で、自分のスペースがちゃんとあって、でもだれかが(というか大好きな友達が)そこにいてくれるという事実がとてもうれしかった。

 話したいことがある日はどちらかがワインを一本買っていく。ビールはお互いに冷蔵庫にたんまり入っているので、それぞれ簡単に夕食を作り食卓につく。

会社の嫌な上司のこと。あがらない営業成績の悩み。ふっきれない過去の恋愛。結婚できるのかという不安……

話題は無限にあった。最初は悩みや愚痴だったはずが、気づけばどうでもいい話でがはがはと笑っている。

ワインはいつだってわたしにとって灯台のようなものだった。とにかく。そこに行けば大丈夫、というような安心感。そしていつだって遠くの方までぼんやりだけれども照らし出してくれるのだ。


 今は結婚して、わたしは旦那(酒飲み)と二人の子供と一緒に住んでいる。生活スタイルは大きく変わったけれど、変わらず今もゆっくり話したい日にはテーブルの上にワイン。

わたしはこれまでワインに導かれて生きてきたし、これからのその光に沿って生きていこうと思う。


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