かにチャーハンはじめまして

お腹が空いていた。いや、正確にはお腹が少し空いていた。出張の帰路、新幹線の中で晩ご飯に思いを馳せる。昼にはとんかつをお腹いっぱい食べたので、そこまでお腹は空いていなかった。しかし、家に帰ってから食べるとなると遅い時間になってしまう。なにぶん普段は早い時間に晩御飯を食べることを常としているので、乗り換えの駅やらで食べてしまいたいのが本心だ。

お腹はあまり空いていない。そして昼にはハイカロリーなものを食べた(ちなみに朝、クリームたっぷりのフルーツサンドも食べている)。こんなときには、お腹に優しくて、あまり重たくないものを食べるべきだ。そう確信した。そこで、新幹線の乗り換え駅の構内でうどんの店がないかを調べてみることにした。うどんの店はなかった。かろうじてそばの店があり、仕方がないのでそばにすることにしようと、おおよそ立ち寄るお店の目星をつけたところで、すこしばかり眠ることにする。ほおっておくといつまでもいつまでもスマホを眺められる自分で、そのとき充電は35%。電池が切れたら改札出られなくなっちゃうのかなあ、と不安に思うが、いまどきのモバイルなんとかは電池が切れてもしばらくは改札を通ることができるらしいし、大丈夫だろう。なんとも便利な時代になったものだ。そもそも、新幹線をきっぷなしで乗られること自体が素晴らしい。少し前に新幹線に乗った時は、そのような便利なものがあるとは知らず、かなり手間取ってしまった記憶がある。

さて降りる駅に着いたところで、お店を目指そう。地図などみても覚えられないので、ひとまず案内図を探すことにした。そこで見つけた「かにチャーハン」。ここ数年、わたしは食べたいものは食べるをできうる限り実行している。なぜなら、自分のいちばんの幸せは食べることであって、しかもお金を払ったとて高くて3,000円くらいだからだ。ケチで節約な20代を過ごしてきたので、このくらいの贅沢が許されないことがあろうか、いやいや誰に許してもらうって話だ、誰もわたしを止められないのだ。そういって朝もフルーツサンドを買って、もぐもぐ食べたわけである。まあそのフルーツサンドは思ったよりクリームが甘くて、いちごの甘味が少なくて、パンがパサついていて…あまり褒めたものではなかった！しかし、このときにこのフルーツサンドを食べたことで、今後の人生100歳まで生きるとしてあと約70年、このお店を目にした時に食べようかどうしようかと迷う時間をなくすことに成功したのである！失敗はすべてプラスのことに変換される。何かに挑戦して、できないことが・わからないことがわかった。と同じように、もう食べないということがわかったのだ。そのくらいこの一食から得たものは大きい。今後70年の自分は大いに今日のわたしに感謝をしてほしい。

ということで、つまりは「かにチャーハン」を食べることにしたわけである。もともと中華をあまり好んで食べない。この、自分に対する「もともと」という感覚は今考えるとあまりよくない。なぜなら、新しいことに挑戦する機会を減らしているからだ。もともとなんて、たった30年しか生きていないくせに元だ、なんだってあるもんか。とまあ、わたしはもともと中華はあまり食べないのであるが、ここぞとばかりにかにチャーハンを食べてみることにした。あまりお腹が空いていなくて、軽いものを食べようとしたのに。だ。人間は日々、毎分毎秒変化している、あのときの自分とは違うのだ。

さあさあ、注文したかにチャーハンだ。なんといまはキャンペーン中でかに汁が無料で付いてくるらしい！かに汁！また食べたことのないものだ。かに汁が先に届く、ああ、この匂い、この匂いはかにの匂いか。あんまり好きじゃないぞ。この時初めて、かにの匂い、それもつよいかにの匂いがあんまり好きではないことに気づいてしまった。まあ仕方ない、食べられないわけではないので、食べるのだが。もうかにチャーハンとの勝負も決まったようなものである。消化試合とはこのことか。かにチャーハンも届いたので、たべる。かに汁ほどのかにの匂いはなく、お米がパラパラで上手に作るもんだなあと感心する。

家に帰ってなるべく早く寝てしまう。かにチャーハンはじめまして、短い間でしたがありがとう。君は君でしあわせになってね