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「奇特な病院2」今までよく生きてきたね科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第39外来:今までよく生きてきたね科(患者 栂村惣一郎)

 魅力再発見科を始めて、いろいろ気づくことは増えた。
 みんな自分の魅力というものに、気づいてないことがほんとうに多いと感じる。その力になれたらと続けている。
 私の元へは、定期的に「今までよく生きてきたね科」の來野先生が、訪ねてくる。
「院長、いかがですか?」
「また来たのかい?」
「だって私は、院長の主治医ですよ」
「私は認めてないがね」
 と言って、お互いの目を見て笑い合う。ユーモアに救われるときもある。
 私も魅力再発見科を始めて、若い子との交流に悩んだときは、來野先生に相談することにしている。
「そんなこと、今の時代では当たり前です」
 と返される。
「私が古いのかな」
「そうとまでは言いませんけど、もっと楽に考えましょう。若くても、院長ぐらいの年でも同じ人間ですもの」
「そうかね」
「だって院長は、その年まで患者さんと同じように悩みを持ち、それでも患者さんに寄り添いたいとこの病院を始めたんですよね」
「そうだよ。若い頃の私は、やる気に満ち溢れていたさ」
「ストレスに感じることももちろんありましたよね?」
「そうだね。でも、なんとか人に助けられて、やってこれたよ」
「まさに私の患者ですよ。今までよく生きてきたね科の」
「よく生きてきたねって誉め言葉なのかい?」
「そうですよ。なんだと思ったんですか?」
「労わりの言葉だと思っていたよ」
「労わりですか?労わられたかったですか?」
「そんなこともないな」
「私が考えていたのは、院長の背中を思いっきり押す科にしたかったんです。だから、時々、院長が元気を失ってないかとチェックに来てるんですよ」
「そうだったのかい?」
「そうですよ。お菓子と紅茶目当てだと思ってました?」
「はははは」
「そう思ってたんですね」
 私は、人に助けられてまた笑っていた。
 來野先生は、去り際に、大きな声で叫んだ。

「院長、お大事に」

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