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「奇特な病院」魅力再発見科(第1シーズン完結)

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第46外来:魅力再発見科(院長 栂村惣一郎)

 私は、私の力が足りずに、一つの命を失ったことがある。
 そこから同じように命を失うことが二度とないようにと、この奇特な病院を作った。その助けられなかった命のことを考えると、今でも胸が苦しくなる。
 奇特な病院は、普通の病院では、手の回らないような患者を相手にしてきたと思う。
「えっ?そんなこと他人に相談できない」
 かゆいところに手が届けばいいと思ったら、今まで45外来も科ができてしまった。
 整理整頓科の須藤くんには、科を減らしてくれと私の顔を見るたびに言われる。
 今までよく生きてきたね科を作りたいと言い出した來野先生に至っては、私のための科を作ると言われて驚いた。
 須藤くんに聞いてみた。
「私は、頼りないかね?」
「そんなことはありません」
「そうか」
 私は、人に命令されるのも、命令するのも好きじゃない。できるだけ生きているうちに他人の声を聞いていたい。自分が間違っているかもしれないということを大前提にして生きていきたい。私ぐらい年を取ってしまえば、起きたことや聞いたこと、人の名前をすべて覚えていることなんてできないのだが、それでも進化をやめたくはない。
 常に奇特な病院を必要とする人に、自分自身の魅力を再発見して、人との関係を諦めて欲しくない。
 私が、突然思いついたように、
「魅力再発見科を作って、私が担当したいんだよ」
 と言ったら、須藤くんは、私をじっと見て、
「院長がやるんですか?」
 と驚いたようだった。いつも誰かに仕事を頼んで、広げていくのが、私であるように思っていたのだろう。
「そうだよ、私がやるんだ。患者さんも受け入れるし、私の責任において、働いている先生たちや看護師さんの言葉もいろいろ聞こうと思ってね」
「他の仕事はいいんですか?」
「もちろん。忙しくなるさ」
「あの、一つ、やってもいいですけど、僕からお願いはいいですか?」
「なんだね」
「とりあえず科はもう増やさないでくれますか?」
「ああ。そのことか」
「今後は、今ある科の患者さんや先生たちの想いを再発見していってくださいね」
「ああ、わかったよ」
 須藤くんには、頼りっぱなしだ。
 須藤くんにも人に頼られるという魅力を自覚して欲しいが。
「院長、自分の魅力について興味はないんですか?」
 須藤くんが、一緒に昼を食べていると言い出した。
「私の魅力かい?」
「そうです」
「どんな魅力があるのかな。ないんじゃないかな」
「ありますよ」
「どんな魅力だい?」
「それは、自分で見つけないと」
 と須藤くんは、そう言って笑った。
 そうか。人の応援をしたり、人に意見したり、人と笑ったりするときに、自分でもどういうところが魅力かわかっているのは、とても重要なことかもしれない。
 そう思ったら、私は、嬉しくなった。自分自身も再発見しないと。
 とても最後にいい科を思いついたと思ったからだ。
 精進していこう。日々。

 どうかみなさま、お大事に。

 またお会いしましょう。それまでお元気で。

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