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「奇特な病院」今までよく生きてきたね科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第39外来:今までよく生きてきたね科(担当医 來野いお)

 私が、この科を作ったのは、たった一人のためだ。
 その人とは、この奇特な病院の院長である。
 私が、整理整頓科の研修医だった頃、院長が言った。
「もうだめかと思うことは、今までたくさんあった。こんなに病院にいろんな科が増えて、誇らしい気持ちもあるが、それを実現するために、私なりに必死にこれまでやってきた」
 そう言って、須藤先生に愚痴を言いによく来ていた。
 私が、須藤先生が推薦してくれて、新しい科を持つことになったとき、私は、院長に言った。
「私は、院長のために今までよく生きてきたね科を作りたいと思います」
「私のために?」
「そうです。最初の患者さんは、院長に決まっています」
「私かい?」
「そうです」
「私は、そんなに今までよく生きてきたように見えるのかい?」
「はい」
「そうかなぁ」
「そうです」
「そうかなぁ」
「院長は、この奇特な病院を運営していくために、各科を立ち上げから、尽力してくださったと聞いています。小娘の私が言うのもなんですが、院長は、今までよく生きてきたんです」
「はぁ」
 院長は、腑に落ちないようだった。
「だって須藤先生が言うんですもの。院長は、10円ハゲを作ったり、胃の調子が悪かったり、その上に頭痛持ちらしいじゃないですか」
「まぁ、そうだけども」
「だから、最初の患者さんは、院長です。今までよく生きてこられましたね。たくさんの坂道も上ってこられた。感謝だけ伝えたかったのです。そして、これからもよろしくお願いします」
「私だけしか患者はいないようだね」
 と院長は、大きく笑った。
「それでも構いません」
「そうかなぁ。また須藤くんに怒られるような気がするなぁ」
「いいんです。頑張ってる人は、労わってもらうだけでいいんです」
「そうかい?それなら、また私は、患者としてこの科に来ていいかい?」
「はい。この病院を頼みます」

どうかお大事に。

(第40外来は、仲間はずれ科です)

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