僕の親友

 僕には親友がいます。名前はロボ太。僕が住んでいるマンションの隣の部屋に住んでいます。僕が小学校二年生だったときに引っ越してきました。

 僕たちはいつも一緒です。学校に行くときも、学校に来てからも、家に帰るときも、遊ぶときも、宿題するときも、たまに夕飯を食べるのも一緒です。僕のお母さんの料理を、ロボ太はすごくおいしそうに食べます。

 ロボ太には、僕だけが知っている秘密があります。それはロボ太が人間ではなく、ロボットだということです。その証拠に、ロボ太はよく関節に注射をしています。これをやらないと、関節が錆びて動かなくなってしまうそうです。何を注射しているのか疑問だったのですが、油を差しているんだなとあとから気づきました。

 そのことをロボ太から教えてもらったとき、僕はすごくビックリしました。でもロボ太が親友であることには変わりません。だってロボ太は、僕とたくさん遊んでくれるし、勉強も教えてくれるし、ときどきお菓子を分けてくれるし、困ったことがあったら助けてくれたからです。

 そして何より、僕はロボットが大好きだったからです。僕の大好きなロボットは悪い奴らをやっつけたり、困っている人を助けてくれます。だからロボ太も、見た目は僕と同じ普通の子どもだけど、きっとスゴいロボットなんだろうなって思い、憧れました。

 夏休みのある日、僕たちは家族一緒にキャンプに行きました。毎年この時期になると必ず来ている、いつものキャンプ場です。キャンプ場の近くには川があります。テントを張り終わった後、僕とロボ太はそこで楽しく遊びました。川の水はとても澄んでいて、冷たくて、気持がよかったです。

 遊んでいる途中で、ロボ太がサワガニを見つけました。僕はロボ太と協力して捕まえようとしました。

 でもそのときでした。僕はたまたま川底が深いところに脚を踏み入れて、そのまま流されてしまいました。

 僕は必死に手足を動かして泳ごうとしました。でも何もできないままどんどん流されてしまいました。水をたくさん飲み込んでしまって、とても苦しかったです。

 もう駄目だと思ったときでした。ロボ太が泳いで助けに来てくれたのです。そのときのロボ太は、正義のロボットみたいで、とってもカッコよかったです。

 僕はロボ太に掴まって、なんとか浅瀬に上がることができました。でもロボ太はどこにもいませんでした。いくら呼んでも返事はありませんでした。僕は怖くなって、お父さんたちを呼びに行って、一緒にロボ太を探しました。途中でレスキュー隊の人たちにも来て、探してくれました。

 ロボ太は、キャンプ場からずーっと遠くに離れた岩場にいました。レスキュー隊の人が見つけてくれたときにはもう死んでいたそうです。

 僕は、ロボ太はロボットだから、死んだなんて嘘だと思いました。頭のいい博士がすぐに直してくれるんだって信じていました。

 でも何日かしてロボ太のお葬式がありました。棺桶に入ったロボ太の手に触ると、鉄みたいに硬くて冷たかったです。そしてロボ太は焼却炉みたいな部屋で燃やされて、骨になって出てきました。そのとき初めて、僕はロボ太が本当は人間だったことを知りました。

 どうしてそんな嘘をついたのか、僕にはわかりません。嘘をつかれたことはとても悔しいです。大好きなロボットのことを馬鹿にされたみたいで、怒りがこみ上げてきました。でも同時にとても悲しい気持ちになって、いつまで経っても涙が止まりませんでした。

 

 僕には親友がいます。名前はコウタロウ。僕がこの町に引っ越してきた時、マンションの隣の部屋に住んでいた、僕と同い歳の男の子です。

 僕たちは普段からいつも一緒です。学校に行く時も、学校の中でも、家に帰る時も、遊ぶ時も、宿題する時も一緒です。時々、晩御飯をご馳走になったり、お泊まりさせてもらうこきもあります。コウタロウのお母さんの料理は、どれもとてもおいしいです。

 でも僕には、コウタロウに秘密にしていることがあります。それは「僕がロボットだ」という嘘をついていることです。

 僕は生まれつき、ある病気に罹っています。それは体の関節が錆び付いてしまう病気です。だから一日数回、膝とか肘に薬を注射しなくてはならないのです。

 前の学校では、仲が良いと思っていた友だちにそのことを馬鹿にされて、とても辛い思いをしました。だからもしかしたら、コウタロウも、同じように僕のことを馬鹿にするんじゃないかと思ってしまい、そんな大嘘をついてしまいましたのです。

 こんなことを言ったら、それこそ馬鹿にされる。そう思って、そのとき僕は怖くてたませんでした。

 でもコウタロウは僕の嘘を信じてしまいました。その時はまだ、コウタロウがロボットが大好きだということを、僕は知りませんでした。

 罪の意識もあって、僕はコウタロウの為に色々なことをしました。一緒に遊んだり、宿題を手伝ったり、お菓子を分けてあげたり、一緒に先生に怒られたり――。その度に、コウタロウはとても嬉しそうに笑ってくれました。そのときはもちろん僕もとても嬉しい気持ちなのですが、一人になると、胸に釘を刺されたみたいに辛かったです。

 夏休み、コウタロウのお父さんの誘いで、僕たちは山にキャンプをしに来ました。テントを張り終えた後、夕飯まではまだ時間があったので、僕とコウタロウは近くにある川で遊びました。川の水はとても澄んでいて、冷たくて気持ちがよかったです。

 しばらくしてコウタロウがサワガニを見つけました。捕まえて飼おうとコウタロウが言って、それは楽しそうだと僕は思って、頑張ってサワガニを捕まえようとしました。

 でも気づくと、コウタロウは川に流されていました。そのときコウタロウのお父さんはトイレに行ったっきり、まだ戻ってきていませんでした。

 このままじゃコウタロウが溺れ死んでしまう。そう思って、僕は川に飛び込んで、コウタロウを助けに行きました。普段はぎこちなくしか動かない体が、このときだけはビックリするくらい滑らかに動いて、あっという間にコウタロウの元に辿り着きました。

 けれども、コウタロウを川底に脚が着くところまで運んだ瞬間、僕の体はピタッと動かなくなってしまいました。それこそバッテリー切れのロボットみたいに、全身が固まってしまったのです。

 僕は、自分はこのまま溺れ死んでしまうことがハッキリとわかりました。これは親友に大嘘をつき続けた罰だと思いました。

 嘘がばれたら、コウタロウはすごく怒るだろうなと思いました。少し前、大好きなロボットをクラスの女子たちに「子どもっぽい」って馬鹿にされたときも、すごく怒っていました。

 けれどもその親友の命を助けられたことは、コウタロウがいつも憧れていた正義のロボットになれたみたいで、とっても――

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