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映画感想 『ベトナムから遠く離れて』(1967)

『ベトナムから遠く離れて』(1967)を観た。
ベトナム反戦運動を背景にクリス・マルケルが中心に製作されたフランスのドキュメンタリー映画。オムニバス形式でアラン・レネやヨリス・イヴェンス、クロード・ルルーシュ、ジャン=リュック・ゴダールなど錚々たるメンバーが参加。

各地の反戦デモやそれに反対するデモ、ベトナムの生活の風景と人々の顔、トム・パクストンのフォークソング、米軍司令官によるベトナム戦争に対する公式見解のスピーチ、フィデル・カストロの語るゲリラ戦……とベトナム戦争をめぐる幾つもの出来事や言説が取り上げられる。

特に印象に残った箇所が二つ。
第4章「クロード・リデール」ではクロード・リデールという架空の男性が、沈黙し続ける女性にベトナム戦争について語っている。ベトナム戦争をめぐる世界的な状況と、戦地から遠く離れて戦争を語ることへの葛藤について滔々と彼は話し続ける。女性は最後まで一言も語らずにただ彼を見つめ返す。

「この本を僕に読ませる目的は? 判断や説明を聞く耳はない 聞こえるのは叫びだけだ その叫びといかに向き合えばいいのか 叫びの聞こえない場所と時を求め動物のように穴を掘るしかないのか 彼らの言葉を書かない 言う言葉もない ベトナムではない国の話をしよう 存在しない国の話を 何も書かない 何もしたくない 怖くて寒気がすると彼らに言おう 愛しまた憎んでいるとも 誰もが死に誰もが生き続けたい 分からない 何も分からない 何も書かない」

第6章「カメラの眼」はゴダールのモノローグ。パリで彼はカメラを覗きながら自身とベトナム戦争とについて話す。彼は一年ほど前に北ベトナムへ取材の許可を取ろうとして断られているが、それはおそらく彼らにとって自身が曖昧で信頼できない存在だったためであり、そのことは正しかったのだろうと語る。自らにできるのは映画を撮ることだけで、そこで彼らの損になるようなことをしてはいけなかった、私がそこでするべきは人々について何か言うことではなく彼らの叫びを聞くことだと。

私の抱いていた考えはどれもこれも偽りの寛大さでありそれをもとにつくるのは困難だ たとえば爆弾の話 降り注ぐ現地で抽象的には語れない

ーーつまり私に、私達にできる唯一のことは映画をつくることだ 私は撮る それがベトナムのためにできる最善策だ 物事を強いる声高な寛大さを力にベトナムを侵略するのではなく、むしろ私達が逆にベトナムに侵略されること 日々の生活を占拠しているベトナムを認識することだ そうすれば気づくだろう ベトナムが孤立しているのでなくアフリカも南米もベトナムなのだと

ーー労働者は私の映画を見てくれない 私と労働者、私とベトナム、労働者とベトナム間の断絶は同じだ 我々は寛大さをもってしかお互い関心を示さない だがその寛大さは現実に即していない お互いに知らない存在だ

真の革命家ではない我々はできるだけ叫びを聞き波及させねばならない カット!


数ヶ月前に現代美術の展示に行ったときもこないだ映画館で観た映画も『ベトナムから遠く離れて』もそうだが、距離や断絶、覆い隠される傷や叫びに対してどう向き合ったらいいのかしばしば考える。自分にとってゴダールはすこしヒントになったと思う。『映画史』で表現expressionじゃなくて感化impressionnéが重要な問題なんだと言っていたけれど、つまりもっと現実の出来事の全てに鋭敏であるべきなんだろう。というかそうありたい。出来事が刻まれる書物やフィルムのように日々をもっと傷付きながら生きていたいのだけれど、もうずっと頭がノイズだらけで感覚が鈍ってきている。
自傷したり薬を飲んだりやめたりしてみても意味ないね、とにかくどうにか頭のなかをクリアにしたい毎日だな。

家の近くにある一軒の荒屋の前を通るときに救いを感じてしまうのは、それがこの土地と生活のなかであまりに剥き出しの裂傷だからだろう。真実めいてしまう。本当に荒れ果てていてガラスは割れて路上にゴミが飛び出していたりするんだけれど、それを見ると、ああ、早く路上で剥き出しの傷だらけのゴミになりたい、と思います。苦しいー。

映画の感想から少しずつ離れていってしまったような気がする。つまり個人的に観れてよかったと思う。離れて起きていることに対してつねに敏感でいたい、というのは今の時代にもすごく意味があるし。
それから1967年4月15日の大規模デモを取り上げた最終章はなぜ「めまい(Vertigo)」という題にしたのだろう。マルケルは作品でたびたびヒッチコックのめまいに言及する。そこに彼が見るのは歴史のめまいだろうか。

あした早起きなのに感想書いていたらこんな時間になってしまった。おやすみなさい。

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