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池内恵先生による「Tokyo College ウクライナ危機を見る複数の眼<中東>」 文字起こし


「何故中東諸国は若干ロシア寄りの立ち位置を取るのか」

という疑問に対して、西側メディア、ロシアメディアと全く異なるロジックからイスラム研究で著名な東京大学の池内恵先生(@chutoislam)がTokyo Collegeにて語っているYoutubeが興味深かったので文字起こしをしました。


興味を持った方は是非本編をご視聴ください
インタビュアーは寺田悠紀さんです。


中東諸国の3つの色分け

-国連の決議が3月にあり140カ国以上が賛成だったがその中で反対や棄権があった。日本の報道を受けていると欧米の視点が中心になってくるが中東諸国はどう受け止めているのか?

中東は大変広く、色んな陣営が入り乱れているので一つの中東の反応とは言いにくい。最初に簡単に中東を色分けする。

大きく分類すると反米陣営が「イラン」「シリア」。そしてイランの影響力が浸透している「イラク」「レバノン」がどちらにつくかというのが長い間いつも揉める。

それに対して親米陣営とされてきた国がありまして、その中でも産油国と非産油国の2種類がある。石油があって富が集中している「サウジアラビア」とか「UAE」
それに対して「エジプト」は産油国ではない。ただし、非常に規模が大きい。かつては民族主義の時代は石油は無いんだけれども規模が大きい、それなりに国家機構が巨大で軍も大きい。そのような国が代表的で力があった。
最近は人口規模が小さいんだけれども経済規模が大きい産油国、そしてその資源が指導者の手に集まっているような国々の力が大きくなっている。大きく見るとこの3つぐらいに色分けできる。

反米国の動き

このロシアのウクライナ侵攻、ウクライナでの戦争について中東のこれら3つの陣営がどういう風にしたか。
まずいわゆる反米陣営、「シリア」あるいは「イラン」これは露骨にロシア側に立っている。特にシリアになりますと例えば3月2日の国連総会の決議で反対をしている数少ない国の一つ。それ以外は北朝鮮なども反対しているが極少ない。
それに対して中東の多くの国は棄権した、あるいは投票しなかった。その棄権した国の代表が「イラン」、そして「イラク」。そして総会の決議においてはイランの影響力がある程度強い、あるいは「アルジェリア」のように産油国として、しかも湾岸産油国とはちょっと距離を置いている、歴史的にもかつてはソ連・ロシアと関係が深い国、そういった国は投票しないとかあるいは棄権するといった行動を取る。こうしてみますと国連総会決議の段階ではそれ以外の国、多くの親米とされていた国は賛成している。

UAEとイスラエルから見る親米国のアメリカ離れの兆し


基本的にはアメリカ側に最後はつくが最後の最後に至る色んな段階でアメリカにつかない、中立を取る代表が「トルコ」ですね。中東の大国として台頭しつつあるトルコ、あるいは「サウジアラビア」、そして「UAE」。これらの親米の産油国とされていた国が、国連決議においてはどちらかといえばアメリカ側につく、賛成するんだけれどもそれはあくまで拘束力がない国連決議という段階では賛成する。ところがここで象徴的なのが「UAE」(アラブ首長国連邦)ですね。その前の2月24日のロシアのウクライナ侵攻の翌日に提起された決議、こちらは拘束力のある安全保障理事会ですね。こちらに非常任理事国として中東から入っているUAEが中国インドと一緒に棄権した。これはかなり大きな出来事。UAEというのは経済的な陣営でいえば明らかにアメリカ側。また安全保障においてアメリカに非常に依存している。ただ同時に従来からアメリカが頼りにならないと見るとロシアと軍事的、あるいはエネルギーの輸出国としての関係を深めてきた。あるいはアメリカとの対立が日増しに強まっている中国に対しても、アメリカは中国との関係を断ち切るように要求するんだけれどもUAEはそれを受け入れない。そういった形でアメリカとの距離が見えてくるUAEが安全保障理事会の決議で中国インドと並んで棄権したというのはかなり大きな出来事として受け止めている。つまり「親米国、しかも産油国の一定の距離を置くアメリカ離れ」といった動き。
それからもう一つ顕著な動きが「イスラエル」ですね。イスラエルという国はかつて民族主義が強かった時代には中東民族主義とアラブ民族主義あるいはイランの民族主義からはあってはならない国とされていた微妙な立場であった。ところがイスラエルはいま急速に、特にアラブ諸国と接近している。それは従来から和平を結んでいたエジプト、あるいはヨルダンといった非産油国との関係だけではなくて、むしろいま産油国サウジアラビア、UAEとの関係を急速に強めている。これは親米陣営でまとまる動きに見えるわけですね。ところがこれらのサウジアラビアやUAEやイスラエルといった国がまとまって逆にアメリカから若干離れている、そういった現象が起こっている訳ですね。2月25日に拒否権で否決された安保理決議。その安保理決議に共同提案国、理事国ではない国は共同提案国になるんですがこの共同提案国は80カ国ぐらいになってたんですね。これはイスラエルがアメリカから共同提案国に誘われたんだけど断った。あるいはそもそも誘われてすらいないとイスラエル側の一部は言い張る。いずれにせよ提案国にならなかったんですね。は世界80カ国が提案国になっている中でイスラエルはならない。そういう決断をしてこのように「従来アメリカと非常に関係が深いと思われていた国々がアメリカと距離を置き、ロシアに一定の配慮を示す」そういった動きが見えた。これはかなり大きな出来事だと思う。
これは中東の専門家だけではなくアメリカと中国など大国間の関係を見ているグローバルな専門家から見ても非常にインパクトのある、つまり大国間関係は2国間で終わるのではなく、それ以外の国と有力な国をどれだけどちらかの陣営が惹きつけるかという所が重要になっているんですが、その中でアメリカの従来の考え方でいえば当然イスラエルはアメリカ陣営であるし、湾岸産油国というのはアメリカ陣営であるという風に思われていたのが必ずしもそうではないという動きを見せ始めている。そこが非常に注目されている所ですね。

イラクとレバノンの動き

-イラク戦争でアメリカと関係したイラクの動きは?

今回は国連総会決議をイランと一緒に棄権しているんですね。親米陣営とイランを中心とした反米陣営の境場というかどちらの影響も及んでいるという「イラク」やレバノン、そういう国がどっちに立つかというその時の微妙なさじ加減によるんですが今回はイランの側についている。その背景としては一つはイランの地域における軍事的な驚異が高まっている。つまりイランは隣国イラクに対しての影響力はすでに内側に及んでいる訳ですが、ペルシャ湾の対岸のサウジアラビアやUAE、ここにイランの軍事的な驚異がかなり及んでいると認識されている。つまりイランが有利になっているという認識なんですね。イランが急に超大国として躍進している訳ではない。むしろその原因はアメリカが強くイランを抑制してくれないので。それは例えばアフガニスタンでアメリカが何が何でも引いていく、それ以外にも中東における軍事プレゼンスを引いていく。少なくともこれ以上当面軍事プレゼンスを上げていくという意思はアメリカ側が見せていない。こうなるとイランが黙っていてもイランの影響力は増すという様に少なくとも隣国や、ペルシャ湾の対岸のサウジアラビアやUAEなどは認識している。対イランで不利になっている認識がある。その中でイランが今回明らかにロシア側についている。そこでイランにある程度同調するという判断をする。それ以外の要素もありますがいずれにせよイランのご機嫌を取らなければいけない事情があった。それに対して「レバノン」についてはかなり綱引きをしていて、アメリカがかなり強い要求をしていてレバノンは要求を否定していますがアメリカ側についた。いわばイランとアメリカの関係で一対一になっているんですね。それがちょっと面白い現象ですね。

トルコの動き

それからやはりいちばん顕著な現象はイスラエルの話をさきほどしましたけどそれに並んで「トルコ」。ロシアとアメリカの間を仲介すると意思を示して実際に何かをやってみせる代表的な国になっている。これが特徴的ですね。しかもその仲介というのはアメリカの側に立ってアメリカ側の要求を伝えに行くというものでは無い訳です。明らかにアメリカは西側の結束を高めている。それは成功していますし、またウクライナ支援についてもかなり成功している。それに対してむしろウクライナ支援やあからさまに参加するよりはあくまで人道的なものに留めて軍事支援はしない。その意味で軍事的にはロシアとウクライナの間で中立ですという立場をなるべく保ちながら仲介する。そこで上手くいってる場合と上手くいってない場合もありますけど、短期的にはウクライナ側もロシア側もトルコのあるいはイスラエルの仲介努力に対してはかなりポジティブな反応を示している。すぐに仲介に従って和平や妥協をするということではありませんが、その仲介努力が一定程度有効であって、将来その提案あるいは設定した場を請けるといった姿勢を見せている。例えばイスタンブールでロシア・ウクライナの首脳会談をやがてはやる可能性もあるという動きが当事国からも見えてきたり、あるいはウクライナなどは例えばエルサレムで和平協定をやってもいいと言ってる。アドバルーンかもしれませんが象徴としてイスラエルを使う。
また人脈ですね。例えばユダヤ系の人たちが非常に有力な経済人としてロシアにもウクライナにも居てその人達がイスラエル、あるいはトルコでかなり資産を、あるいは人間関係を持っている。その人間関係や経済的な繋がりを元にしたこの紛争における仲介者としても影響力を示そうとしている。その際に自らの立場をどういう風に表現するかというと「中立である」と。そしてアメリカからは自立した立場を取っているという事を見せたいし、また現地の人に聞いてみると実際にそう思っている訳ですね。自分たちは今アメリカの影響力は中東から引いている中で自立しないといけない。そしてロシア側についている訳じゃないけど中立でいないといけないしいたい。中立していないとそもそも自分たちの国益が守られない。アメリカについたら守られないという認識は中東の国々は持っている。それらの国は例えばトルコはNATO加盟国である訳です。イスラエルはアメリカとの極めて特別な関係を持っている。ちょっと更にはUEAやサウジなんかも中立かつ仲介をしたいという意思を示しいてこれらのどの国もアメリカとの関係に必ずしも依存しない立場を築いていかないといけないという意思を、ロシアのウクライナ侵攻の前から持っていてそれがこの対応において表れているということだと思います。


アルジャジーラ英語版とアラビア語版の報道

-戦争において報道はかなり重要だが中東各国はこの危機をどのように報じているのか?

地元メディアとアルジャジーラのような中東にある国際メディアと2種類あります。アルジャジーラの場合はアラビア語版と英語版でかなり姿勢が違いますよね。例えばアルジャジーラの英語版になるとかなりBBCなどに近いと考えていいですね。もちろんそこで「我々はThe WEST、西側だ」そういう姿勢は取りませんけど人道主義のような立場を取る。そうすると自然にロシア側の方が人道主義の立場からみて明らかに問題がある行動を取っていますので批判の対象となる。そういう意味でかなりBBCなどに近い報道をしている。それがアラビア語の報道になると、更には各国のアラビア語の新聞やテレビの報道だと100%抑えることは出来ませんが傾向を見ますと、まず世界の重要な出来事であるということは当然そういう扱いはしています。一面に乗せるとか。ただその報じ方となると西側対ロシア、しかもその西側が国際社会そのもであるという見方は取らない。むしろこの西側が結束してロシアが対立している、それを第三者的に見るという感じですかね。それがもう圧倒的ですね。

中東諸国の地元メディアの報道

トルコの場合は主体的に関わっているのでエルドアン大統領が何をやっているか、ということになるんですけど、アラブ諸国の場合はもっと中立的になる。その中でその第三者的な悲劇の報道をする。ただし同時に国内報道とかですね、あるいはサウジアラビア、クウェートでいえば目の前にイランがいてなにかやってる、あるいはイランとアメリカの交渉が進んでいって親米の国からいうとアメリカがイラン寄りになっている、そういう見方な訳ですね。そうするとそちらの方の記事・報道の方が多くなる。そういう傾向があります。あるいはそこに並行して地域内部での活発な外交が進んでいる。それはイランが強くなるのでイランをなんとか宥めないといけないという若干イランに歩み寄る姿勢を示す外交もある。逆にイランがその手を取るようなフリをしつつイラクの関連する勢力からかなり致命的な石油関連施設とかあるいは発電、あるいは海水淡水化といった致命的なインフラに対する攻撃も行われるようになって、そういう意味で非常に差し迫った驚異が有りイランはそれを止めてないという状態がある。まずそのイランに歩み寄るんだけどイラン側はもっと強硬になっていく動きがあってそちらの方が関心事としては大きい。

イスラエルの中東諸国への外交姿勢

そしてそれに対してどうするかというと大きな流れとしては元来イスラエルを排除してきた諸国がむしろ今一番イスラエル寄りになってる。イスラエルはこの外交的なチャンスを捉えようとしている。かつて民族主義が強かった時代にエジプトのような国が民族主義の視点からイスラエルを否定して戦争をする。それを独立してからそれほど時が経っていない湾岸産油国が民族主義がそんなに強くない訳ですが同じアラブ民族としてそれに追随するという動きだった。今起こっていることは逆で湾岸産油国に積極的にイスラエルが働きかける。それによって湾岸産油国が引き起こすオイルショック、この恐怖を無くすわけです。そのショックというのはイスラエルに対しての驚異ではなくて例えば日本とか中国とかそういった石油を輸入する大規模に輸入して使用する消費国にとってのショックなんですね。そのような第三国・それ以外の勢力から見るとイスラエルを全面的に支持できない理由の一つとして人道問題だけでなくて経済問題、オイルショックが怖いというのがある。これをイスラエルはいま湾岸産油国との関係の急速な強化でオイルショックの可能性を無くしていく。そして湾岸産油国はむしろイスラエルに強く接近して結びついてそこから安全保障上の技術とか情報とかを得ていく。あるいは国際的な支持を得ていく。それによって安全を確保しようとする。その場合の仮想敵国はイランなんですね。まずイランに対してどう対抗するかという所から現地の外交がかなりダイナミックに行われていて、その中ではこれまで親米陣営の中でも仲が悪かった、例えば湾岸産油国の中でも仲が悪かった「カタール」と「UAE」と「サウジアラビア」の間に対立があってカタールが排除されている、これを乗り越えようとする。あるいは大国のトルコですね。このトルコとUAEとかサウジアラビアやエジプトの関係は悪かった。これを乗り越えようとするそういう動きあるのでそういった動きの報道の方が実際それらの国々の国家元首が関わっていたりする。例えばイスラエルの大統領がトルコ訪問するとかですね。そういった事があるのでそちらの報道のほうが大きくなる。つまりロシア・ウクライナ問題というのは今現在生じている世界史上の、あるいは国際政治上の大問題ではありそしてそれは常に行動されているんだけれども、one of themというんですかね、自分たちの周りでもっと重大なことが起こっていると考えてそれを報じるという場合は結構あると思いますね。

中東諸国におけるロシアの存在感

ロシアが今回関わっているので重要な国についていうとロシアとの個別の利害がある、例えば分かりやすいのが湾岸産油国ですね。UAEやサウジアラビアはOPECという産油国の集まりがありロシアは入っていないんだけれどもOPEC+という形でロシアを引き入れてそれによって世界全体の中での産油国グループとしてのシェアを圧倒的にする。そしてそのOPEC+で合意する事で世界の石油市場を支配する戦略をとってきた。そのロシアを敵対することは避けたい。あるいはそのロシアが決定的に戦争に破れて崩壊してしまうことも避けたい。あるいはロシアが非常に強い経済制裁を受けて石油を売れなくなる、売れなくなったがゆえにインドとか中国とかに制裁破りをしてくれる国にものすごく安く流すとかそういう事になると市場自体に非常に打撃を受けますよね。いずれの方向も好ましくないというのが中東の産油国の立場。なんとか収まってほしい。つまりロシアのウクライナ侵攻の人道的な問題を重視するよりは自らが死活的な利益を持つ国際的な石油市場に及ぼす影響、これがロシアが崩壊するとか、ロシアが制裁を受けて石油価格を大幅に引き下げるといったそういった問題の方が問題として大きい。であるがゆえになんとか収まってほしい。そういう立場を取る。

ロシアとシリア

それからイスラエルについていうと隣国シリアについてロシアが軍事介入していて実質上アサド政権は現地の感覚でいうとロシアに付属した政権として見られている訳ですね。もちろんアサド政権としてそうじゃなくて我々が主体的にロシアと協力してるんだと言いますけども。アサド政権と隣接した国々、トルコやイスラエルなどからすると軍事大国ロシアが隣にいるという認識なんですね。そういう国々からするとロシアと関係を悪化させると何をされるか分からない。とにかくロシアとは一定程度穏便な関係を保っておきたいという所があって明確に反ロシアになりにくい。またロシアは場合に拠ってはサウジアラビアやレバノンとかから見ればシリアにおいてまだ話しやすい相手だと見られている。シリアではウクライナでやっている事とほとんど同じ事をロシアはやってきたんだけども、そういう意味で人道的な危機が既にロシアにあるんだけれど、しかしそのロシアがいることでイランの影響力が制約されている。イランの影響力がシリアに完璧に入ってきてしまう事と比べればロシアがいるほうが良い、そういったバランスも各国強くあって、そういう意味でロシアがいなくなるということを非常に恐れているという事だと思います。

一般市民の受け止め方

一般市民の受け止め方はイスラエルであってもトルコであってもエジプトであっても、一般的には「ロシアがウクライナでやってることは非道い」という認識は個々の現象に関してあります。同時に現地には非常に反米思想みたいなものがあってそれはアメリカがもっと悪いとか、あるいは陰謀ではないかとか、そういったここではあまり適切ではない議論というのも非常に中東では一般レベルでは広まっています。場合によっては知識階層にも広がっているという問題がまずありますね。

中東諸国が共有する「多極世界」という概念

そしてその一般認識とは別に中東の国はそもそも民主的ではなく、というか全く民主的ではない国も多いので、その一般民衆の受け止め方とはまた別に戦略判断としてロシアには大国であって欲しいという考え方がそれはイスラエルであってもトルコであってもサウジアラビア、UAEなんかでもかなり共通してある。それらの国々のエリートレベルの国際政治にて用いられる概念が「多極世界」って言うんですね。つまりアメリカの一極支配が冷戦時代からずっと続いてきた、しかしそれが終わろうとしている。いやもうほぼ終わったと言って良い。中東の人達はアメリカの一極支配を最も強く受け止めてきた。今の指導者というのはアメリカ一極支配に上手く適応した国が生き残っていて適応した政権が生き残ったと言って良くて、その彼らが自らが拠って立っていたアメリカの一極支配が弱まっていると最も感じているんですね。その彼らが言うのは「これからは多極世界」「multipolar worldが既に現れている」「我々はその中で有利な立場を占めないといけない」。
そもそも多極世界というのを提議したのはかつてロシアの外務大臣とかをやったイラク方言が得意というプリマコフというアラビストなんですね。旧ソ連時代にアラブ世界への工作活動、外交をやっていた人なんですけど。そのプリマコフさんが提議した多極世界、90年代に提唱したんですがこの考え方が現実になっているというのが中東のエリートのレベルでは多くの人が思っているし、それは面白いことにかつて明確に親米側にいて東側陣営と対峙していたイスラエルも今はむしろ多極世界という考え方にかなり乗っかっていて。その多極世界の中で自分が大国であり続ける為には例えばUAEと関係を深める、あるいはトルコとも仲悪かったけど最近関係を深めようとする。そういう戦略判断をするというこのキャッチフレーズがですね、むしろアメリカ無き後の、唯一の超大国アメリカの力が弱まった後の世界を多極化世界という風に受け止めてその中で自立していく、あるいは多極の様々な極の一つとして、あるいは複数の極の間で協力して有利にいきたい、そういった考え方が中東の国にはかなりある。それが今回現れましたね。ただしこの多極世界というのはロシアが言い出したという所でも明らかなようにロシアがある程度強くないと成り立たないという所があるんですね。多極世界といくら言ってもロシアが本当に後退してしまうと米中の二極世界になってしまう。その中で中東はまた置いていかれる、あるいは冷戦時代に草刈り場となったような低い立場に置かれる、そういった認識があって願望としては多極世界があった方が中東の自主性が自立性が守られる可能性がある、多極世界であって欲しいという考え方もあってそこからもなんとかロシアに立場を勢力を維持して欲しいという根本的な認識があるようです。これは中東の人達が、政治家達がいくらこのように認識をしてもウクライナの現実は別の論理で進みますからその中東の政権の見通しが現実になるかは分からない訳ですね。今後現実が変わっていくと中東の国々の戦略判断も当然変わっていくと思います。ですがこの瞬間はまだかつてロシアが提唱した多極世界の中で中東の有力な国が優位な地位を占めるという夢、あるいはもう既に現実になりつつあると言うその認識に基づいて自律的な行動を取る、あるいはその立場を守ろうとする。その中で若干ロシア寄りという姿勢が見えてきているのではないかと思いますね。

(終わり)

動画の方が池内先生の軽妙な語り口が楽しめるので是非ご覧になってください

https://youtu.be/V8Jk2qSeuG0

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