30本目「赤い糸 輪廻のひみつ」【ネタバレなし】


※本文は全て無料です。

下北沢トリウッドにて

映画についての基本情報

公開日:2024/4/19(再上映)
監督:ギデンズ・コー(台湾)

落雷で命を落とし、冥界に連れてこられた孝綸(シャオルン)は、同じく冥界にやってきたピンキーとともに、台湾の縁結びの神様「月老」として現世に戻り、人々の縁結びをすることになる。ある日、2人の前に一頭の犬が現れたことから、孝綸は失っていた生前の記憶を取り戻す。それは孝綸が突然死んでしまったことで果たすことができなかった、初恋の女性・小咪(シャオミー)とのある約束だった。

赤い糸 輪廻のひみつ : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

まえがき

これまで、「フランス映画は弱点」だの「人の死なない映画は観ない」だの、さんざん自分の死角について書いてきた。
その中で書いてなかったであろう最大の死角の一つ(一つっきりとは言ってない)に「恋愛映画」がある。

詳細は省くが、これまでの経験上、私は恋愛に対しての興味関心がめちゃくちゃ薄い。共感しづらいのだ。銃を持って暴れるマッチョ男以上に。その上、そうなる前の高校生時代に山ほどの恋愛マンガ、ラノベ、小説を摂取したせいで、恋愛作品の展開ががっつり読めてしまうのだ。さらに言うなら、恋愛映画というのは総じて演技が過剰な気がする。
特に邦画。

「共感できない人たちが、先の読める展開の中で、オーバーなリアクションを繰り返す。しらけちゃうのだ。

だったら何故、この映画を観ることにしたのか。
ポスターとか、↑に引用したあらすじとか、完全に恋愛映画である。
観終わった後だからいうが、ちゃきちゃきの恋愛映画である。
何故行った、ペーパー?

答えは単純で、「ろくに前情報を観てなかったから」。
私がよく眺めてるtwitter(X)のアカウントに、「人間食べ食べカエル」さんという、文字通り人を食ったりするホラーな映画ばっかり紹介してる方がいる。どういうわけか本作、その方が紹介なさってたのだ。

赤かったり黒かったりする画像ばかりのTLに突如現れるややキラキラなポスター。しかも、ソフト化の予定なし。観れないかもしれない。
ホラー作品が好きな人が推してるのだから、ただキラキラしてるだけではあるまい。

このくらいの漠然な感じで動く方が、何かと結果はよい気がする。

感想など

不思議な映画であった。だがよい。

まえがきに挙げた、「恋愛映画が合わない三条件」のうち、
・先の展開が読める
・演技がオーバー
この二つは滅茶苦茶該当するのに、なぜかよい。

恋愛映画、ファンタジー、軽くホラーとジャンルを横断している本作だが、それぞれの展開は王道を外していない。滅茶苦茶わかりやすい。
この「王道を外してない」と「ありきたりでつまらない」のラインをギリギリ踏み越えないラインに本作はいる。

主人公やヒロイン、周囲の登場人物の挙動もかなーりオーバーで、滅茶苦茶顔や動きに出してくる。それを「わかりやすい」とみるか「過剰でくさい」とみるか、そのラインもギリギリ踏み越えないラインに本作はいる。

そして、最後の一条件である
・登場人物に共感できない
だけは満たしてないのだ。共感できる。

ネタバレになるため詳細は省くが、本作では大多数の登場人物の動機や感情の動きが滅茶苦茶わかりやすく描かれている。「理由があって、感情の動きがある」という流れが非常に明快だ。
なので頭で考えていても、登場人物の情動は十分に理解できる。
そこに、やりすぎギリギリの演技が入ることによって徐々に引き込まれるのだ。

個人的に最も感情移入しやすかったのはピンキー。
彼女の視点から見たら、主人公は本当に憎たらしいところがあるものの、イイやつ過ぎる…。


文字や言葉で説明しては、この映画の良さはわからない気がする。
説明するとありきたりになってしまう、「普通」の要素を絶妙なバランス感覚でまとめ上げているところに本作の、ギデンズ・コー監督の技量があるのだろう。

もう一点。
おそらく観た十人の内十人が同意してくれるだろうが、日本のカルチャーの影響は結構強そう。「結婚相手は道明寺」とか、「俺は桜木花道だ」等のセリフとか。あと、やたら事務的な死後の世界の印象は「鬼灯の冷徹」を思わせるし、「死後男女ペアで仕事をする」あたりは「満月をさがして」を思わせる。

ペーパーお勧め度

★5。
とがったところがない分、逆に凄みを感じる映画であった。
よほど血に飢えている人、闇を求めている人以外は楽しんで見られる映画であろう。そういう人は帰ってから同じ監督の「怪怪怪怪物!」を観ればよい。

パンフレットは購入必須。
最終版の少し難解にも見える部分を、監督自ら解説している文章がある。

これほどの映画がソフト化も配信もされないのは実に勿体ない。
とりあえずソフト化、クラウドファンディングなどやってくれないだろうか。


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