22本目「ビニールハウス」【ネタバレなし】


※本文は全て無料です。

ヒューマントラストシネマ有楽町にて

映画についての基本情報

公開日:2024/3/15
監督:イ・ソルヒ(韓国)

貧困のためビニールハウスに暮らすムンジョンは、少年院にいる息子と再び新居で暮らすことを夢見ていた。その資金を稼ぐため、盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。ある日、ファオクが風呂場で突然暴れ出し、ムンジョンと揉み合う際に床に後頭部を打ちつけ、そのまま亡くなってしまう。ムンジョンは認知症の自身の母親をファオクの身代わりに据えることで、息子と一緒に暮らす未来を守ろうとするが……。

ビニールハウス : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

まえがき

読者の皆さんは、「バラサイト 半地下の家族」(以下「半地下」)という映画をご存じであろうか。半地下という環境がよろしくない住居にすむ、倫理観のあまりない貧困家庭を描いたブラックコメディ映画である。この映画は第92回アカデミー賞を受賞するなど大変な評判であった。
「韓国映画 名作」などでgoogle検索をかけるとたいていヒットする。

ところが今回、その名作「半地下」に挑戦状をたたきつける映画が現れたのである。

「半地下はまだマシ」。
ポスターにそう大書する挑戦者の名は「ビニールハウス」。
タイトルからして、「半地下の住宅よりも、ビニールハウスに住む方が嫌だな…」と思わせる説得力がある。

しかし、観てみるまではわからないのが映画ってもんだ。
本当に「半地下はまだマシ」なのか、それを調査するため、調査班は「半地下」を予習してから有楽町に飛んだ……。

感想など

うん、確かに「半地下はまだマシ」だったね。

「半地下」と本作では「貧困」という共通したテーマ自体は共通してるものの、その描かれ方に天地ほどの差がある。

「半地下」は貧しいが、チャンスがあった。家族もいた。笑いがあった。皆健康だった。だから作品の少なくとも前半は倫理観のないコメディとして成立できていた。

反面、「ビニールハウス」にはチャンスがない。同じ介護生活を繰り返すだけの変化ない毎日。家族も(一緒に住んでは)いない。笑いもない。主人公は精神的に病んでる。
「家を借りたい」という目標はあるが、それも「息子の出所(少年院?)」というやむにやまれぬ事情を感じさせるもので、むしろ主人公を追い詰めている節さえある。笑える要素が何もないのだ。終始シリアス。

主人公の周囲の人間関係も、主人公の癒しになるようなものは何も描かれていない。介護対象の老女は暴力的で、息子はろくに電話もかけてこない。グループセラピーのセラピストはうんざりするようなハイテンションで、距離なしさんに纏わり疲れ、不倫相手にもうんざりしてる。

「半地下」はコメディできてたが、本作は全くコメディできていないのだ。
テーマにシリアスな姿勢が100分ずっと続く。辛い。
辛さばかりの展開が監督の意図するものなら、その試みは成功しているだろう。

「認知症老女すり替えサスペンス」が本作のコピーだがすり替えが起こるまでに1時間近くかかる展開の遅さも結構堪える。それまで、主人公の辛い境遇がずっと続くのだ。あんな生活、頭が変になるわ…。

全然関係ないが、本作の「人を殺してしまった」描写は白眉だと思う。
事故とはいえ「人を殺してしまった」ことに取り乱す演技、自分の体重より重い死体を大変な苦労をして運ぶ重量感。殺人って大変だね…。

ペーパーお勧め度

★2。
辛い日常がメリハリなく続く前半が辛すぎる。落ち込んでるときはやめた方がいい。


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