35本目「あの頃、君を追いかけた」【ネタバレあり】
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映画についての基本情報
※公式サイトなし
公開日:2024/5/3(再上映)
監督:ギデンズ・コー(台湾)
台湾の人気作家ギデンズ・コーが、自伝的小説を自らのメガホンで映画化し、台湾・香港で記録的ヒットを叩きだした青春ラブストーリー。1990年代、台湾中西部の町・彰化。男子高校生コートンは、悪友たちとつるんでくだらないイタズラで授業を妨害しては担任を困らせていた。そこで担任教師は、優等生の女子生徒シェンを監視役としてコートンの後ろの席に座らせることに。コートンは口うるさいシェンをわずらわしく感じながらも、次第に彼女にひかれていく。
まえがき
前回、30本目の「赤い糸 輪廻のひみつ」が思いの外よかったので、今再びのギデンズ・コー作品、そして恋愛映画に挑むことにしたのだった。というか、「赤い糸」もう一回見たかったので。
そうして、下北沢tollywoodに二度目の、そして二本連続でチケットを買っての来訪をしたのであった…。
今回は「赤い糸」と違ってファンタジーもない純粋な恋愛映画だと聞いていたので多少の身構えはあったのだが…。
感想など
号泣。号泣である。
20代のころは調子乗って「私は泣いたことがない♪」等と嘯いていたペーパーがまさかの号泣である。恋愛映画がこんなに刺さるとは思ってなかった。
物語は一見、よくある恋愛モノのフォーマットに則っているように思える。
バカな男子と優等生の女子の恋愛ストーリー。
よくある話だ。
だが、この映画は「くっつけない」ところが王道から外れる。。
くっつくか、くっつくかないか、その狭間を行ったり来たりした挙句、くっつくのが恋愛ストーリーの王道であろう。
だがこの映画は違う。くっつかないのだ。
もう事実上くっついてるような、お互いに好きあってるような、何なら告白もしてるような、そんな関係にまで至っておきながら、この映画の主人公とヒロインはくっつかないのだ。くっつけないのだ。そして、その「くっつけない」理由こそ、私が号泣した理由であり、この映画の核心なのだ。
この映画では一貫して「幼稚」という概念が扱われる。
主人公は紛れもなく幼稚で、しょーもないことばかりしては教師に殴られ、ヒロインに笑われる。怒られる。
ヒロインはその幼稚さを表面的には嫌っているように口にするが、しかし実はその幼稚さにこそ惹かれている。「あの頃、君を追いかけた」という邦題は、主人公がヒロインを追いかけていることももちろん指しているだろうが、ヒロインが主人公、ひいてはその幼稚さを追いかけたこともまた指しているといえる。
だが、その反面、彼女はその幼稚さに我慢ができない面も抱えているのだ。幼稚さに惹かれ、しかし幼稚さ故に彼らは結ばれなかった。この残酷な構図がありありと描き出されるのが終盤の展開だ。
主人公の幼稚さに愛想をつかして二人は連絡を絶つ。
仲間内で最も幼稚でない者がその機に漬け込むも、やはり長続きしない。
ヒロインは窓の外の、「幼稚」なカップルの痴話げんかに気を取られてしまうのだ。ヒロインの二律背反した性質がまざまざと描かれているのがわかる。
ヒロインが他人と結婚する式において、半ばおふざけのような形で主人公は「新婦にする代わり」として新郎に長いキスをする。この時流れる「もし」の回想もまた、実現不可能なことを我々は知ることができる。
主人公が「ごめん、幼稚すぎた」と謝ることを分岐にした「もし」は、ヒロインの性質故にやはり実現しなかっただろう。
それを悟っていたからこそ、あの場で主人公とヒロインは怒りも、笑いもせず、ある種の達観をもってその、「幼稚」に見える愛情表現を共有したのだと思う。
この「幼稚さ」について、原作小説(邦訳版)では以下のように語られている。
俺の幼稚は俺の熱血の根性から来ていて、その熱血に支えられて俺はお前のことをこんなに長く好きでいられた。
そしてこの熱血は、お前が否定するつまらない存在になってしまった
この「熱血の根性」、幼少期の自分を突き動かしたそのモチベーションを、我々はまだ覚えていると思う。私は覚えている。もちろん、主人公のようにバカな行動に移したわけじゃないが、でもその未熟さや幼稚さは間違いなく人生の原動力だった。皆、幼稚だった。
その原動力を思い出して、そしてそれが主人公に与えた作用を思って、そしてそれ故に結ばれない運命であることを思って、私は泣いた。
自分自身はその「幼稚さ」のパワーをある程度失ってしまってるし、何なら「なんでお前はそんなに幼稚なんだ」という理由で人と別れたことすらある。だから、ヒロインを責めることもできない。それも成長でしかないのだから。だれも責められない、そして主人公たちの中では綺麗に完結している、だからこそ悲しい話だった。
ペーパーお勧め度
★5。
恋愛映画が嫌いでないなら、特に男性に進めたい。
かつて「幼稚さ」を持っていた同志にこそ、この映画の辛さがわかるはず。
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