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投資銀行員からひじき漁師にオンライン村長?令和版“百姓”が考えるキャリアと仕事 (山口県周防大島/榮大吾さん)

山口県の離島、周防大島で、ひじき漁師やWebマーケティングなど、複数の生業を組み合わせて生きる、現代版 “ 百姓 ”こと榮大吾(さかえ だいご)さん。

「さかえる」名義でリアルな島暮らしの様子を発信し、Twitterのフォロワーは1万人を超える。地方で頑張る人のオンライン村「田舎チャレンジャーラボ」の運営にも取り組み、移住を目指す人や地方で起業したい人など総勢60名以上(2021年5月現在)が集う。

もともとは政府系金融機関でバリバリ働いていたさかえるさんが、30才を目前に現在のライフスタイルに移行した経緯や百姓という生き方について聞いた。

社会を変える現場で働きたい


神奈川県出身のさかえるさんは都内の有名私立大学を卒業後、日本政策投資銀行(DBJ)に入行。国策にも関わる、公益性の高い事業への投融資事業に携わった。

仕事に誇りとやりがいを感じてはいたが、常に存在意義を問われる厳しい環境だったという。

「DBJは半官半民の企業。行政機関なのか民間企業なのか、立場が中途半端なんですよね。『何ができるの?』『どういった組織なの?』と問われることが多かったですし、常に『政府系金融機関は不要なのではないか?』という世間の風当たりがありました。だからこそ、目先の利益にとらわれずに、長い目線で、社会にとって必要なことは何かを考える土台ができたと思います」

社会を本気でよくしたいと、時に青臭いことも語る会社や同僚が大好きだったというが、ある時期から「俺自身は社会を変えてるんだろうか」という思いがつのっていった。

きっかけは友人の死だった。

「高校、大学と野球部に所属していたのですが、その時のチームメイトが社会人になってしばらくした頃、急に亡くなったんです。人はいつ死ぬかわからないんだなと実感した時に、『自分の人生に後悔を残したくない』と強く思いました。銀行の仕事は、もちろん社会をよくする一端を担うものだけど、もっと自分自身が社会を変える現場に出ていかないといけないなと。本当に代わりがきかないところに行かないとダメだって感じたんです」

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銀行員時代のさかえるさん。海に山にと駆け回る今とは違い、
オフィスワークがメインだったという。


社会の最先端である田舎で「どう生きるか」の答えを探す


「社会を変える現場で働きたい」「自分だからできることをしたい」その想いを胸に、山口県周防大島に奥様と二人で移住したのが2018年のこと。

田舎をチャレンジの場に選んだ理由は、そこが“社会の最先端”だと考えたからだ。

「日本は今後100年で100年前(明治時代後期)の人口水準に戻っていくと予想されています。田舎は国全体よりも30年〜50年も早く、人口減少とそれに伴う社会の変容が進んでいる。自分が生きているうちにそれらを体験できるのは、世界中でも日本の田舎だけ。これってすごいことだなと思って田舎移住を決めました」

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人口が増えることを一つの要素としてきた明治以降の日本の経済成長は、すでに減退傾向にある。

人が減り、売上が減り、賃金が減る。これまで通りの経済成長が望めない社会で、いかにして人々の暮らしに「豊かさ」を確保していくか。

その答えを探すべく、田舎をフィールドに決めたという。


小難しいことを言いましたが、要は妻と二人、幸せになりたかったんですよね(笑)いわゆる資本主義的な豊かさとは別に、もっと生存能力の高い豊かさというか、お金に頼り過ぎない豊かさの本質みたいなものが、田舎にはあるんじゃないかと思ったんです」

人口が減っても、人々が助け合い、関わり合うことで暮らしを成り立たせる島生活の中で、その思いは確信に変わっていった。

「必要な人間関係の中で、必要な分の経済を回して生きることが、人口減少社会では必要な価値観なのではないかと田舎に来て学びました。田舎には田舎ならではの生活力や助け合いの文化が残っていて、それらは一朝一夕では形成できない。島の人たちは、ないものや減っていくものだけに目を向けるのではなく、今あるもののなかに幸せを見つけて、必要十分の量で生きていく術を知っている。だからこそ島の暮らしはとても“豊か”なんだと感じました」

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島の景色は、いつでも絶景。「移住してよかったと思う理由の一つ」だそうだ。


複業は、生きていて安心感がある。


「社会課題はネガティブなことばかりではない」

そのことを田舎に住み始めて強く感じたさかえるさんが、収入の柱を複数つくる百姓という生き方を選んだのは、それが一番、合理的だったからだ。

「田舎は足りていないことが多いから仕事をつくりやすいし、固定費が安いのですぐに儲けが出なくても死ぬことはない。チャレンジがしやすいんです。日本には昔から、いろいろな仕事を組み合わせて集落の中で生きる、百姓という暮らし方がありました。終身雇用という働き方が普及したのは戦後。人類の歴史からみたら、この数十年が異常事態だっただけなんですよね。」

1つの収入に頼らず、仕事を複数持っている方が「生きていて安心感がある」と語るさかえるさんが、現在、手がけている仕事はまさに多種多様だ。

・ひじき漁師
・空き家DIY・管理&解体
・集落支援員
・民泊
・草刈り
・事業コンサル
・Webマーケティング
・Webサイト制作  など

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さかえるさん提供


仕事をつくる上で大切にしていることを聞くと、「自分の希少性を大事にすること」と返ってきた。

「需要があって供給が少ないところに価値が生まれる。役割の決まっていない立場で、自分が所属するコミュニティを最大限盛り立てるとするなら...を常に考えています。例えば、私がひじき漁師を始めた理由も、やってる人がいないから。他の人がやっていないことや、自分だからできること、そして何より好きなことをやり続けた方が、コミュニティの中で重宝される。代替不可能な存在になることが、移り変わりの早い世の中で一番の安定だと思うんです」

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島の景色は、いつでも絶景。「移住してよかったと思う理由の一つ」だそうだ。


生業づくりは、関係づくりから

ここで気になるのが、どのようにして仕事を広げていったのかということ。

その秘訣をうかがうと、地域との関係をとても大切にするさかえるさんの姿勢が見えてきた。

例えば、さかえるさんがひじき漁をはじめたきっかけは、自治会長を務める現在のひじき漁の師匠とそのご家族との出会いが大きいという。


「いつも叱られてばっかりでした(笑)」

移住当初、集落支援員として活動していたさかえるさんは、地域役員をしていた師匠に「お前、全然わかってねえな!」と会うたびに叱られていた。集落運営のルールがまだよくわからず、「今思えばトンチンカンな言動をしていた」からだそうだ。怒られることはもちろん怖かったし、嫌だなと思う気持ちもあった。でも挨拶や声かけなど「最低限、今きちんと自分ができること」を続けていった。

そのうちにだんだんと師匠と打ち解けていき、村のことを教えてもらえるようになった。そしてコーヒーを飲む仲になり、一緒に釣りに行く仲になり、さかえるさんが地域で開く集会なども師匠やそのご家族が手伝ってくれるようになった。

「村の高齢者の方々にスマホの使い方を教える相談会を開催した際に、師匠の娘さんにケーキを焼いてもらったんです。自分が住む古民家の片付けを師匠にも手伝ってもらったり、徐々に交流を重ねて、信頼関係を築いていきました」

心の距離が近くなると師匠の家に上げてもらえるようになり、雑談の中で、ひじきの話も出てきた。「一緒に行ってみるか?」と誘われたのが、移住して1年以上たった2019年の暮れのこと。

「漁師としての師匠の生活を知るうちに、『生業』がある暮らしの素晴らしさに魅了されていきました。奥さんと漁に出て、商品化まで家族みんなで談笑しながらこなす。大変だけどそこには幸せがある。そんな生き方がしたいと思いました」

地域に深く入り込み、お互いを理解しあったからこそ、「一緒にやる?」「手伝ってくれない?」と言い合える関係が広がる。地域で仕事をつくる秘訣は、その「助け合える関係」をいかにつくるかどうかだそうだ。


個人事業主が集まる「強いコミュニティ」をつくりたい

そんなさかえるさんが、今、熱心に取り組んでいるのが、2020年2月に立ち上げたオンラインコミュニティ「田舎チャレンジャーラボ」だ。

ラボメンバーは60人(2021年5月現在)を超え、地方移住を目指す人や田舎で起業を目指す人も多い。

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「同じ価値観を共有できる仲間が欲しいと思ったのがきっかけです。やりたいことや熱い思いに中途半端な折り合いをつけなくていい、部活みたいなコミュニティを作りたいと思ったんです」

さかえるさんは「村長」としてラボメンバーの移住や起業の相談にのる一方、地方で頑張る一人のプレイヤーとしてラボの活動に参加する。

オンラインの村づくりにおいて、島の集落から学ぶことも多いという。

「オンラインコミュニティの運営について、私が住む村の70代の自治会長さんに相談することもあります。オンラインでもオフラインでも、人が集まれば全部 “村”。必要なコミュニケーションは同じなんです。村作りは、ただ人を増やせばいいってもんじゃない。コミュニティの中できちんと自分の役割を見つけ、うまく活動できる人が必要だと思っています」

これからの目標を聞くと、田舎チャレンジャーラボを個人事業主が集まる強い村にしていくことだそうだ。新型コロナ収束後にはオフラインでの展開も視野に入れている。

「個人事業があたりまえだったかつての日本のように、自分で仕事を作れる人たちが村に集まれば、コミュニティは勝手に発展していきます。それぞれが得意なことを持ち寄れば、新しい取り組みがどんどん生まれていく。田舎チャレンジャーラボも、そんな強い村にしていきたい。人は一人では生きられません。社会がどのように変わっても、人々が豊かで幸せに暮らすためになにが必要か、これからもとことん考えて、より良い社会を仲間と一緒に目指していきたいなと思っています」

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「生き方の師匠」に出会えるのも、田舎暮らしの魅力の一つ。

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移り変わりの激しい現代だからこそ、常識やイメージに囚われずに自分の頭で考え、行動していくことが一番大切なのかもしれません。

「今の時代だからこそ、どう生きるかを真剣に考えよう」

“令和の百姓”さかえるさんの生きる姿勢からは、そんな力強いメッセージが感じられました。


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さかえる / 榮大吾(さかえ だいご)
・Twitter : https://twitter.com/sakaeruman
・沖家室ひじき :https://www.hijiki.online

田舎チャレンジャーラボ
・公式HP:https://sakaeruman.com/inaka/ILCLP.html
・Twitter : https://twitter.com/ICL_INFO2020
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