見出し画像

猪木とわたし。「元気ですか!」

朝。
仕事が夕方からの日は、大雨が降らない限りジムに行きます。
バスの時間までを逆算し、出かける支度をします。
支度と言っても、顔を洗って歯を磨き、トレーニングウェアに着替えて髪を整えるだけですが。
ジムでは体幹トレーニングが中心で、激しい有酸素運動をするわけでもないので、この季節は着替えもいらず荷物も最小限です。

水筒、お財布、家の鍵、ハンカチ、スマホ。
それさえあれば、大丈夫。
以前勤めていたアパレルブランドの、小さなノベルティーバッグに入れて行きます。
水筒以外ほとんど上着のポケットに収まるから、バッグなしで出掛けることも。
「こんなに荷物少ないけど、充実した時間を過ごせるのよわたし」
みたいな小さい幸福感とともに、バスで11駅先のジムに向かいます。

親指サイズの見栄


そこに最近、いや、最近というかここ1年くらいかな。
これまたアパレルのノベルティーで貰った、小さなポーチが加わりました。
昨年の春、カルバン・クラインでデニムを購入したときに、先着何名限定とかで貰いました。
リップやティッシュを入れるのにちょうどいいサイズ感で、邪魔にならないし、重宝しています。
weledaのリップと、channelのルージュアリュールラックの62番、Cezanneのコンシーラーを入れて持ち歩くようになりました。

ジムでトレーニングを終え、ちょっと寄り道して帰りたくなったとき、急に飲み会に誘われたとき。
いやでもスッピンじゃさすがに……なんてときに活躍します。
直帰する日でも、鞄の中にこれがあるだけで安心して、逆に、忘れたら帰宅するまで、ずっとソワソワしてしまいます。

真のミニマリストって


先日、ジムの更衣室で鏡を前に、ポーチを手にしたときでした。

「ミニマリストって言葉、意味勘違いしてる人多いけど、ただ物が少ないってだけのことじゃないんよな」

先輩のそんな一言を思い出し、私はミニマリストとは逆の方向に走ってんな。と、唐突に思いました。
ブランドの名前がついた親指サイズのリップを片手に、
「全然引き離せてない」
と、なぜか残念に思いました。
別にミニマリストになりたいとも、ましてや俗世間から、消費社会から離れたいとも思いません。
今さら離れられるとも、思いません。

ただ、このポーチの中に、こう見られたい、こうありたいという、私の虚栄心が集約されているんじゃないかと思いました。
たった3本のアイテムを通して、私は常に何かと繋がっている、繋がろうとしているんだと思いました。

見栄を捨てるってのが、ミニマリストの最終目的地なのでしょうか?
いまいち、その概念を理解しきれません……。
でも、少なくとも自分はミニマリストではない、ということは確かです。
これまでは、私は割と持ち物が少ない方だと思っていました。
しかし、囚われているいるものがあまりにも多すぎる。
虚栄心、自意識、自惚れ……。

他人の目で見る自分



「今私、この人の目にどう映ってるかな」
人と対峙して、そんなことを必要以上に考えるようになったのは、いつ頃からだろう。
その人の僅かな対応の変化、目の動き、声のトーンなどで自分の価値を測ろうとする、常に地盤ゆるゆるで、不安と媚びだけが燃料の廃れた遊園地みたいな人間になったのは、いつ頃だろう。

でも、
「それでもいいやん」

ミニマリストだとか、自己肯定感とか、そういうのすごくいいと思うし、立派な心構えだとも思うけど、ひとまず
「何かに囚われてる自分」
で、いいや。
そうなっちゃったもんは、もう仕方ないもん。
その上で変わろうと頑張るのはいいけど、何も今の自分を否定しなくてもいいかも。

元気があれば何でも出来る



そう思ったのは、とあるライターさんによる、病床のアントニオ猪木さんについての記事を読んだときでした。
アントニオ猪木さんは亡くなる直前、
「デビュー62周年のお祝いをしましょうか」
というファンの提案に対して、
「オレは、プロレスは嫌いなんだよ」
と、笑いながら仰ったそうです。

衰弱し体が痩せ細っていく中、そう言って笑った猪木さんの笑顔を思い浮かべると、
話したことも会ったこともないし、
「人よりだいぶ顎が長くてプロレスが強い政治家」
というくらいの認識しかなかったけれど、
なんとなく、ものすごく勇気と元気を貰えたような気がしました。

嫌いでもいいんだよ。
自分のことも、仕事のことも。
別に無理に好きになろうとする必要はない。

そう言ってもらえたみたいで、でも、やっぱりどうしてもプロレスに対しての愛情を隠しきれていない猪木に、こんなにも心の暗雲を晴らされるなんて、思ってもなかったです。
ありがとう、アントニオ猪木さん。

今日も親指サイズの見栄を持って、ジム行ってきます。(大遅刻)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?