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旅について 小

地元の福岡に戻っている間、慣れた町並みを散歩しようと
自転車を漕ぎ出した。

福岡という町は案外ちゃんと眠る。
人々の生活の中心部に巨大な歓楽街を抱えながらもそこをぐるりと囲む
数多のデパートメントは軒並み健康的な時間に一日の仕事を終えてゆく。

何もなくなった町を口寂しげに辿る酔っ払いの間をくぐり、
ブレーキがいやに軋むままにタイヤを転がすと、行く先々には
色々な思い出が詰まっている。
親の飲み会に付き添わされて、帰りに立ち寄ったラーメン屋。
高校の仲間たちと展示会をやったホール。
きっと鈍臭い僕がぶつかった電柱や小つまづいた段差だって覚えている。
いつか素敵な誰かと訪れた飲食店も右や左やと連なっている。

水面に揺らめくキャナルシティのネオンも
川沿いのラブホテルから伸びるサーチライトの光も
何も変わらないこの町は過ぎていった時間などお構いなしに、
過去への旅を強いてくる。

時計が回り 自身やそれを取り巻く環境も目まぐるしく変化していく。
しかしあの頃の僕だけは、まだあの頃のままに、
遠いというにはまだ記憶に新しいようないくつもの過去の中に
暮らし続けているような気がする。

全部が今に追いついて、全ての物語が終わったなら。
多分それが僕の旅。今考えうる限りの。

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