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原則で語るか、感情で語るか

 最近、ある方との出会いで、新たなインスピレーションが得られた。コロナ以降の流れで、仕事以外での「新たな出会い」なるものはめっきり減ったままだった。やはり、新たな出会いは新たな思考をもたらす。この感覚は久しく忘れていたように思う。

 一つ整理がつきそうなのは、こんなことだ。原則で語るのか、感情で語るのか。もしくは原則ドリブンか、感情ドリブンか。

原則ドリブン、感情ドリブン

 人には何かしら、こうありたい、だからこうしたい、こうしていたい、といった「信念」「価値観」が宿っている。今のところ、「信念」という言葉を選んでいるのにはとりたてての意図はそれほどない。その人にある、「根っこ」くらいの意味だ。良い悪いではなく。何かしら信じていること。その人自身の中の話。

 この信念なるものを現実世界でどうにかしていくには、様々な手立てが必要であり、ここでは「原則」と「感情」を挙げる。原則とは、私であれば「仮説検証型アジャイル開発」であるとか、「組織アジャイル」が挙げられる。自分の経験でもって磨き上げてきた、判断と行動の拠り所となるもの・体系という位置づけだ。原則を鍛え、磨き続けていくと、活動の質とスピードが高まっていく。

 一方、ここでいう感情も、判断や行動に繋がるもので、自分自身の「感じ方」でもって決めていく。面白い、楽しい、いきいきとする、もやみがある。自分の中で特に存在感がある「感じ方」を拠り所に判断、行動を取る。

 原則は「方法」であり、他者にやり方として共有する対象になる。だから、過程と結果が分かりやすく伝わるように「事例」を整える。語るべき「項目立て」から整理し、内容として論理的な整合が取れていることを念頭に置く。
 一方、感情は基本的に自分の中にある判断基準であり、他者とぴったりとあわせる対象にはならない。ただ、どういう「状態」なのかを伝え知ってもらうことで、ともにする活動を円滑にしたり、場合によっては他者の共感を得て、よりエクセレントな体験や成果に繋がる要因になりえる。ゆえに、理路整然としたまとめを説明するのではなく、状況と心理の状態説明を交えた「エピソード」を語るという手段が適している。

「原則」
 - 物事を上手く運ぶための「方法」 
 - 「方法」として他者と共有する
 - 「事例」

「感情」
 - 物事を適切に捉えるための「状態」
 - 「状態」として他者と共有する
 - 「エピソード」

 例えば、アジャイル開発を組織ではじめたい、であれば、いかにして上手く開発を進めていくか、取り入れたい方法をただ原則論として話すだけではなく、事例を交えて語る。知識は必要だが、それだけではどういうときに何が起きえて、どういう判断・行動を取ればよいか、判断材料が少ない。事例でもって具体性を上げたり、応用問題を解くためのケースを増やす。

 一方、原則論と事例だけでは、自分たちのものにはなっていかない。知識として問題を解くという範疇から出ていかない。実際には、ものの見方、こだわり、それこそ大事にしたい信念(どうありたいか)によって、「望ましさ」は変わる。同じような出来事、事象であっても、あるチームにとっては「まあ良き」と見れても、別のチームでは「全然ダメ」といった違いが出てくるはずだ。

 その違いは、何をもって「良き」と見るかによる。だから、理屈を超えた「感じ方」について、互いに知っておきたいということになる。そのためには、起きていることをどう感じているかその場その場で語る、あるいは過去にあった出来事を自分の感じ方を含めて伝える。この語りによって、相手やチームが大事にしようとしていて、多くの場合外からは見えにくくなっている「信念」に気づくことができる。

 なかなか、自分の大事にしたいことが伝わらないなと思うことがあれば、「事例」と「エピソード」どちらに寄っているかを見てみよう。事例に寄っていれば、「良しとしたいこと」についてフィット感が得にくい。逆にエピソードにのみ寄っていると、「具体的にどう動いていくか」がなかなか合わず、動き方についてもどかしい思いをするかもしれない。

 また、「原則」を「エピソード」で情緒的に伝えようとしても、何か教条主義的な印象を強く与えてしまいかねない。このあたりが、「アジャイルは教条主義」という印象を与えてしまう要因になっていたのかもしれない。一方、「感情」は説明用に整理された「事例」だけではまず伝わらない。社内で、マネジメントや経営にアジャイルを説明するのだけど、どこか芯を喰っていかない理由はここにある。

 なぜ、「カイゼン・ジャーニー」にストーリーと解説の両方があるのか。あるいは、私自身がプレゼンで「解説」のみではなく、ときに「ストーリー」を交えるのは、こういうところからだと思っている。


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