1%東京暮らし
僕が二十歳の頃、
それはもう30年近く前の事だけど、
友達と東京に遊びに行った事がある。
僕にとって、それが初めての東京。
単身赴任で東京に居る叔父が、出張で少しのあいだ部屋を空ける。そこを使わせてもらい、過ごした数日間があった。
広島から東京へは、友達とふたり新幹線に乗って行った。
東京に着くともうひとりの友達とも合流し、男3人で東京の街を巡った。
まず向かったのは渋谷。
お祭りみたいな人の多さと聞いていたけど、ほんとにそうだった。すごい、東京。
そして原宿。
当時流行っていたストリートファッションのショップがたくさん集まっている場所だと知っていた。一着5,000円くらいのTシャツを、考えもなく何枚も買った。若い、というかとても青い。
他にも、お台場や池袋。
一丁前に代官山にまで足を踏み入れていく。
田舎者丸出しの顔で。
今日はどこ行ってみる?
という、気ままな東京生活を数日間。
ただそれだけの東京旅行に過ぎないのだけど、
友達と一緒に街を歩いているだけで、なんだか妙に楽しかったなあ。
そして、
そんな手触りのする時間というのは、その後は再び訪れて来なかったりする。
だから思う。
別に暮らしていた訳じゃないけれど、ほんの僅かな数日を東京で過ごせて良かった。
あれは僕にとって、1%東京暮らし。
そのきっかけをくれた叔父に、感謝しなければならない。
東京暮らしの最終日。
出張から戻ってきた叔父は、僕たちを吉祥寺にある行きつけのバーへと連れて行ってくれた。
その姿は、とてもカッコいい大人に映った。
あの時から、もうすぐ30年。
僕の歳は、あの時の叔父に近付いてきている。
だというのに、
行きつけのバーのひとつも持っていない僕。
あの時の叔父に比べて、
僕はまだ1%しか大人になれていないかも知れない。
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