パンは食べてもらってこそ #63
「おい、これから正直な感想を言ってもらうからよく聞いとけ」
えっ?な、なに?
何か悪いことしたっけ??
職場の年配の役員からのいきなりの内線電話。
電話の相手は、若い女性に変わる。
受付の20代の女性だ。
ごくり。
「パンいただきました。
もうちょっと塩味があるといいかな、と思いました。
でも、チーズがたっぷりで、とっても美味しかったです!」
!!!
パンを作り始めて1年半、まだ奥さん以外の人に食べてもらう自信がなかったのだが、件の役員は、私がパンを作っていることを聞きつけて、
「オレはパンが好きでよく食べるんだ。味見してやるから持ってこい」
と。
これまで二度ほど味見してもらったが、特に感想もなく。
しかし、今回はたまたま受付の女性に一つ分けてあげたようで、せっかくだから感想言ってやれ、と、そんな話になったよう。
「聞いたか。これを参考に精進するように」
念のためだが、ウチの会社はレストランでも、ましてやパン屋でもない。
しかし、期せずして、まったくの他人から印象を聞く機会を得ることができたのは、とてもいい展開になった。
感想を言ってくれた女性は知らない人ではないので、少しは気を遣ってくれたのかもしれない。
しかし、奥さんも感想は言ってくれるが、赤の他人の方が冷静に受け取ることができる。
(ごめん、奥さん)
勇気を持って、いろんな人に味見をしてもらおう、と、そんな思いを強くした週初めだった。
念のためだが、件の役員は、決して"そっちの筋"の人ではない。
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