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あるスケッチ

僕がまだアラ40くらいの頃までは…

会社や役所、団体などの組織で働く人には、あえて出世コースを外れて、のんびり働く人たちがいた。僕の知人にも、収入を得るにはちょっと厳しい「前衛書の書家」と二足の草鞋の人とか、区役所の窓口業務を点々としながら紙飛行機の滞空時間で世界記録を持つお役人がいたり、考えてみれば、ときどきグループ展や個展を開く、中学や高校の美術の先生なんていうのもそうだったかもしれない。

でもいつしか見聞きしなくなった。

そういう働き方をする人を容認できれば、それは「文化」だなと思うんだけど。

(そういう人に限って、定時に帰っちゃうんだけど、仕事きっちりだしね)

でも、今のこの国。大手の企業は太っていくけれど、公共は政府も自治体も貧乏だし、EV車、自然エネルギーの世界的な潮流に完全に乗り遅れて、しかも、先進国はどこもが「ものづくり」から「金融工学」へと「売って儲ける」から「お金自体を創って儲ける」へと移行し、お金の儲け方そのものを劇的に変化させているのに、この国は、まだ「工業」だし「土建」だ。まるで、「石炭から石油」へとエネルギー転換期に乗り遅れたときのようだ。

(「石炭から石油」へとエネルギー転換期に乗り遅れたときは、結局、この国は戦争へと舵を切った)

この20年。イギリスでさえ80%台後半の経済成長率を確保しているのに、この国のそれは2%台だ。つまり高度成長期の貯金を使い果たし、アベノミクスで需要に関係なく大量のお札を刷って、あまりにも長いモラトリアムにかまけてきた。

だから、今般の「円安」は当然の結果だ。経済的に魅力がない国の通貨が大量に出回っているのだから。そして、この状況は数年で解決できるものではない。

さらに、この国の食料自給率は長いこと40%に届かないところでやってきた。エネルギー自給率は10%台だ。工業が元気で、だから「円」にも力があった時代なら別だけど、今はそうではない。

で。ウクライナで戦争が起こった。

この状況でも、為政者や大企業は数百億円という競技場を林立させ、神宮の杜を潰し、さらにプレハブの万博に大枚を注ぎ込み、カジノを造るのだという。大都市にもニーズなき高層ビルを林立させている。

(だってリモートなんだから広いオフィスはいらないし、たいていのタワマン環境は「そこで働く」にふさわしい空間ではない)

ドイツでは最大の電力会社RWEが、2019年に、発電の中心を褐炭・石炭と原子力から、再生可能エネルギーに移すことを宣言している。でも、この国の場合、企業の再生可能エネルギーへの関心は始まったばかり。原子力については国民ごと無頓着だ。

このことが、国際的な「孤立」を呼び込むということに国民的な理解は得られていない。これも、あの頃に似ている症状だ。

苦境に立たされた経営者にとって、ます削減すべきは人件費だ。会議室にちかいところでは「楽楽生産」で「Sansan」で「ビズリーチ」だ。これで会計、法務、人事などの部署に大鉈が振ることができる。
現場ではレジの無人化、配膳猫型ロボット、調理ロボットの実用もはじまった。夜間のビル警備が行う。働き口がないからと軍を志願したくとも、ここも戦闘ロボット、無人機の世界だ。もうすぐ「量としての兵士」入らなくなる。

冒頭に紹介したような、広大な牧場のような職場で、一定の時間、憶えて慣れるマニュアル・レーバーをこなすと、あとは趣味の世界という働き方は急速に過去のものになっていくのだろう。この国にそんなゆとりはない。

この国のゆく末、政府の、自治体の、会社のそれ。

僕らは「無関心」に過ぎたのだろうし「丸投げ」に過ぎたのだろう。
でも「後悔先に立たず」だ。

これから対応策を考えて間に合うのは、この船が座礁した後のことだ。座礁にも操船の上手い下手はあるのかもしれないけれど「座礁」は免れまい。

救命胴衣はどうする。ボートは用意できるのか。

でもね。これだけは言える。死ぬまでは生きていなければ。