そういうことも念頭に
ブックオフで修行して、やがては古本屋さんとして独立しよう…なんていう目標を立てる。でも、ブックオフの店員さんは、ブックオフという独特なビジネス・モデルの組織ワークの一員。全体を俯瞰する経営者ではないし、ブックオフというビジネス・モデル以外の古本業界についての知識もない。従業員さんに「本に詳しくなる」ことを期待していないブックオフのマニュアルは、従業員さんをいっぱしの古本屋さんに育てる内容を持っていない。
(客として、そういうことを伺わせる事例にしばしばぶち当たる)
そもそも(ブックオフに限らず)多くの部品をまとめ上げるように組み上げられた組織ワークは、従業員さんに「システムには慣れること」は期待しても、「自営として自立する」ことを期待し、そういうことを前提にして従業員さんを育てようなんてことは、全く念頭におかずにデザインされている。
インスタント・コーヒーの入れ方にどれだけ熟達しても、ハンド・ドリップの珈琲を淹れる名人にはなれない。あれと同じ。
珈琲で言えば、近頃はエスプレッソ・マシンで独立開業というパターンも一般的になってきたけど、ホントは、機械を用いても一定の味を引き出すことが難しいからバリスタなどという専門職が生まれてきた…やっぱり一杯の珈琲を淹れるんだって特殊技能なわけだ。
(雑誌読んで、自宅で起業しちゃったかなっていう人は、やっぱり知り合いで一周すると撃沈かな)
何かのプロフェッショナルになるためには助走期間が必要。
でも、生まれたときから半製品やインスタントなモノに囲まれて育って、学校のテストだって虫食い問題やマークシート。何事もゼロからとなると生半ではないテクニックが必要になることも、何かを「できる」「つくれる」ようになるには、かなりの時間が必要となることも、判らなくなってしまっている。
だから、修行への耐性というか。堪え性もない。
そこへAIと労働市場の国際化が襲いくる…
これまでは、脱サラのお父さんが蕎麦屋を始めて失敗しても、なんとか食っていける程度の「公的な扶助」はあったわが国だけど、もう、そうはいかなくなっているのがわが国。増税はあっても公的なケアは必要をはるかに下回るものになるはず。
こんな状況でも、希望に満ちたアジテーションを打つのが20世紀的、でも今は21世紀。僕は、平田オリザさんが「下り坂をそろそろと降りる」(講談社現代新書/2016年)に曰くの
おそらく、いまの日本と日本人にとって、もっとも大事なことは、「卑屈なほどのリアリズム」をもって現実を認識し、ここから長く続く後退戦を「勝てないまでも負けない」ようにもっていくことだろう。
に賛同する。
頑張れる人は頑張るとして、世間体を気にせず、生活をリストラして、身軽になる。多くの人にとって、まずは「ここから」かな。
すでに負け戦の中での撤退戦ですから、荷物は軽い方がいい。
これからは「損切り」の上手い下手で人生が決まる。
そういうことも念頭に。