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The Köln Concert

高2だった。文化祭が終わった秋の日。
学校をサボって鎌倉にいた。
 
僕は高校生だった。
軽音部。進学校ではあったが「クラブ全入制」、在校生の全員が放課後の部活に所属するという、文化・芸術、体育活動で知られていた高校に在籍していた。弦楽器、金管楽器も豊富に備え、音楽室や美術室も複数あり、視聴覚室という映画や放送の製作・上映ができる施設も備えていた。
四〇〇メートルトラックがあり、小さいながら野球場もあって、競技用のプールもあり、テニス・コートも8面、図書館も充実していた。

文化祭と体育祭で年に10日間ほども使い、2年生になると 2年生全員で芝居をつくるということにもなっていた。

僕は反抗農民の役を演った。演出に何度も直されたので、今でも「新しい大地を探しに行くんだ」というセリフを憶えている。鎮圧されて逃げるときの捨て台詞だ。

(ちなみに、現在のわが高校は、クラブ全入制もきれいさっぱり廃止されて、一般的な進学校になっている。あの頃の「革新市政」の賜物だったんだろう)

鎌倉駅のトイレで私服に着替え、小町通りの駅寄りの小さなビルにあったジャズ喫茶を目指す。階段を登って2階。何度目かの訪問だった。
扉を押すと薄暗い空間、スピーカーとスピーカーの間にダウンライトを浴びて小さな観音さまがいらしゃる…そういう店。

まるでフィクションのようだが、その日、扉を押した途端に「The Köln Concert」の、あの恍惚のイントロが鳴りはじめた。

実際はほんの一瞬なんだろうけれど、しばらく、入り口に突っ立っていたような気がする。17歳の少年にはあまりにも衝撃的だった。ターンテーブルの脇に掲げられたされたジャケットを頭に焼き付けた。

小難しいことは何も考えなかった。考えられなかった。

僕は、キース・ジャレットはおろか、こういう種類の音楽があることを知らなかった。

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