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派閥の威力と限界 総裁選と菅首相退陣から ~前編~

 派閥が何なのか、いよいよ分からなくなってきた。元々、自民党にある派閥は自民党総裁選挙のためにある。総理大臣候補と目される政治家を考え方の近い政治家を支えるのが、派閥だ。その派閥に対して若手から批判が噴出し「党風一新の会」なるものができた。しかも派閥横断的に。さらには主要派閥が相次いで自主投票とした。岸田文雄前政調会長が会長を務める岸田派以外は、誰を支持するか態度さえ決められない。一方で、9月3日の菅義偉総理大臣退陣の際には、多数の派閥が離反し、政権を倒すという大きな力を示した。依然としてすごく力あるとも、無くなったともとれる。改めて整理してみた。

※長くなってしまったので前編と後編に分けています。前編は派閥の現状振り返り部分が多いので、よくご存じの方は後編からどうぞ。

第100代総理大臣

 第100代内閣総理大臣が事実上選出される自民党総裁選挙が2021年9月17日に告示された。岸田さん、高市早苗前総務大臣、河野太郎行政改革担当大臣、野田聖子元総務大臣の4人が手を上げた。注目されるのが自民党の派閥の動向だ。

 菅さんは、自民党で初めて派閥に所属しないまま総理になったが、その分、党内の後ろ盾が弱く、政権維持が難しくなってしまいあえなく退陣に追い込まれた。退陣に追い込んだのは、安倍晋三前総理大臣や麻生太郎副総理兼財務大臣のほか、二階俊博幹事長も離反したからだといわれている。「安倍さんと麻生さんv.s.二階さん」の間に挟まれ、身動きが取れなくなり支持率も落ちてしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまった。最終局面で、菅さんが仕事をしている首相官邸に通っていたのは、小泉進次郎環境大臣。菅さんは、最後は同じ神奈川県の選挙区で、同じく派閥の所属していない小泉さんしか頼れる人がいなかった、というのは想像に難くない。

 安倍さん、麻生さん、二階さんの離れただけで何で政権が倒れてしまうのか。それは3人が従える議員の数が多く、支持を得られなければ、総裁選での再選が難しくなるからだ。以下、自民党には7つの派閥がある。

①細田派(清和研究会、会長:細田博之元官房長官、98人)=安倍さんの出身派閥
②竹下派(平成研究会、会長:竹下亘元総務会長、54人)
③麻生派(志公会、会長:麻生さん、54人)
④二階派(志帥会、会長:空席(事実上、二階さん)、47人)
⑤岸田派(宏池会、会長:岸田さん、46人)
⑥石破派(水月会、会長:空席(2020年に石破茂元幹事長が辞職)、19人(休会中含む))
⑦石原派(近未来政治研究会、会長:石原伸晃元環境大臣、11人)

 派閥は木曜日の昼に「例会」という会合を開いてみんなで昼食を取る。現在は、コロナ禍で昼食は避けているが、例会が同じ時間に設定されているため、掛け持ちはできない。所属議員は月の会費を払う。夏ごろには夏季研修会があったり、年に一度派閥のパーティーが催されたり、選挙になったら応援し合ったりと互いに支え合う。派閥とは別に派閥のようなグループが一つある。

1)谷垣グループ(有隣会、代表世話人:中谷元・元防衛大臣、遠藤利明元オリンピックパラリンピック担当大臣)

 谷垣グループだけは水曜日に例会を開いていて、掛け持ちが可能なので、所属の人数は他派閥との重複があるのでここでは明示しない。それぞれの成り立ちや歴史を振り返ると、1派閥の紹介だけで長大になってしまうのでここでは省略するが、基本的には派閥も総裁を出すために集団を作っている。

派閥の変質

 総裁を出すための派閥だが、現実はそうでもなくなっている。今回立候補した中で派閥の会長をしているのは岸田さんだけ。河野さんは麻生派に所属しているし、高市さんに至っては無派閥だ。岸田派と麻生派以外の5派閥は候補者すら立てられていない。一応、河野さんが麻生派の総意を得て出てきた候補でないことは言い添えておく。本来は、次の総裁の座を狙って派閥内で政治家が力を蓄えるべきだが、その意味合いは薄れてきている。

 ちょっと難しくなるので詳しくは書かないが、選挙制度が今のとても長い名前の「小選挙区比例代表並立制」になる以前の中選挙区時代は、派閥に多額のお金が集まり、選挙に「自民党公認」の看板を掲げる許可権を握り、ポストも握っていた。それが今の選挙制度と「政党助成金制度」が始まって派閥の権力は、自民党本部に吸い取られていった。

 ではお金も公認権もない派閥に、なぜ、議員が所属するのか。もちろん、総理候補に魅入られて所属すると言う人はいる。派閥によってカラーもある。細田派は外交面でタカ派で、家族観や皇室を厳格に守る保守は色が強いと言われるし、岸田派は伝統的に軽武装経済重視で、外交的にはハト派とされるなど、違いはある。でも今大きいのは、ポストと情報だ。

①ポスト

 党の役員や閣僚のポストはかなり総裁の好み通りに決められるようになってきたとは言え、派閥の意向は聴取されるし、事実、無派閥の人はポストを得にくい。それは閣僚のようなSPが付くポストだけではなくて、副大臣や政務官といった中堅若手が対象の役職においても、なお派閥の意向が反映される。大臣として初入閣するには衆院当選6~7回目が適齢期とされるが、無派閥の人は、かなり目立った人でないと、大臣になる年次も遅い。

②情報

 もちろん複雑な情報もあるが、「明日、国会が開かれそうか、何時からあるか」「党内でどんな政策が議論されているのか」「選挙のスケジュールは」といった単純な情報も大事だ。

 国会や自民党はとても大きな組織だ。その全体の把握を1人の議員とその秘書だけでカバーするのは到底不可能だ。ましてや当選したばかりの1回生議員が、会期末間近の与党攻防がどうなって、不信任案がいつ出されそうなのか、国会が何時まで開かれるのか、今週末は議員が地元に帰れるのか、といった情報を得るのは不可能に近い。党内でどんな政策の議論が行われているかを知らなければ議員になっても自分の意見が政策に反映させられない。などなど、単純に国会議員になったら全部の情報が勝手に入ってくるわけもなく、と言うかむしろ誰がその世代で総理大臣になるかのレースをしているライバルたちが多い中、情報を取りに行かなければならない。派閥に入っていれば、所属議員がいろいろなポストにいるから、その中では情報が共有される。情報を得やすくなるわけだ。

※後編へ続く

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