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【SNS投稿和訳】マイケル・コフマン氏:ウクライナ現地調査報告

ロシア軍事問題の専門家マイケル・コフマン氏が日本時間2024年7月11日01:44に、直近のウクライナ現地調査から得た知見と自身の見解について、Xで連続投稿しています(原文は上記リンク先)。以下はその日本語訳になります。

なお、訳文中の[  ]内の記述は、訳者による補足です。

日本語訳

直近のウクライナ現地調査後の見解。ウクライナはこれから先の数カ月間、厳しい戦いに直面することになるが、前線の状況は春と比べて改善している。それ以上に心配なのは、ウクライナ側の防空能力と、ロシアによる攻撃が電力網に与えたダメージのほうである。

ウクライナ側のマンパワー、強化防御陣地、弾薬に関する状況は、着実に改善の方向へと向かっている。ロシア軍はドネツィクで前進しているところで、今後、さらに占領地を広げる可能性が高い。しかし、ロシア軍はハルキウ攻勢を利用して、大きな戦線突破につなげることができないでいる。

ハルキウ戦線は安定化しており、この地域での全体的な戦力相関関係はモスクワにとって好ましいものではない。現在、ロシア軍の作戦は次の方面に重点を置いている。それは、チャシウ・ヤール[Chasiv Yar]、トレツィク[Toretsk]、オチェレティネ~ポクロウシク[Ocheretyne-Pokrovsk]であり、それよりも程度は低いがクプヤンシク[Kupyansk]も含まれる。

一見改善しているように思われるが、マンパワー不足問題の是正には時間がかかるだろう。ロシア軍は今後の数カ月間、前進を持続できる可能性が高く、特にドネツィクにおいてそれがいえる。次の2カ月間は、特に厳しい時期になるだろう。

兵器運用に関する米国の政策の変更は、ウクライナがロシア軍のS-300[*注:対空ミサイル]を、これは都市爆撃にも用いられているものだが、これをハルキウ市から遠ざけることを可能にした。この結果、ハルキウ市は息をつく余地を得て、一方でロシア軍は調整を余儀なくされた。とはいえ、この時点で攻勢はすでに限界に達している。

マンパワーのギャップに取り組むことは、依然としてウクライナの最優先課題ではあるが、第一の問題は、ますます防空に関するものになっている。これは、前線を防護する短距離兵器システムと、都市や重要インフラ、後方地域を守る長距離防空の両方に関することだ。

ウクライナが保有している旧式のソヴィエト製兵器用の弾薬は、かなり少ない。その一方で、ロシア側のドローン・ミサイル製造ペースは、ますます上昇している。防空能力不足は、ロシア軍によるUAS[無人航空機システム]を用いた偵察活動の蔓延を招く結果になっており、攻撃成功率の増加にもつながっている。

このことは[ウクライナ側に]有害な影響を及ぼしており、結果として、砲兵は抑え込まれ、後方地域に対するロシア軍の活発な攻撃目標設定は可能になり、前方展開した長射程防空兵器を高リスク状況下にさらすことになっている。ウクライナ軍部隊は新しい対抗策を模索し追及しているところだ。それらには迎撃用FPV[一人称視点]ドローンも含まれるが、必要なのは拡張可能な解決策である。

ザラやオルラン、各種スーパーカム付偵察ドローンが発する電波信号を探知する目的で、[ウクライナ軍]部隊はスペクトラム分析装置を装備している。前線背後でのロシア軍ISR[情報収集・警戒監視・偵察]が持続的に行われていることは、冬になると陣地の隠蔽がより難しくなることもあり、ますます問題になっている。

ロシア軍の滑空爆弾(UMPK/UMPB)はその正確性と射程距離をさらに増しつつある。滑空爆弾は陣地全体を破壊してしまうだけでなく、砲撃と比較して心理的衝撃の度合いが大きい。砲撃した場合は破壊するのに何日もかかるような都市において、滑空爆弾は、そこにある建築物を完全に破壊してしまう。

パトリオット高射隊装備、NASAMS、ホーク[*注:すべて防空ミサイル]の追加供与の約束、それに加えて、ミサイルの輸出先をウクライナに変更することは、今年、大きな変化を生み出しうる。そうであるとはいえ、ロシア軍の爆撃に取り組む目的でパトリオット高射隊を前方に押し上げることは、もしパトリオット隊の防護ができないのならば、危険なものになるだろう。

西側からの砲弾によって、火力面の不均衡は減少しつつある。ハルキウでは比較的均衡がとれており、他の地域では5対1であり、その差は縮まりつつある。ただし、適切な装薬量に関する問題は依然として残っており、ウクライナ軍砲兵は前線近くでの砲撃を余儀なくされている。

新たな動員法の通過後の最初1カ月間、増強された動員によって、著しく多くの男性の入隊が確認されている。ただし、実際に各部隊への補充を行えるようにするため、動員された人々に訓練を受けさせる必要があるため、タイムラグが生じる。

志願兵の人数(動員兵に占める割合)も増加している。ウクライナ国防省は軍役に対するイメージの刷新を進めており、募兵センターを開設することで、各旅団は広告を出すことができ、志願兵には部隊を選らぶ選択肢が提供されている。

ウクライナが国内での基礎的訓練の改善に取り組んでいるとはいえ、ウクライナ国外での集中的な訓練に関して支援を行う必要が、今後も西側に存在する。マンパワーが新たに加わることで、この秋には戦線を安定化させることができ、既存部隊の拡充、部隊ローテーションを可能にする新編旅団の充足も行うことができる。

西側はまた、損失を埋め合わせ、新編部隊に装備を与える目的で、装備品支援パッケージをしっかりと実行する必要がある。そうしなければ、これらの部隊は主として歩兵か、せいぜい機械化旅団にしかならないだろう。ウクライナ軍部隊には、もっと多くのM-113[*注:米国製装甲兵員輸送車]、ブラッドレー[*注:米国製歩兵戦闘車]、基本的な移動時の防護能力が必要だ。

ハルキウ攻勢は、ロシア軍が求めた幅と深さをもつ緩衝地帯の形成をもたらさなかった。しかし、この攻勢は、戦線安定化のためにウクライナ軍予備戦力が引き寄せられるという結果を起こした。それによって、ウクライナ側の戦力は現在、薄く広がっており、部隊が戦線上を横移動することで、間隙が生じる可能性がある。

一方でロシア軍は、大規模な作戦を実施すること、もしくは入念に整えられた防衛網に打ち勝つことに関して、苦慮し続けている。[ロシア軍の]地上攻撃の大半が、突撃グループや突撃分遣隊といった、かなり小型の部隊で遂行されている。これらの部隊規模はさまざまで、ときには8~15人という場合もある一方で、4~6人にまで縮小してしまっている場合もある。

ロシア軍は使用できる装備によって、機械化歩兵、軽車両化歩兵、徒歩移動歩兵を使い分けている。一部の部隊では、バイクやATV[*注:全地形対応車、いわゆる「バギー」のこと]の使用が増加している。こうなった理由の一端は、装備損失を減らすことにあるが、普及した偵察・攻撃ドローンにカバーされた、昔からある整備された防御陣地に対処することが、全般的にできていないこともその理由の一つだ。

このような戦術は、漸進的な戦果をもたらすことができるが、作戦レベルでの大きな突破の成功に導くには適していない。もっと大規模な地上攻撃はロシア軍に犠牲を強いるものになっており、アウジーウカ[Avdiivka]戦の初期に生じたような装備損失の持続に耐える余裕はロシア軍にない。

ウクライナの今後にとって中心的な課題は、ロシア側の爆撃作戦である。シャヘド型ドローンの迎撃はますます容易になっているが、ロシア軍の空中からの攻撃はより巧妙なものになっており、ロシア側のミサイル製造ペースは2022年と比較して、著しく増加している。

ロシア軍の爆撃はウクライナの原子力に依存しない発電の多くを機能不全にさせている。この夏をウクライナは、太陽光発電と夜間の停電によって、何とか乗り切っている。しかし、予想されるギガワット発電出力と需要をみると、ウクライナはこれまでで最も厳しい冬に直面することになる。

この冬、ウクライナに必要とされるのは、だいたい16ギガワットだ。そして、楽観的にみて、同国は12ギガワット分、発電することができるだろう。この数値に到達するには、電力輸入の増加とメガワット規模の多数のガスユニットを組み合わせる必要が生じる。この件に関する詳細は、以下の記事などで確認可能だ。

ウクライナが戦線を安定化できる可能性は高いけれども、防空能力不足及び発電能力不足への対応、ウクライナ自体の打撃・爆撃能力の向上は、これらの要素がこの戦争の行方にかなり大きな意味をもつ可能性があり、西側にとって最優先事項とするべきである。

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