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【SNS投稿和訳】ハルキウ州北部情勢 2024.07.05:過剰投入されるウクライナ軍予備戦力(フィンランド軍予備役将校Pasi Paroinen氏)

上記のリンク先から始まるXの連続投稿(日本時間2024年7月6日02:20投稿)は、ウクライナ領ハルキウ州北部方面におけるウクライナ軍の予備戦力投入状況に関する評価分析です。投稿者のパシ・パロイネン氏はフィンランド軍予備役将校で、同国のOSINT分析チーム「ブラック・バード・グループ」の一員として、ロシア・ウクライナ戦争に関する分析を発信されている方です。

以下は、パロイネン氏のこのX連続投稿の日本語訳になります。なお、当翻訳記事中の画像は、パロイネン氏のX投稿に添付されているものを転載して使用しています。

日本語訳

2024年7月5日。ロシアがハルキウ攻勢を開始してから、2カ月近く経過した。占領した領土の点でみると、ロシア側の成果は限られており、極めて多くの犠牲を出し続けている。ここ1カ月程度の期間、激戦の大半がヴォウチャンシク[Vovchansk]市内でなされている。

ヴォウチャンシク市内では、犠牲の大きな市街戦が行われており、自然と地勢面で戦術的・作戦的ボトルネックになっているこの場所を制しようと、両軍とも活発に動いている。今や完全に廃墟と化してしまったこの小都市に、両軍はかなりの数の部隊を戦闘投入しており、混戦の様相を呈している。

2024年5月16日の連続投稿[*注:以下のリンクはその日本語訳]において、ロシア軍の作戦目標は次の3つであると分析した。一つは緩衝地帯を築くこと、もう一つはハルキウ市を火砲の射程範囲内に置くこと、最後は、ロシア軍夏季攻勢の開始前にウクライナ軍予備戦力を拘束しておくことだ。

これら3つの目標のうち、最初にあげた2つは失敗してしまっており、ロシア軍は攻勢開始当初に獲得した占領地を越えて前進できずにいる。一方で、ウクライナ軍を拘束するという3番目の目標は、ますます成果を収めつつある模様だ。

ハルキウ攻勢は、ほかの場所でのロシア側作戦との関係の面で、連携が取れておらず、タイミングも揃っていなかった。そして、6月の一カ月間、ハルキウ攻勢に続く形での、はっきりとそれと分かるような集中した攻勢の遂行は見られなかった。だが一方で、ロシア軍が自軍の行動連携に失敗したのとまさに同じときに、ウクライナ軍はハルキウ州北部での戦闘に、かなり多くの戦力を過剰に投入した。ウクライナは大まかな数値だが、14個を超える旅団を(旅団全体かその一部隷下部隊かは別として)投入している。その目的は当初、情勢安定化であったが、その後、ロシア軍を国境方向へと押し戻すことに変わった。

とりわけヴォウチャンシクにおける犠牲の大きな厳しい戦闘は、かなりの規模のウクライナ軍部隊を引き寄せることになり、最大で8個の各種旅団に属する部隊が、ヴォウチャンシクでの戦闘に加わっている。ウクライナはこのような部隊投入をするのではなく、予備戦力を節約し、保持しておかなければならないという極めて重要な時期にある。そのようなかでヴォウチャンシクからロシア軍を押し出そうという試みが合理的な行動指針であるとは私には思えない。ヴォウチャンシクはロシア軍にとってボトルネックであるのと同じ程度に、反撃するウクライナ軍にとっても、克服し難いボトルネックなのだ。

一方でウクライナ軍予備戦力は現在、危険なほどに少なくなっている。昨年の秋に設立された第150~154番の旅団は、最後に残されたウクライナ側戦略予備の一部である。しかし、これら旅団の戦闘即応態勢と全般的な能力は、よく言って疑問が残るというレベルである可能性が高い。

未熟で実戦経験のないウクライナ軍旅団は、砲火の洗礼を受けて、ひどい結果を残す傾向がある。ウクライナ軍新編旅団の一つ(第153旅団)は、少なくとも一部の部隊がハルキウ戦線に投入されているようだ。けれども、現時点でそれはドローン部隊のみであるという可能性もありうる。

この夏のロシア軍の前進状況全般は、現状、ひどく遅いもので、かつ犠牲の大きなものであるが、ウクライナ軍司令官たちは消耗して疲れ切った部隊を、あちらの危機的な地区からこちらの危機的な地区へと移動させることを、常に強いられている。

部隊ローテーションは依然としてウクライナ軍にとっての「アキレス腱」になっている。その理由は、通信連絡の不備、ずさんな計画、適切な予備戦力の全般的な不足にある。なお、このような不幸の最も新しい事例が、チャシウ・ヤール[Chasiv Yar]の肉挽き場からトレツィク地区への配置転換を直線的に行った第41機械化旅団に生じた。

今にところ、このような危機は一つずつにしか起こっておらず、ウクライナは大きな犠牲と大きな困難に見舞われながら、情勢悪化を食い止め、情勢を安定化させることができている。しかし、ついにこのような危機が同時多発的に起き始めることになったら、そのとき何が起こることになるのだろうか?

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