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【Twitter スレッド和訳】バフムートについて(@RALee85氏)

*注1: Rob Lee氏のツイートは、日本時間2023年3月21日03:15の投稿。
*注2: イメージ画像 https://www.cnn.com/2023/03/23/europe/bakhmut-ukraine-counter-offensive-intl/index.html より。

バフムートに関するスレッド。戦術的状況を語る前に、戦略的文脈のなかに置いてみることが重要だ。ウクライナはハルキウとヘルソンでの攻勢を成功裡に実施したが、その前にロシア軍はドンバス戦期の消耗によって、戦線を脆弱な状態にしていた。

ヘルソンからのロシア軍撤退が成功し、動員を行ったことが、戦線安定化の一助になり、クレミンナへ向かうウクライナの進撃を食い止めた。さらに重要な戦果をあげる目的で、ウクライナは時間を稼ぐための防衛を続けた。その時間とは、NATO装備の新部隊の編成と訓練に必要な時間である。

6カ月以上も前にバフムートの戦いは始まった。しかし、両軍がヘルソンからバフムートへと戦力の再配置を行ったことで、この冬の期間、バフムート戦が焦点になった。それゆえ、バフムートは両軍によって、ある程度の政治的重要性を帯びることになった。

1月下旬、ロシアは冬季攻勢を開始した。ロシア軍は戦線上の複数地区での進撃を試みており、わずかだが占領地を広げた。ヴフレダルのような幾つかの地域では、ロシア軍はウクライナ軍と比べて、かなり甚大な損失を被っている。

ロシアはまたバフムートでも大きな損失を出し続けているが、その損耗率は、ロシア軍が両側面(これらは高地に位置する)を制したことで、変化した。ロシア軍の両側面の確保だが、1月の南側面と2月中・下旬の北側面で始まり、それには2月25日のヤヒドネ制圧も含まれる。

バフムート中心部には強固な建築物と工場があるけれども、同市の両側面は地下室のない家屋で構成されている。そのような家屋が一旦、攻撃目標になると、それらはもはや戦闘場所として有用ではなくなる。両側面でロシア軍が進撃したことで、主要補給路はロシア軍直接射撃の範囲内になった。

新たに動員された兵士は戦力の埋め合わせとしてバフムートへ送られている。そして、その部隊はそれらの兵士を適切に訓練する時間が十分にない。動員兵を前線に送り込むのか、それとも動員兵を春季攻勢用の新編部隊に送り込むのか。これはトレードオフの関係にある。

3週間の期間、ロシア軍の砲撃力は低下したが、2月の終わりには増加した。その際、相対的に重要な役割を示したのが第106空挺師団であって、ワグネルと空挺軍(VDV)のよりよい協調関係もそこに重なった。バフムートにおいて、ロシアはかなりの火力優勢に保持している。

ワグネルの指揮官は、自らに適した方法で戦い、弱点(しばしば地域防衛部隊が意図的に目標にされる)を発見し、それを利用するための、より大きな裁量権と柔軟性を与えられている。あるワグネル部隊が夜に行動すると、別の部隊は日中のみ行動する。ワグネルの囚人兵に撤退は許されていない。

バフムートがロシアにとって問題なのは、宣言した目標がドンバス全土の確保なのに、ロシア軍はバフムート以外の方面からクラマトルシク・スロヴヤンシクへの進撃に苦戦しているからだ。また、バフムートは依然として、ウクライナがドンバスの自国支配地域を防衛する際の重要点である。

ウクライナは春季攻勢用の3個軍団に所属する新部隊の編成と訓練を優先して行っており、それと並行して、前線全体を保持しようと努めている。しかし、これらは優先度の上で相反するものである。そして、ウクライナは予備戦力を意図的にキープしている。

このことが、ウクライナは負けつつあるという印象を与えているのかもしれない。しかし実際には、ウクライナは前線にリソースすべてを投じていない。ウクライナは、ロシア軍が現下の攻勢で成し得る以上の新たな大規模な突破をこの春に達成する、よりよい好機をつかんでいる。

ロシアは攻撃を実施するために、少ない数の精鋭部隊(海軍歩兵、VDV、ワグネルのプロ集団等)に依存している。しかし、相対的に大きな戦力と火力を投入して、時間のかかる、犠牲の大きい勝利を目指す方法を取ることで、ロシア軍は自らを削りながら、じりじりと進むことができる。消耗戦はウクライナの利益にならない。

攻勢発動までの戦略としてウクライナに最善なのは、好ましい消耗率を実現でき、より少ない弾薬消費で済む戦場を選ぶことだ。その戦略を取れば、今後数ヶ月間、ウクライナ軍の攻勢ポテンシャルが奪われることなしに、ロシア軍の防御能力を弱体化させることができるだろう。

バフムートでの消耗率はこの戦闘の期間、有利に働いていたけれども、その消耗率は現在、ロシア軍が同市両側面の高地を押さえたことにより、あまり好ましいものではなくなっている。ロシア側損失の多くが、ウクライナ兵と比べて軍事的価値の低い受刑者たちである。

これとは対照的に、ヴフレダルでロシア軍精鋭部隊から生じた死傷者は、バフムートよりも多い。そして、ワグネルによる受刑者投入が、非市街領域において同じように効果的であるかどうかははっきりとしない。

今後起こるウクライナ軍攻勢は、戦略的に極めて重要で、決定的なものになる可能性がある。弾薬も含めた西側の援助は、今年の春・夏にピークを迎える可能性が高い。そして火砲生産能力の増強が達成されるには、何年もかかるだろう。

ウクライナは航空優勢を持てないだろうし、過去にハルキウで直面したよりも強力なロシア軍防衛網に直面することになるだろう。そして、砲撃力と戦力の面でのみ局地的な優位を達成できることになる可能性が高い。その攻勢に最大の成功のチャンスを与えるために、キーウにはリソースの節約が必要となる。

ウクライナ側にリスクのない選択肢はない。後ろ向きな作戦は危険であって、バフムートからの撤退はシヴェルシクや他の場所にかかる圧力が増す結果になり得る。そして、撤退した場合、後日、ウクライナがこの都市を奪還できるという保証は存在しない。

一方で、バフムート(今や消耗率は好ましくない)の保持を続けるために必要な部隊を投じることによって、戦略的により重要な春季攻勢に利用する戦力の一定数がウクライナから奪われるというリスクがある。

別のリスクとして、ロシア軍がチャシウ・ヤール北方の高地を占領しようと、今後、西進を続けるというものがある。その場所はクラマトルシクとスロヴヤンシクを保持するために防御がし易い地形である。また、包囲もリスクだ。

バフムート包囲はロシアにとって、ウクライナに深刻な敗北を与えるための最高の機会だ。VDVの第106空挺師団がより大きな役割を果たしており、ロシア国防省はさらに多くのリソースを投入して、残っている補給線の遮断を優先して行おうとする可能性が高い。

今まさに泥濘期が始まった。この季節は撤退もしくは増援を困難にする可能性がある。ロシア軍がO0506舗装道路にもっと近づいてくる場合はとりわけそうなる。泥濘によって、装輪式車両の使用が限定される可能性もある。

マリウポリやその他無数の戦闘と同様に、ウクライナ軍はバフムートで勇敢に守備を続け、ロシアに甚大な損害を与え続けている。そのことが、ウクライナの春季攻勢を支援することになっている可能性は高い。しかし、過去1カ月間、情勢は悪化しつつある。

ウクライナはどうすべきか? 私には分からない。それは白黒付けられる問題ではなく、不確実性が存在する。ロシアはこの都市を奪取しようと過剰展開し、自らを反撃に対して脆弱な状況においている可能性がある。究極的には、ウクライナがどこでリスクを負う選択をするのかという問題だ。

昨年の春と夏のロシア軍ドンバス攻勢の戦略的帰結が、秋のウクライナ軍攻勢のあとになるまでは、完全に明らかにならなかったこととまさに同じように、バフムートで続く防衛戦が正しい行動であったのかどうかは、おそらくウクライナ攻勢のあとにならないと明らかにはならないのだろう。

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