本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年12月7日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ロシア軍の人的損失と新規募兵数の関係
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ロシア軍はウクライナの戦線全体で損失を被り続けているが、その損失のペースは、ロシアが現在継続している新戦力創出のペースにかなり近い可能性がある。12月7日、ウクライナ陸軍司令部報道官のウォロディミル・フィティオ大佐は、ロシア軍がクプヤンシク、リマン、バフムートの各方面で2023年11月にだいたい11,000人の将兵(おそらく死亡もしくは負傷により戦場を離れた者を指していると思われる)を失ったことを伝えた。クプヤンシク、リマン、バフムートの各方面における作戦の進み方はアウジーウカ方面のそれと比較して、現状、激しいものではない。上述の損失報告から推察できるのは、アウジーウカ方面でのロシア軍の損失率がほかの方面よりも高いということである。その理由はアウジーウカでの作戦進行の度合いが、ほかの地区よりも激しいことにある。ウクライナ当局者の以前の報告によると、10月10日から26日にかけてロシア軍はアウジーウカ周辺とマリインカ(ドネツィク市の西方)付近で合計5,000人の死者及び負傷者を出したとのことで、この期間は、ロシア軍がアウジーウカ占領を目指して、機械化部隊による激しい攻撃を2回行った時期にあたる。ウクライナ当局者は、ロシア側の防衛任務の取り組みも同様に甚大な死傷者を生み出す結果になっていることを極めて明確に示しており、それに加えて、ヘルソン州東岸(左岸)でウクライナ軍が、10月17日から11月17日の間に1,200人を超えるロシア将兵を殺害したことも伝えている。ウクライナ軍はザポリージャ州西部での攻勢作戦を継続しており、ここの戦線の防衛にあたるロシア軍に、同じような損失を与えている可能性も高い。ISWはウクライナ提供のロシア軍死傷者数の真偽を裏付けることができず、ウクライナにおけるロシア軍死傷者数に関する信頼できる数字を入手することもできない。ウクライナ提供の数字がおおむね正確なものであれば、この数字は、ウクライナにおけるロシア軍の作戦が全般的に極度に消耗の激しいものであることを示唆しており、ロシア軍の損失は、アウジーウカ周辺の極端に犠牲の大きいロシア軍攻勢作戦の結果だけが理由とはいえないことも示している。
ロシア・ウクライナ双方の当局者は、ロシアが行っている非公然動員の取り組みの結果、1カ月におよそ20,000人から40,000人の兵力が生み出されていることを常々伝えている。2023年の春と夏にウクライナ当局者は、ロシアは一月あたり20,000人の人員を、非公然動員の取り組みを通して、兵士として集めていることを報じていた。また、ウクライナ当局者は、ハルキウ〜ルハンシク州戦線のロシア軍部隊集団に夏以降、変化がないことを報告している。このことは、この地域への新兵の投入は、ロシア軍の損失を埋め合わせているものであって、この部隊集団の戦力増にはなっていないことを示唆している。ロシア連邦安全保障会議副議長のドミトリー・メドヴェージェフは以前、ロシア軍は11月9日から12月1日の間に42,000人の兵員募集に成功したと主張した。前線におけるロシア側死傷者数に関するウクライナ側の数字は、20,000人という一月の募兵人数を超えている可能性があり、メドヴェージェフがあげたもっと多い人数に近いということさえありうる。ウクライナにおける最近のロシア軍の作戦行動は、前線上の複数の地区を増強するために、新たに編成した戦力不足の部隊を急ぎウクライナに投入することを、ロシア軍に迫る結果になった。そして、このことは、作戦予備や戦略予備を形成し、ロシア地上軍の再建を進めるというロシア側の長期的な努力を妨げている。募兵人数にせよ死傷者数にせよ、今年の間ずっと数値が揺れ動いている可能性は高く、入手可能な数値はすべて誇大に示されている可能性も高い。ただ、報告された数字は、戦況観察の内容と一致している。また、ロシア軍の新兵募兵数の多さが報じれているにも関わらず、ロシア軍はウクライナにおいて現状の兵員充足レベルを持続することしかできていないという、ほかのウクライナ側報告とも一致している。ロシア軍が軍事行動の継続と並行して、現在の規模で戦力をつくり出す取り組みを継続する場合、ロシア側の死傷者数の多さは、ロシア軍がウクライナに展開している既存部隊の補充と再建を行うことを妨げ、また、新たに作戦予備戦力や戦略予備戦力を編成することも妨げることになる可能性が高い。その一方で、ウラジーミル・プーチン大統領がこのことに伴って生じる国内への諸影響に向かい合って、それに耐える意志と能力を有している限り、ロシアはこのような人的損失を許容し、新たに集めた兵士で損失を埋め合わせることを続けていくことができるようにみえる。