見出し画像

【内容紹介】ISW報告特別版(17.09.2023)“ロシア軍予備を南部から遠ざけているウクライナ軍のバフムート攻勢”

ウクライナ軍は2023年6月、ザポリージャ州方面に重点を置いた反攻作戦を開始しましたが、その一方で同国東部のバフムート方面でも攻勢を行っています。南部に戦力を集中するべきであるという意見もあるなか、ISWはバフムート攻勢によって、ロシア軍のなかの優良部隊である空挺軍(VDV)の相当数がザポリージャ方面に展開できなくなっている点に注目し、ウクライナ軍のバフムート作戦を意義あるものとして評価しています。

この報告書特別版で示されたISWの見解を知るために、まず冒頭の「要点」を引用します(和訳は著者による)。

要点:ウクライナ軍は現在、バフムート南方に位置する二つの小さな町の解放を祝っているところだ。だが一方で、バフムート周辺でまずは防衛作戦を行い、そして現在反攻作戦を実施しているというウクライナ側の取り組み全般は、かなり不当な批判の的になっている。2022年夏季から続く、バフムート地区でのウクライナ軍の防衛作戦と反攻作戦は、作戦的にみて適切な取り組みであって、それによって大規模なロシア軍戦力を拘束し続けている。仮にウクライナ側のバフムートでの取り組みがなければ、この拘束されている戦力は、ウクライナ南部のロシア軍防衛強化のために利用されることになっただろう。ロシア空挺軍(VDV)の4個空挺師団のうちの2個師団と4個独立旅団のうちの3個旅団に属する部隊が、現在、バフムート地域の防衛に当たっている。このことは重要なウクライナ側の成果であり、ロシア軍がVDV部隊による大規模な機動作戦予備を作ることを妨げる一助になっている。このVDV戦力は、ザポリージャ州に重点を置くウクライナ軍反攻作戦の取り組みを食い止めるために使われることになった可能性がある戦力なのだ。バフムート周辺における大規模なウクライナ軍反攻作戦の取り組みの継続は、ロシア軍戦力をこの地域に引き続き釘付けにしておくために必要なことだ。そして、最近、1個VDV独立旅団からの分遣隊がバフムートからウクライナ南部に再配置された可能性が高く、この出来事は、ウクライナ軍のバフムート方面反攻によって拘束されている戦力を、ロシア軍がどれほど回収したがっているかということを示している。

“Ukraine’s Operations in Bakhmut Have Kept Russian Reserves Away from the South”, ISW

ウクライナ軍のバフムート攻勢がロシア軍戦力を誘引していることを指摘する意見はほかでもみられますが、ISWはその誘引されている戦力が、ロシア空挺軍(VDV)であることを強調しています。それは、VDV部隊がロシア軍のなかで最も質の高い機動部隊であるからで、このような部隊がザポリージャ方面に投入されることは、ウクライナ軍反攻の重点地区での作戦進捗をかなり妨げることになりうるからです。

ISWの分析によると、現在のバフムート方面には、9月17日現在で以下の作戦単位に所属する部隊が展開中とのことです。なお、以下で示す各部隊は、その全戦力の展開を表しているわけではありません。

  • 第106空挺師団の2個連隊(第137と第51)

  • 第98空挺師団の1個連隊(第217連隊の存在が8月上旬に確認済みだが、現時点の状況は不明)

  • 第11独立空中強襲旅団

  • 第31独立空中強襲旅団

  • 第83独立空中強襲旅団

2023年9月17日時点でのバフムート方面におけるVDVの展開状況

そして、バフムート以外に展開しているVDV部隊は、クレミンナ方面で第98VDV師団の第331連隊と第76VDV師団が確認されており、南部のヘルソン方面で第7VDV師団と第45親衛スペツナズ旅団が確認されていました。

そして、9月17日現在、ザポリージャ州西部ロボティネ方面で、第7VDV師団とおそらく第45親衛スペツナズ旅団の展開が確認されています。また、クレミンナの第76VDV師団も1個連隊をそこに残して、残りの2個連隊をロボティネ方面に再配置しています。

2023年9月17日時点でのロボティネ方面におけるVDVの展開状況

バフムートの第83VDV旅団の一部がロボティネ方面に送られたことを除くと、ロシア軍VDVの相当規模の部隊がバフムートから離れられなくなっている様子が分かります。このことが、ウクライナ軍のバフムート攻勢が成し遂げた成果だとISWは評価します。

2023年9月17日時点でのウクライナ戦域におけるVDVの展開状況

一方でウクライナ軍がバフムートで攻勢を行うことで、攻勢戦力を分散させてしまっているという批判があります。それに対してISWは、バフムート攻勢を行わないことでロシア軍が南部にもっと多くの戦力を投入できるメリットと比べて、ウクライナ軍が南部に戦力を集中できるメリットは小さいと指摘しています。

ウクライナ南部でロシア軍が築いた重厚な防御陣地、それを支える火力支援と航空支援、さらにウクライナ軍の地雷除去装備の乏しさと諸兵科連合作戦遂行能力の低さを考えると、ウクライナが南部に多くの戦力を投入することが、ロシア軍防衛線突破の困難さを緩和することにはならないかもしれないと、ISWは指摘しています。南部と比べて防御力が弱いバフムート方面で攻勢を行い、ロシア軍の有力な戦力をそこに拘束したほうが、ウクライナ軍にとって有益であるとISWは考えているのです。

以上がISW報告書特別版の簡単な内容紹介になります。

なお、注意事項としてISWは、この報告書がウクライナ軍作戦計画の全体的な評価を提供するものでもなく、ザポリージャ州方面でのウクライナ軍戦術・作戦の有効性について見解を指摘するものでもないと述べています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?