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【報告抄訳】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 2030 ET 26.07.2023 “ウクライナ軍、ザポリージャ州西部でロシア軍防衛線突破の動き”

以下は、ISW(戦争研究所)2023年7月26日付ウクライナ情勢報告の一部を、抜粋して日本語に訳したものになります。

①(https://understandingwar.org/sites/default/files/July%2026%20Russian%20Offensive%20Campaign%20Assessment%20PDF_0.pdf)
②(https://understandingwar.org/sites/default/files/July%2026%20Russian%20Offensive%20Campaign%20Assessment%20PDF_0.pdf)

7月26日、ウクライナ軍はザポリージャ州西部において、相当な意味をもつ機械化部隊による反攻作戦を発動し、オリヒウ南方に位置する予め準備されたロシア軍防御陣地を何処かの地点で突破した模様だ。ロシア国防省と複数の有名軍事ブロガー等のロシア側情報源の主張によると、ウクライナ軍はロボチネ(オリヒウ南方10km)方向で激しい正面攻撃に着手し、この集落の北東方向にあるロシア軍防御陣地を突破したとのことだ。撮影地点が分かる動画を見ると、この攻撃の間、ウクライナ軍はロボチネの真東2.5km圏内で前進し、その後、ロシア軍はドクトリンに沿った柔軟防御を展開してウクライナ軍部隊をある程度押し戻したが、すべてを攻撃発起点まで押し戻せなかったことが分かる。

攻撃及びそれで生じたウクライナ側損失の規模に関して、ロシア側情報筋は幅広い様々な見解を表明しており、このことは実際の結果と実際のウクライナ側損失が依然として不透明であることを示している。ロシア国防省は、最大3個大隊がオリヒウ付近の「集中攻撃」に加わったと主張したが、現時点で、このような大兵力(1個旅団すべて)が今回の攻撃に参加したことを示す映像資料を、ISWは確認していない。著名なロシア軍事ブロガーの一人は、ウクライナ軍が80両を超える装甲車両を投入したと主張したが、ほかの軍事ブロガーはもっと控えめな主張をしており、投入車両数は30〜40両に近い数だとしている。それに加えて、ロシア軍が破壊した装甲車両の数について、様々なロシア軍事ブロガーが互いに異なる主張をした。ISWは今のところ、戦線のこの地域におけるNASAのFIRMS/VIIRセンサーの大規模な熱異常情報を確認していない。なお、この種の熱異常情報は、これまで大規模な機械化部隊の進撃に伴って現れていた。以前のウクライナ軍攻撃の規模やその結果生じたウクライナ側損失に関するロシア軍事ブロガーの主張は、今回と比べると、互いに一致する傾向が一般的にみられたが、今回、複数の有名軍事ブロガーのなかで意見が一致しておらず、そのことが示しているのは、状況はあまり明確に掴めていないままであって、それゆえ、ロシア側情報発信者が評価判断する以上にウクライナ軍が成功している可能性があるということだ。

ロボチネ周辺の地理空間的戦場形状(戦場の幾何学/the Battlefield geometry)、それに加えて、該当地区でのロシア軍防衛部隊の戦力構成が、ウクライナ軍の攻撃とその成果にまつわる推測に重要な意味合いをもたらしている。7月27日以降の撮影地点が分かる動画に、ロボチネの真東方向約2.5kmで使用不能になった、または遺棄されたウクライナ軍のブラッドレー2両とT-72戦車1両が映っている。その地点は、現在の前線から約2.5km南方にある。この特定された地点は、ロボチネ地区で予め用意されたロシア軍第一防御陣地の背後にあたる。このことから、ウクライナ軍に戦術的な課題をもたらしていた防御陣地を、同軍が何とか貫通突破し、そこを抜けて突進したことを示している。ISWが以前評価分析したように、この種の突破戦闘は、ずっと後方への突破を目指すウクライナ軍が成し遂げなければならないことのなかで、最も困難なものの一つだろう。ロボチネからもっと南方にある防衛戦は、この第一線防御陣地に比べて配置兵力が少ない可能性が高い。このことは、ロボチネ北方と東方の第一線防御陣地に兵員配置するために、ロシア軍が投入可能戦力のかなりの割合をそこに送り込まねばならなかった可能性が高いことから考えられることだ。

ウクライナ軍はこの作戦のために新鮮な部隊をこの地域に交代投入していた模様で、その一方でロシア軍に部隊ローテーションや休息、もしくはこの地域への相当数の増援がなかったことは明らかで、同じロシア軍がずっと戦線に釘付けにされたままである。ロシア軍事ブロガーと匿名のペンタゴン当局者は、7月26日の攻撃に加わったウクライナ軍は予備部隊で、以前から存在する高評価な複数個の旅団に所属していることにも言及している。この報告は、ウクライナ軍が今や戦場に休養十分で経験豊富な部隊を投入しているということを示しており、その一方でロシア側では、6月上旬のウクライナ軍反攻開始以降、休息が与えられることのないまま、ロシア第58諸兵科連合軍(特に第42自動車化狙撃師団第71自動車化狙撃連隊)が継続して、まさにこの地域の防衛作戦にあたっていた。今回の任務に新鮮なウクライナ軍予備が投入されたことは、ロシア軍防衛線の地理空間的形状と、この地域のロシア軍戦力の状態がおそらく全体的に低下していることが伴って、ウクライナ軍がこれからの数週間、オリヒウ南方方向でさらに前進を成功させられる可能性を生じさせている。

西側とウクライナ側の当局者はともに、このロボチネ方向への攻撃がウクライナ軍反攻遂行における分岐点を示すことを示唆している。ニューヨーク・タイムズ紙の7月27日付報道は、匿名のペンタゴン当局者2名の発言を引用する形で、ウクライナ軍の「主攻撃」が本格的に始まったと報じた。西側当局者のコメントによると、ロシア軍防御陣地を排除するために段階的に進めていった最近のウクライナ軍の作戦、第58諸兵科連合軍司令官イワン・ポポフ少将解任に伴うロシア軍指揮体制の変更、ウクライナ南部のロシア軍集積地点に対する継続的なウクライナ軍の砲爆撃を考えると、今がウクライナ軍にとって絶好のタイミングであるとのことだ。なお、ここであげられているポイントすべては、ISWのウクライナ南部戦況評価と一致している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンシキー大統領はまた、7月27日の夜間談話において、ウクライナ軍は「本日、とてもよい結果を示し」たが、より詳しい話は後日伝えることになると、仄めかすような発言をした。

ロボチネ周辺における本日の諸動向は、これが攻撃のすべてを示しているというよりも、ウクライナが取り掛かっていると思われる何らかの「主攻撃」の開始である可能性が高い。ロシア国防省はウクライナ軍投入部隊を3個大隊と大きく見積もっており、3個大隊は1個旅団に相当するわけだが、その主張を受け入れたとしても、ウクライナは反攻用に用意した複数の未投入旅団を、まだ予備としてもっていると考えられている。

西側当局者は、ウクライナ軍が達成できる可能性の低い、迅速かつ劇的な進撃への期待感を無益に高めており、さらに、間違いなく公に共有されるべきものではないウクライナ軍進撃方向に関する予測も、無益に示している。ウクライナ軍は反攻作戦において重要な戦果をあげることができると、ISWは引き続き評価指定いるが、このような戦果は、休止状態に陥ったり、重層的に連なるロシア軍防衛線に到達した際のより緩慢でじりじりと進行していく時期を迎えたりしながら、長いタイムスパンを通して生じていく可能性が高い。そして、ウクライナ軍には休息とローテーションも必要となる。

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