【一部内容要旨】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 1855 ET 09.11.2023 “ヘルソンとバフムート、それぞれでロシア軍が抱える問題”
本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年11月9日付ウクライナ情勢評価報告の一部内容の要約紹介記事です。記述内容の理解が捗るように、ISW制作の戦況地図を添付しましたが、記事中すべての地名がそこに掲載されているわけではありません。地図の上でより詳細に戦況を把握したい方は、ISWインタラクティヴ・マップで確認してください(ここをクリック)。なお、インタラクティヴ・マップでの地名検索に役立てるよう、記事中の地名は初出時にラテン文字表記(ISW報告書の表記に準拠)もカタカナ表記のあとに記載してあります。
ウクライナ軍ヘルソン作戦に対するロシア側の対応とその問題
戦争研究所(ISW)は11月9日付ウクライナ情勢報告において、ロシア軍は今後、ヘルソン州でのウクライナ軍作戦に対応する目的で、有効な戦闘力をもつ増援戦力を他の地区から引き抜くことに苦慮することになる可能性が高いと指摘しています。
まず、ヘルソン州方面戦況報告を以下にまとめます。以下は11月9日以降のロシア軍事ブロガーの主張です。
ウクライナ軍はクリンキ(Krynky)集落内の新たな展開拠点を固め、同集落の南方及び南西でロシア軍陣地に向かって攻撃した。
ウクライナ軍はクリンキ南方の森林地帯へ進んだ。
ウクライナ軍はポイマ(Poyma)付近、ピシチャニウカ(Pishchanivka)付近、ピドステプネ(Pidstepne)付近で攻撃を行った。また、ピドステプネとコザチ・ラヘリ(Kozachi Laheri)の間で陣地を構築しようとしている。
また、ウクライナ人軍事ウォッチャーのコンスタンティン・マショベツによると、「11月9日時点でウクライナ軍はポイマの北のアントニウシキー鉄道橋からオレシキー(Oleshky)の北のアントニウシキー道路橋の間にある陣地を継続的に支配下に置いており、オレクシーとノヴァ・カホウカ(Nova Kakhovka)を結ぶ道路を、少なくとも2地域で遮断している」とのことです。
さて、ヘルソン方面のロシア軍戦力ですが、主力は第22軍団(第18諸兵科連合軍、以前は黒海艦隊に所属)と第70自動車化狙撃師団隷下部隊であり、そこに第177海軍歩兵連隊(カスピ小艦隊)が加わっている模様です。なお、第18諸兵科連合軍には、ヘルソン方面に配置された上述以外の部隊も組み込まれていることが伝えれていますが、それらの部隊が新鮮な戦力である可能性、もしくは規定通りに兵力充足している可能性は低いとISWは判断しています。
また、第177海軍歩兵連隊隷下部隊は以前、ザポリージャ州西部での防衛作戦を、ウクライナ軍反攻のほぼ全期間、担当しており、甚大な数の死傷者が生じている可能性が高いと考えられます。11月5日にロシア国防省は第7親衛空挺師団隷下部隊がヘルソン方面で作戦行動中であると発表しましたが、同師団の主力はいまだにザポリージャ州西部での防衛作戦にあたっている模様です。マショベツは11月2日と9日の投稿で、第7親衛空挺師団隷下の第171空中強襲大隊(第97連隊)がピシチャニウカ付近とポイマ付近で行動中であると指摘しています。なお、第177大隊がウクライナ軍反攻開始時点からヘルソン方面にいるのか、最近になって配置転換されて送られてきたのかは不明です。
ロシア南部軍管区に属する第49諸兵科連合軍隷下部隊が、2022年11月のウクライナ軍ヘルソン市解放以降、ヘルソン方面で任にあたっている模様ですが、ロシア・ウクライナ双方の情報筋の一部は、同軍隷下旅団の少なくとも1個がザポリージャ・ドネツィク州境地域にその後に送られていると主張しています。マショベツは、第49軍隷下部隊は今でもロシア軍「ドニエプル」部隊集団の一部をなしており、同軍の第205自動車化狙撃旅団が2023年8月末時点で東岸で行動していた模様だったと主張しています。
上述の状況からISWは、ヘルソン方面のロシア側戦力が不十分である場合でも、ロシア軍が他の戦線から部隊を配置転換することはかなり難しくなる可能性が高いという評価を示します。また、ザポリージャ州西部から第7親衛空挺師団の、もしくは他の空挺軍部隊からの、相当規模の部隊をヘルソン方面に送ったことが事実なら、そのことがザポリージャ州西部方面でのロシア軍防衛作戦の阻害要因になる可能性は高くなるでしょう。また、ロシア軍は現在、アウジーウカ周辺での攻勢とハルキウ・ルハンシク方面での局地的攻勢のために、それらの方面での戦力集結を続けています。この状況下でヘルソン方面に戦力再配置を進めることは、他地区でのロシア軍作戦の持続を困難にする可能性が高いと、ISWは分析しています。
場当たり的なロシア軍のバフムート方面局地的攻勢
ISWによると、ロシア軍はバフムート(Bakhmut)方面で場当たり的な攻勢を始めており、その結果、ここ数日間、バフムート周辺での地上攻撃が激化しているとのことです。ウクライナ軍参謀本部は、11月8〜9日の2日間でバフムート北西及び南西で30回近くのロシア軍の攻撃があったと報じており、これは普段のウクライナ軍参謀本部発表と比べて、注目に値するほどにかなり多い回数になります。
ロシア軍事ブロガーは、クリシチーウカ(Klishchiivka)にロシア軍が進入したと主張しており、ウクライナ軍をこの集落の北東から東にかけて通る鉄道線から押し出したと主張しています。11月9日にウェブ上で公開された動画(撮影地点特定済み)から、ロシア軍がクリシチーウカ方向へ前進していることが分かり、この集落の真東にあり、鉄道線の西側にある陣地を、ロシア軍が保持していることが分かります。ロシア軍がアンドリーウカ(Andriivka)内外の陣地からウクライナ軍を追い出したというロシア側情報筋の主張もあります。ただし、この情報を裏付ける証拠を、ISWは確認していないとのことです。
ロシア軍はまた、バフムート北西のベルヒウカ〜ボフダニウカ(Berkhivka- Bohdanivka)方面でも進撃しているとロシア軍事ブロガーが主張しています。ロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がウィリャノウァ養苗場(the Vilyanova plant nursery)に向かって、ベルヒウカ貯水池の南側で前進したと述べています。なお、11月7日頃からの動画(撮影地点特定済み)によって、ロシア軍がベルヒウカ貯水池の南側、バフムートから南西約3kmの地点で前進していることが確認できます。
このロシア軍の動きをISWは、「場当たり的な戦術レベルの地上攻撃である可能性が高い」と分析しており、ウクライナの軍事リソースがバフムートから移されたという情報に便乗することを意図していると判断しています。このウクライナ側の軍事リソース移転ですが、ロシア軍事ブロガーの一部は、ここ数日間、バフムート方面でのウクライナ側砲撃が減少していることを報じており、そのことからこれらの軍事ブロガーは、ウクライナ軍が戦力をある程度、バフムート方面から引き抜いたと考えているようです。
ウクライナ側の活動減少につけ込んで、ロシア軍がバフムート方面での局地的な攻撃を発動し、成功をおさめた可能性は高いのですが、ロシア軍はこの攻勢を、戦局に影響を及ぼすようなさらに大きな作戦へと進展させていくことは困難であると、ISWは分析しています。ISWはその理由を、ロシア軍がアウジーウカ方面とハルキウ・ルハンシク州方面に兵力と装備を投入し続けているため、バフムート方面のロシア軍戦力は弱体であることにおいています。
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