本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年3月31日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ方面でロシア軍が機械化部隊を投入した意味
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
3月30日にウクライナ軍はドネツィク州アウジーウカ周辺で、機械化部隊による大隊規模のロシア軍の攻撃を撃退した模様だ。このロシア軍の攻撃は、2023年10月に同軍がアウジーウカ奪取を目指した戦役を開始して以降、最初となる大隊規模での機械化部隊攻撃である。3月31日にウクライナ軍兵士の一人は、第6戦車連隊(中央軍管区[CMD]第90戦車師団)隷下部隊を含むロシア軍が、戦車36両とBMP歩兵戦闘車(IFV)12両を投入して、3月30日に大規模な機械化部隊による攻撃を行ったことを伝えた。3月31日公開の撮影地点特定可能な画像に、トネニケから北西の方向に位置する道路上で、多くのロシア軍装甲車両・戦車が破壊されたり、損傷を受けたりしている様子が示されている。このウクライナ軍兵士によると、攻撃された際にウクライナ軍は戦車12両とIFV8両を撃破したとのことだ。また、今回のロシア軍の正面攻撃によって、ウクライナ軍前線が突破されることはなかったと、この兵士は述べた。今回の件は、ロシア軍のアウジーウカ占領後に第90戦車師団隷下部隊の戦闘参加を伝えた、初めての報告になると思われる。また、第90戦車師団に属する部隊は、ほかのロシア軍の部隊とともに、まだ戦闘に投入されていない大規模な予備戦力となっており、ロシア軍統帥部はこれらの予備戦力を、アウジーウカの西方での進撃を継続・強化する目的で投入できるという評価分析を、ISWは以前に示した。とはいえ、第6戦車連隊隷下部隊はトネニケ周辺での3月30日の攻撃に失敗した模様だ。このことは、まだ戦闘に投入されていないアウジーウカ周辺のロシア軍作戦予備部隊の戦力が、短期的なスパンでロシア軍の西進をさらに先導していくには低下しすぎている、もしくは、これらの予備部隊ではそうすることができないということを示唆している。
3月30日のロシア軍機械化部隊攻撃の規模は、重要な意味をもつ。2023年10月後半にロシア軍がアウジーウカ奪取を意図した局地的攻勢を開始した際は別として、それ以降、同軍はこれほどの規模の機械化部隊による攻撃を行ってこなかった。なお、2023年10月後半のアウジーウカ戦開始時、ウクライナ軍が50両ほどのロシア軍戦車と100両を超えるロシア軍装甲車両を、2023年10月19日から20日の間に撃破したことが伝えられている。とりわけアウジーウカ周辺という、同市陥落後、ウクライナ軍が新たな防衛陣地に急ぎ後退せざるを得なかった地域において、ウクライナ軍が3月30日の攻撃を撃退できたということは、今後のロシア軍の大規模攻撃と、予期される2024年ロシア軍夏季攻勢にウクライナが抵抗できることを示す良い指標である。砲弾不足・兵力面の制約・西側からの支援の遅れに直面するなか、ウクライナ当局者は、当然のことではあるが、予想されるロシア軍夏季攻勢を退けるのに必要なウクライナ軍の防衛能力に関して、警告を発し続けている。また、ウクライナ軍はトネニケ周辺のロシア軍攻撃に対する防衛に関して、かなりの規模の物資消費を迫られた可能性がある。すでに乏しくなっている、防衛に必要な物資とマンパワーの予備分のかなり大きな部分を、ウクライナが投入せざるを得なくさせるような攻撃を、ロシア軍が実行できることを、このことは浮き彫りにしている。さまざまな問題を抱えるなか、戦線上の極めて重要な地区でロシア軍の大規模攻撃をうまく退ける能力をウクライナ軍がもっていることを示したことは、ウクライナ軍に適切な装備が与えられた場合、同軍が戦場における大きな効果を発揮できることを示唆している。
ロシア軍統帥部が、ドネツィク州アウジーウカ周辺の優先度を、現在、高く設定している可能性がある。アウジーウカ周辺に大隊に相当する規模の戦車を投入する意志をロシア軍統帥部が示したことは、この攻撃が優先度の高い取り組みであったことを示している。ドネツィク州西部でロシア軍がわずかだが着実に前進していることを利用できると期待して、2024年の晩春または夏に、ロシア軍統帥部は予測されている攻勢の重点を、この地域に置くつもりなのかもしれない。ロシア軍がハルキウ~ルハンシク作戦軸、バフムート周辺、アウジーウカ周辺、ザポリッジャ州西部で兵力を集結させつつあると、ウクライナ当局者は最近、警告し続けている。しかし、ロシア自体もマンパワー面と作戦立案面での制約があるため、ロシア軍は連携のとれた大規模攻勢作戦を、いちどきに一つの作戦方面でしか遂行できない可能性が高いと、ISWは引き続き評価判断している。