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【記事紹介】ウクライナ軍戦術の方針転換(2023年8月2日付NYT紙記事)

8月2日付のニューヨーク・タイムズ紙記事(“西側が訓練したウクライナ軍部隊、戦場でよろめく”)によると、ウクライナ軍は、当初想定した諸兵科連合部隊によるロシア軍防衛網突破という構想から、「砲兵と長距離ミサイルによってロシア軍戦力を消耗させていくことを重視」する方向へと方針転換を図っているとのことだ。西側諸国はウクライナ軍が諸兵科連合作戦を遂行するために、新戦力の創設とその訓練に注力してきたはずだが、どこに問題があったのだろうか。それについて、ロシア軍事の専門家マイケル・コフマンは次のように指摘する。

「数カ月間の訓練でウクライナ軍部隊を、米軍ならこう戦うであろうという方法での戦いがもっとできるように変えていけるという前提に、おそらく問題があったのだろう。その結果、ウクライナ軍がやり方を知っている最善の戦い方で、もっと戦えるように支援するのではなく、同軍を入念に用意されたロシア軍防衛網へ突っ込ませることになった」

“Ukrainian Troops Trained by the West Stumble in Battle”, NYT, 02.08.2023

同じくロシア軍事の専門家であるロブ・リーはウクライナ軍の準備期間の短さを指摘する。

「新装備の訓練期間と部隊の一体性を育む期間は短く、その状況でウクライナ軍は最も困難な戦況のなかへと投げ込まれた。そして、ウクライナ軍は信じられないほど厳しい状況に置かれたのだ」

“Ukrainian Troops Trained by the West Stumble in Battle”, NYT, 02.08.2023

また、ウクライナ情勢報告を行っている“Conflict Intelligence Team”は8月2〜3日情勢報告において、このニューヨーク・タイムズ紙記事を紹介しつつ、西側による訓練の内容そのものに関して疑念を示す。

「言及しておかなければならないのは、西側でのウクライナ軍部隊の訓練を記録した写真や動画の報道を見ると、現状、演習の中心は警察の特殊任務に似た内容になっているということだ。具体的には、低層市街環境下での装甲車両からの降車展開、建築物への襲撃と一階ずつの掃討任務というものだ。一方、包括的な諸兵科連合任務の訓練、もしくは広域な地雷原と幅広く使われるドローンのような、現下の戦争に特有の課題の克服を指向した訓練が行われている形跡は、ほとんどないといっていいほど確認されていない。

米軍式戦術は空と陸で完全な優勢を得ることを主たる目的としているが、この戦争において両軍はほぼ拮抗した状態のようだ。ここ数週間でウクライナ軍は、軍需品保管庫と指揮所を狙った砲撃・ミサイル攻撃を実施する戦術を採用した模様で、そのような攻撃を、歩兵戦闘車と戦車の小部隊を含む軍用車両による散発的な出撃で補完している」

“Sitrep for Aug. 2-3, 2023 (as of 8 a.m.)”, CIT

さて、このような状況を考えると、ウクライナ軍が諸兵科連合戦から消耗戦へと方向転換するのは仕方がないのかもしれない。しかし、消耗戦は砲弾の大量使用を伴う。そしてそれはロシアの土俵で戦うことを意味する。NYT紙記事によると、ロシアのプーチン大統領は戦争を長期化させ、ウクライナとその支援国を疲弊させるという戦略をとる兆候を多く示しているという。ウクライナの消耗戦への回帰は、砲弾消費戦を続けていくことになる。それはプーチンの土俵であって、ウクライナにとって不利に働く。

しかし、ウクライナが完全に諸兵科連合戦術を捨て去ったわけではないという指摘もある。元NATO軍最高司令官のブリードラヴ米空軍退役大将は「ウクライナ軍が防衛線の第一層か第二層、もしくは第三層を突破することになったら、諸兵科連合戦をはっきりと見ることになると思う」と語る。

また、NYT紙が取材した西側当局者には、ロシア軍が依然として兵站能力・人員・装備といった面での難題に直面していることを指摘する者もいる。

そして、ウクライナ軍の戦術変更がどのような結果をもたらすのかは、まだ分からない。

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