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【SNS英文投稿和訳】ウクライナ戦況全般に関するいくつかの見解(ウクライナ軍元将校Tatarigami氏 | 日本時間2024.08.30 06:02)

以下は、上記リンク先のウクライナ戦況に関するSNS英文投稿の日本語訳です。投稿者のTatarigami氏はウクライナ軍の元将校で、戦争・紛争分析チーム「フロンテリジェンス・インサイト」の創設者です。

なお、翻訳記事中の[  ]内の記述は、訳者による補足になります。

日本語訳

現在の[ウクライナに関する]全般的状況に関する簡単な評価を示し、数点の重要ポイントに関して意見を述べることで、私はいくつか見解を皆さんと共有したいと考えている。

  • ポクロウシク[Pokrovsk]情勢は実際のところ厳しいものではあるが、希望が無くなったわけではない。ウクライナ軍統帥部は安定化に必要なリソースをもっている。けれども、このリソースを使うことには、おそらく国民に不人気な、困難な意思決定が必要になるだろう。

  • リソース不足の要因は、国内外双方に存在する。国内的には、遅くなった動員、効率の悪い募兵プロセス、指揮統制における悪習、政府が苦心して行っている世論と必要な措置との間のバランス調整といったものが、この問題のなかに含まれている。対外的には、西側からの支援の遅れ、終わりのみえない武器使用制限、不十分な軍需生産拡大、スピーディーに進まない支援物資分配が、この問題の要因になっている。

  • ポクロウシクでの問題は今に始まったことではない。米国議会内孤立主義派の妨害で生じた米国からの支援の遅延によって、ロシア軍はより容易にアウジーウカ[Avdiivka]を落とすことができた。これに加え、アウジーウカ後背地区での不十分な防衛態勢が、さらに悪い状況を生み出した。この防衛の状況を、ウクライナ指導部はあえて見ないようにし、責任を、すでに過剰展開されたうえに兵力が充足していない旅団群に押しつけた。

  • ポクロウシク情勢はクルスク攻勢の結果、悪化した。クルスク攻勢は経験豊富で士気の高い旅団群を引き離し、安定化用予備戦力をはぎとってしまい、その結果、ロシア軍が迅速に前進することを許してしまった。これはまた、バフムート[Bakhmut]を思い出させる。バフムートにおいて、タイミングのよい撤退を選ばずに、経験豊富な将兵を半ば包囲されたこの小都市への増援として送り込むという決断は、有能な兵士と将校の多くを失う結果に終わり、何個かの高い戦闘能力を有する部隊の中核を弱体化させた。

  • 西側による対ロシア制裁が完全なかたちで執行されたことは一度もなく、ロシアは戦前の軍需生産を維持できており、それの拡張すらできている。西側諸国の一部は、戦後に元通りになろうとして、「バックドア」を開けたままにしたのではないかと、このような寛大さは示唆している。そして、ロシアは予期された経済破局を伴うことなく、募兵の支出を大きく増額できている。

  • ロシアは現在、親ウクライナ派アナリストが推定する以上に良好な状態にあるが、親ロシア派が描き出しているよりは弱い。兵力、予算、社会的支援のいずれの視点でみても、無限のリソースがロシアにあるわけではない。ロシアを打ち破ることは可能だ。だが、ウクライナと西側の支援国・機関が同じ誤りを繰り返すのなら、今後、ロシアを打ち破ることはできない。

  • 誤りは、豊富な物資によって軽減できる。ロシア側に誤りがあったにもかかわらず、ロシアがこの戦争を持続できている主な理由は、ロシア側の物質的優位性にある。不幸なことに、ウクライナに同じ規模のリソースはなく、西側にはウクライナの誤りがもたらすコストを担おうとする意向があまりない。コストを負担しないことが、将来、西側にとってさらなるコストになるのだとしても、そうなのだ。

  • プロパガンダとは異なり、ウクライナが対峙しているのは、世界で最も高い能力をもつ軍隊の一つだ。18世紀、19世紀、20世紀のロシア軍を歴史的に比較してみると、驚くべきほどに類似性があることが明らかになる。そして、この過去のロシア軍は幾多の大規模戦争に勝利してきたのだ。だから、ウクライナ軍兵士が実際に成し遂げてきたことは、軽んじられてよいものではない。

  • ロシアは現在、戦力目標を達成できずにいる。ロシアの戦略目標とは、具体的にいえば、キーウの現政権の解体、ウクライナをロシアに従属する国家に変えるということだ。この戦争はロシアにとって、予想以上に好ましくないものになっている。そして、完全にウクライナを占領できなければ、ロシアは、あらゆる努力をしているにもかかわらず、ウクライナをロシア影響圏に再び組み込むことはできないだろう。

  • 遅かれ早かれ、「戦争の凍結」と和平交渉に関する議論が、またメディアに登場するだろう。このことは、外国からの軍事支援は最低限しかなく、安全保障上の担保もない戦後のウクライナのほうが、現状よりも好ましいという見方を示唆している。現実には、このような状況が生じた場合、ロシアはかなり大きな優位性を得ることができ、ロシアはもっと成功する可能性の高い侵略を準備していくことができるようになる。

  • もし西側が心からこの戦争を早期に終わらせたいと考えるのなら、今のこの時こそ、ウクライナが和平交渉において強い立場を確保するのに必要な支援を、ウクライナに供与する最善の時期なのだ。有利な立場がないままでウクライナに和平交渉を強要しても、うまくいかないだろう。これはまさに、ミンスク合意Ⅰ・Ⅱが結局のところ失敗に終わったのと同じことになる。

最後に伝えたいことは、ウクライナは分の悪い賭けをひっくり返し、勝利を掴みとる能力をこれまで繰り返し示してきたということだ。キーウ、チェルニヒウ、スーミの防衛の際も、ハルキウでの反攻の際も、へルソン解放の際も、そうだった。ロシア領内奥地にある目標への攻撃を成功させていること、黒海艦隊に大損害を与えていること、数十万人の犠牲をロシアに与えていること、これらは2022年1月には考えられなかったことなのだ。

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