本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月3日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
“ロシア軍の機械化部隊攻撃、激化の兆候”ほか
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ロシア軍は過去2週間以内の期間で戦線上の一部地区において、機械化部隊による地上攻撃の回数と規模を増加させた模様で、戦域全体におけるロシア軍機械化部隊攻撃の全般的増加をはっきりと示している。3月20日にウクライナ当局者は、ウクライナ軍がリマン方面で大規模なロシア軍の攻撃を撃退したと発表し、テルニー[クレミンナの西方]の東方でウクライナ軍が数両のロシア軍装甲車両に損傷を与えた、もしくは破壊したことを示す撮影地点特定可能な動画を公開した。その後のことになるが、ウクライナ軍は3月30日にトネニケ[アウジーウカの西方]周辺で1個大隊規模のロシア軍の機械化部隊攻撃を撃退している。伝えられた情報によると、ロシア軍はこの攻撃に少なくとも戦車36両・BMP歩兵戦闘車(IFV)12両を投入したとのことだ。ウクライナ兵の一人は、トネニケ周辺で攻撃された際、ウクライナ軍が少なくともロシア軍の戦車12両とIFV8両を撃破したと語った。2023年10月にロシア軍がアウジーウカ占領戦を開始して以降、ロシア軍が全戦線上でこの規模の機械化部隊攻撃を遂行したのは、ほかに1例しかない可能性が高く、それはやはりテルニー周辺での1月20日の攻撃だった。4月3日公開の撮影地点特定可能な動画に、おおむね増強小隊規模のロシア軍機械化部隊攻撃をテルニー付近で撃退するウクライナ軍が示されている。この4月3日公開の動画は最近のものである可能性が高く、テルニー付近でのロシア軍攻撃が撮影されている3月20日公開の動画とは別のものだ。大地の泥濘化が春にいっそう本格的になり、機械化部隊による機動戦の遂行がさらに難しくなる前に、ロシア軍は機械化部隊による攻撃を強化しているのかもしれない。ロシア軍はまた、予想されている西側からの安全保障支援が到着する前に、ウクライナ側の物資不足につけ込もうとして、機械化部隊攻撃を強化しているのかもしれない。
ロシア軍がウクライナにおける攻勢作戦の全体的なテンポを上げている可能性がある。ロシア軍機械化部隊攻撃の激化は、ウクライナのエネルギー・インフラに対するミサイル・ドローン空爆の激化とほぼ同時期に起きている。ロシア軍は、たとえば3月22日に水力発電所を攻撃するというように、新たなパターンで空爆を開始することで、ウクライナへの空爆作戦をエスカレートさせた。ロシア軍は地上作戦を支える航空任務をより安全に強化する目的で、ウクライナ軍防空システムを前線から遠ざけざるを得なくなるようウクライナ軍統帥部にさらなる圧力をかけるために、爆撃を激化させている可能性がある。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコンスタンティン・マショヴェツは、ロシア軍が物資と兵員を、少しずつ増えるようなかたちで段階的に前線展開地点へと移動させており、ウクライナ軍がロシア側の集結状況を監視することを困難にしていると報告した。このことは、ロシア軍が大規模な攻撃作戦を準備しつつあることを示唆している。4月3日に米国のカート・キャンベル国務副長官は、ロシアが過去数カ月間で「軍事的な再編成をほぼ完全に完了している」という米国の評価を明かした。この発言から推察できるのは、ロシアが目下遂行中の攻勢作戦をかなり強化するために、もしくは、戦域の新たな地域で攻勢を発動するために十分な規模のマンパワーと物資を準備しつつある、または、すでに有しているかもしれないということである。
ウクライナへの新たな西側製兵器システムの到着が小出しであったり、遅延したりすることが、これらの兵器システムがウクライナにもたらしていたかもしれない可能性のある作戦的有用性にロシア軍が対応してしまう、または、その有用性をロシア軍が相殺させてしまうことを許すことになることを、ウクライナ側情報筋は強調し続けている。[中略]タイミングよく西側製兵器システムが到着したならば、ウクライナ軍がロシア軍の力をかなり削ぐことができるようになる、もしくは、ロシア軍にわずかな戦術的な戦果ですら与えないことができるようになる可能性は高く、それと同時に、作戦レベルで重要な意味をもつ大規模反攻作戦に必要な能力をウクライナ軍に与えることになる可能性も高い。